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十話 《少し変わった日常》

神々の襲撃まであと三週間。あの後に学園長にそう伝えられた。

いや、試合から一週間が経ったから、あと二週間てところか。

学園長の話の通り、俺たちは《メシア》で新たに発足する《キャリアー》という部隊に入り、神と戦うことになった。

とはいえ、《キャリアー》は現時点では名目上の部隊であるらしく、今度の襲撃で《キャリアー》として動くかは分からないのだそうだ。

そのために俺たちは、特に本部に呼ばれることもなく、いつも通りの日常を過ごしていた。

いや、少し違うか。

第七部隊の部屋の前には人だかりが出来ていた。

非公式ではあったものの、第一部隊との試合で俺たちが勝ったことが何故か全校に流出し、今の現状だ。

そりゃ、今まで一度も表に出たことが無いような俺たちが第一部隊を負かせば、まぁビッグニュースだろうよ。

それでも、表に出る度に生徒に囲まれたり、部屋の前で騒がれたらたまったもんじゃない。

「今日も今日とてうるせぇなぁ...」

頭にきて恨みがましく呟いてみる。

毎日毎日追っ払い、部屋の鍵までかけているというのにこの有様だ。これは当分収まりそうにない。

くそ、昼飯時だってのに飯も食いに行けねぇじゃねぇか。

「やれやれ、正面から出るのはさすがに面倒だし、こっそり窓から出てどこかに食べに行こうか」

桜華さんがいつも通り鈴音ちゃんをいじりながら出した案に満場一致で賛成する。

よし、そうと決まればさっそく離脱だ。

幸い、窓から見える範囲には生徒はいない。

窓を開けて、一人一人出る。

轟とシルヴィアに続いて俺が出る。

俺が出た後には鈴音ちゃんが出ようとしていた。

だが、鈴音ちゃんは窓枠に手をかけるものの自力でよじ登れないというかわいらしい光景が目に映った。

俺は軽く越えられるが、どうやら身長の小さい鈴音ちゃんには少し辛いようだ。

「ほら、鈴音ちゃん。大丈夫?」

俺は外から鈴音ちゃんの両脇を抱えてひょいっと持ち上げると、そのまま外に出してゆっくりと立たせてあげた。

「ありがとうございます、永時さん」

「どういたしまして」

本当にいい子だなぁ。

それに比べて。

「永時く〜ん。わたしも持ち上げてくれよ〜」

桜華さんは窓枠にぐったりと寄りかかっていた。

「桜華さんなら余裕で行けるだろ?」

「やだ!面倒だ!」

窓から離脱するという意見を出した張本人がこれかよ。そういうグータラなところも含めて好きなんだけどさ。

「早くしてくれないと、ご飯食べに行けないぞ」

「自分で動けばいいでしょ...」

俺は大きくため息を吐いた。

「わたしの身体に合法的に触れるぞ?」

「やります!」

そう言われたらノーとは言えないだろう。

つか、桜華さん、軽々と男に身体を許しすぎでは?もう少し警戒心を持ってもらいたい。いや、俺はけっしてそんな事はしないけども。

「それじゃ、失礼して」

ゆっくりと桜華さんの脇に腕を通して持ち上げる。

ちょっと待て。これ、窓の位置的に無理じゃね?

おそらく、俺が全力で持ち上げても桜華さんの足が窓に引っかかるだろう。

とりあえず持ち上げられるところまで持ち上げて、と。

「あとは窓枠に足掛ければ行けるでしょ。ほら」

桜華さんは「面倒くさい」と呟きながらも窓枠に足を掛けてやっと外に出てくる。

「はぁ、疲れた」

「桜華さん何にもしてないじゃん...」

俺はまたため息を吐くが、まぁ桜華さんに触れられたので結果オーライとしよう。

「さて、さっさとご飯食べに行こうか」

さっきまで疲れたとか言ってたのはどこへやら、意気揚々と先陣を切る桜華さん。

俺もやれやれとちゃっかり桜華さんの隣を歩く。

「お?珍しくわたしの隣を歩くねぇ。そこは鈴音のポジションだぞ?」

「好きな人の隣を歩くのに理由がいる?」

再びちゃっかり告ってみる。

「相変わらずの一方通行な片思いだね」

また桜華さんはにやにや笑うだけ。

「桜華さんが固すぎるんだって」

「だったらそれをぶち破るぐらいの覚悟で来るなら、もしかしたらもしかするかもよ?」

「それができたら苦労はしないよ」

いやまったく、本当に苦労するね。

すると、突然人の気配を感じた。

気を探ると、その気配は近くの木の陰から感じた。

「そこの木に隠れてる奴、出てこい」

俺がそう言うと、木の後ろから薄いピンクの髪の女の子が出てきた。

そして、その子はズンズンとした足取りで轟に近づくと。

「アンタに惚れた!アタシと付き合ってくれ!」

誰も予想だにしないことを言い放った。

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