八話 《竹林の戦い2》
「...ッ!?」
居合を放つ。
それで俺は勝ったはずだった。
だが、俺の目の前では双子がピンピンしている。
周囲は居合の余波によって無残な状態だったが、双子がいたところだけは無傷。
代わりに俺の身体には擦り傷ではあるが、斬撃と刺突によるダメージが入っている。
「おいおい、オーラは解放するとは言ったけどよ、根源術はまだ使っちゃ駄目だろ」
根源術。
簡単に言ってしまえばスキルのようなものだ。
オーラと同じように人によって異なり、常に発動しているものもあれば、必殺技のように強力な一撃を放つものもある。
「いや、ごめんごめん。《聖者の加護》はオーラを出すと勝手に発動しちゃうものだからさ。止めようがないんだ」
剣が舌をペロッと出して弁解する。
何だっけ。確か、確率で干渉を無効にする根源術だった気がする。
ここぞというところで発動されるとマジで腹が立つ。
「まぁ、擦り傷で済んだからいいけど。それはそうと、予期しなかったとしても使ったんだから、俺も使ったとしても文句は言えねぇよな?」
俺は口角を吊り上げ、他人から見たらさぞ愉しそうに見えるだろう笑みを浮かべる。
「それは君の勝手だよ。私たちが先に使っちゃったんだからね」
「君のポリシーに反しないのであれば、使うがいいさ」
俺のポリシーねぇ...。
「いいや、あれはまだ使わねぇ。ただ、お前らは好きに使えよ。そうしねぇと俺も力を出せないからな」
まだ終わらせるには惜しい。もう少しだけ楽しもうかな。
「おっと、時間がないよ。もう少ししたらそっちが勝っちゃうだろうからね。わたしたちももっと楽しもうよ!」
そう言って剣が距離を詰めてくる。
「ハァッ!」
常人には斬線すら視覚できない一撃。
さっきのように受け流すか。そう思った矢先、縦の斬撃が突如軌道を変え、俺の足元を斬り払おうと牙を剥く。
少しばかり驚いたが、落ち着いて刀の切っ先を地面に向け鎬で防ぐ。何とか直撃は免れたものの、なにぶん一撃が重かった。
流石は西洋剣。「斬る」刀とはわけが違う。「斬る」だけでなく「殴る」こともできる西洋剣は刀と同じ、いや、それ以上に応用性がある。そこも使いこなせて一流の剣士と呼べるのだが。
「剣!どいて!」
突然戦の声が聞こえ、剣が俺から離れる。
すると、まるで彗星のような刺突を空中から放ってくる戦が目に映った。オーラによる圧縮強化か...!
「くっ!」
剣の斬撃を無理に防いだせいで隙だらけの今では回避は難しい。それなら!
ガキィン!と金属が打ちあう音が鳴り響き、刺突が目の前で止まる。
刀の腹で刺突を止めたのだ。
「僕の刺突を見切るとはね、まったく恐ろしい」
「おかげさんでこっちは腕が痺れてるぜ。よくもまぁあんな刺突を放てるもん...だ!」
槍を払い、横薙ぎに刀を振るう。
だが、またしても横から入ってきた剣に抑えられる。
間髪入れずにまた刺突がくる。
「ちっ!」
身体を捻って何とか回避する。
二体一はこれだから、と思う暇もなく双子のコンビネーションを見せつけられる。
刺突が来たと思えば斬撃が来て、狙う位置も的確だ。
刀と鞘、極限まで身体を酷使しても、それでも防ぎきれない。
少しずつ、だが確実に俺の身体に傷がついていく。
「流石に分が悪い、根源術を使わせてもらうぞ!」
絶え間なく続く双子の攻撃。
だがあと少しだ。あと少しダメージを受ければ...。
次の一撃、戦の刺突が肩を軽く抉った。
来た!
パチン、と頭の中で何かが外れた感覚がする。
瞬間、身体の奥から力が湧いてくる。
今までは防戦一方だったがここから攻勢だ!
「らあっ!」
刺突と斬撃を受け止め、力任せに押しのける。
「あっちゃー、外れちゃったかー」
俺の根源術、《諸刃の剣》。
受けたダメージの量に応じて自身のリミッターが外れていく。
「ははっ!ようやく1つ外れたか!さぁ、行くぞ!」
俺が双子に向かって駆け出した、瞬間。
パァン!
「あ?」
思わず声に出てしまった。そうさ、この音は。
『第一部隊隊長、空都政宗くんが第七部隊、雨音轟くんによって倒され戦闘不能になりました。よって、第一部隊対第七部隊の試合は第七部隊の勝利です』