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三話 《狼煙》

ガラリと部屋の扉が開かれ、俺の予想通りの人が現れた。

大量の書類を胸に抱えたその女性は水野みずの瑞希みずきさん。

一応この学校の教員で、第七部隊の担任。

とはいっても、この学校には授業と呼べるものはほとんどなく、大抵が訓練や演習だ。

そのため、ここの教員は先生よりかは、教官と呼ばれる事の方が多い。

だが、瑞希さんは堅苦しいのは苦手らしく、歳もそれなりに近い事もあり、俺たちには友達のように接してくれる。

「みんな、おはよう」

「おはようございます、瑞希さん」

俺に続き各々が挨拶する。

「元気でいい事だ。それはそうと、また演習を取り付けてきたよ」

瑞希さんは俺たちがろくに訓練もできないのを知って、よく他の学校との合同演習を取り付けてきてくれるのだ。

そのおかげで俺たちは評価不足での退学を免れているわけだけれども、それでも割とギリギリだったりするんだ。まぁ、俺たちが最低の部隊と呼ばれているのは伊達じゃないんだ。嬉しくないけどね。

「ちょっと、そこの机開けてくれるか?」

さっきまでトランプをしていた机を瑞希さんが顎で示す。

轟が数秒でトランプを片付けると、瑞希さんが書類を机にドサッと置いた。

みんなが束に分けられた書類の一つを取り上げ、パラパラと眺める。

「本当に毎回ありがとうございます」

シルヴィアが礼を言うと、瑞希さんは少し照れくさそうにする。

いつも冷静な瑞希さんには珍しい表情だ。

「いや、別に感謝されるほどの事でもないよ。担任が生徒の為に何かしてあげるのは当然だろう?」

こういうあたり、瑞希さんは本当にいい人だと思う。

いつも迷惑かけてるのに目立った評価も貰えないとは、我ながら不甲斐ない。とはいえ、ある意味では目立っているのだが。悪目立ちというかなんというか。

そろそろ本気で行かないとガチで退学にされそうなんだよなぁ。うちの学園長はそのへんマジに脅してくるからな。

「ん?ちょっと待ってくれ」

唐突に轟が声を上げた。

「何だよ、轟」

俺がそう言うと、轟は眺めていた資料を突きつけてきた。

知り合いの少ない俺でもわかる。

そこに書いてあったのは第一部隊の隊長のプロフィールだった。

「って、はぁ!?」

俺は思わず轟から資料を奪い取り、そのページを食い入るように見つめた。

しかし、何度瞬きしようと、何度瞼を擦ろうとも資料の内容は変わらなかった。

「瑞希さん!これどういう事すか?!」

轟が俺にしたように、瑞希さんに資料を突きつける。

「いや、どういう事も何も、その通りさ。次の演習はここの第一部隊とだ。それも試合形式。これは決定事項だよ」

おいおい、マジかよ。

言ったように、第一部隊はここの最強の部隊だ。

そんな奴らと演習かよ。

俺は大きくため息を吐いた。

そんな俺の横で桜華さんがニヤリと笑った。

「いいじゃんか。次は第一部隊とだって?最高だろ」

あーあ、桜華さんはすっかりやる気だ。

こうなったらもう止められない。戦闘大好きの桜華さんの悪い癖だよ。

とはいえ、俺も他人の事を言えた義理ではないのだが。

「分かりましたよ。やってやりますよ。みんな、いいよな?」

俺がそう問うと、皆が頷いた。

「やったぜ、久しぶりに暴れられそうだ!」

桜華さんが嬉しさのあまり、膝の上に乗っかっている鈴音ちゃんをひょいっと持ち上げる。

「うわぁ!やめてくださいってば!」

鈴音ちゃんは手足をバタバタさせ、拘束を振りほどこうとする。

そんな鈴音ちゃんをスルーして桜華さんが俺の方を向く。

「さすが!やっぱり、うちの隊長さんは最高だなぁ!」

「からかうのはやめてよ。それに、そろそろ成果を上げておかないと、さすがにやばいよ?」

「そこまで考えているとは、やはりさすがだな!そうだ、ご褒美をやろう!」

鈴音ちゃんを宙に放り投げ、俺に飛びついてくる桜華さん。

「ちょっ!やめてよ桜華さん!俺をいじりたいだけだろ!」

桜花さんは椅子に座る俺の足にまたがり、首に腕をかけてマウントをとる。

「どうされたいんだ?教えてくれよ」

いやらしい笑みを浮かべて俺をからかってくる。

「誰か助けて!」

俺は他の連中に助けを求めるが、どうなるかわかっているため、完全に無視される。

誰か仲間はいないのか!

「焦っちゃって。よしよし」

「頭撫でないでくれ!」

もう、本当にやめてくれ。

俺の気持ちを知っていてこんな事してくるのだから困るんだ。

俺は桜華さんが好きなのに。あの時から返事を聞いてないんだぞ。

「ねぇ桜華さん。いつになったら俺の想いに応えてくれるの?」

「ふっふーん♪いつだろうねぇ?永時くんがわたしに勝てたら答えてあげなくもないんだけどねぇ」

またそうやって、答えをぼかす。タチが悪いぜ。

まぁ、俺だって桜華さんに釣り合う男にならなきゃいけないのはわかる。

だから、次の戦いは絶対勝たないと。

第七部隊のために、桜華さんのために。

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