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ルチア、祝福される

 手をつないで先ほどの場所に戻ると、まだ皆さんはそこにいらっしゃいました。あっと思って手を放そうとしましたが、セレスさんは放してはくれません。待って、皆見てるんですけど!


「おや、話は終わったかい?」


 普段こういうことに踏み込んでこない団長様がニコニコと訊いてきました。その後ろで殿下もにこやかに笑っています。うわ、もう恥ずかしすぎますって……!


「どうも」


 団長様に固い反応を返すセレスさんは、まだ警戒しているみたいでした。なんだか毛を逆立ててる猫みたいで可愛いって言ったら怒られるでしょうか?


「ルチア、なにかされなかった!?」

「えっ、なにって」


 殿下の側にたたずんでいたマリアさんは、わたしの姿を認めた途端飛んできました。ぱたぱたと服を叩かれ、無事を確かめられます。真剣な面持ちで身体検査をするマリアさんに、セレスさんが渋い顔をしました。


「聖女様は俺のことをなんだと思ってるんですか」

「え? 普段ヘタレのくせに暴走すると手に負えないむっつり」

「…………」


 容赦ないマリアさんの返答に、セレスさんの顔が引き攣ります。マリアさん、相手がどんなイケメンさんでも容赦ないんですね。


「あっ、なにこれ?」


 身体検査をしていたマリアさんは、興味津々でわたしの手に嵌められた腕輪に触れました。注目されるとなんだか気恥ずかしいです。


「へぇ~、プレゼント? なによ、やっぱヘタレなんじゃない。プロポーズのひとつでもしたかと思ったのに! なにやってんのよ!」

「きゅきゅっ」


 小首をかしげるマリアさんの肩から、珍しくシロがこっちへやってきます。最近ずっとマリアさんにべったりだったから、久しぶりですね。

 わたしの腕を伝って肩に乗ったシロも、マリアさんと同じように腕輪を覗き込みました。これ、シロも気になるんですか……。そんなに見られると、ホント身の置き所がないというか、恥ずかしいです。


「とうとう行動したか。遅いぞ」

「おめでとうございます」

「ありがとうございます……」


 殿下と団長様から祝福のお言葉をいただいて、思わず赤面してしまいます。注目され慣れてないわたしは、こういうときにどういう反応を返していいかがわかりません。蚊の鳴くような声でお礼を言うのが精一杯です。


「どういうことよ? え? プロポーズはされたわけ? 指輪じゃないの、そういうときって」

「こちらの世界では求婚の際、銀の腕輪を渡すんですよ。指輪を贈るのは貴族や王族ですね」


 怪訝そうなマリアさんに、団長様が説明します。マリアさんはすごく意外そうにわたしの腕輪を眺めました。


「腕輪なの!? へぇ~、だからエドたちはすぐわかったんだ。でもこれ、木だよ?」

「正式なのはアールタッドに戻ってから贈るつもりです」

「あっそ。でもルチア、おめでとう~! なんか同い年なのに婚約とか、ちょっとびっくりよ」

「マリアさんだって殿下と婚約予定じゃないですか」


 改めて抱き着いてくるマリアさんにそう尋ねると、きょとんとした顔をされました。一拍おいて「ああ」とマリアさんは頷きます。


「そういえばそうね。忘れてたわ」

「忘れ……ちょっと、マリア、こっちにおいで?」

「うん、後でね!」


 あっけらかんとしたマリアさんを、少し焦ったような殿下の声が呼びます。殿下とべったり仲良しさんだったころのマリアさんからは考えられないドライな反応に、わたしもびっくりです。どうしちゃったんですか!


「気持ちが満たされてると男なんてどうでもよくなるものなのね。初めて知ったわ。それよりルチアが結婚なんてさみしいよ~。セレスにあげたくないなぁ~。ちょっとセレス! ホント、大事にしてよね!? 泣かせたらただじゃおかないし! どんな手段を使ってでも破滅に追い込んでやるから!」

「泣かせませんよ」


 あっけなく殿下を袖にしたマリアさんは、きっとまなじりをきつくするとセレスさんを睨みつけました。わたしを大事に思ってくれているマリアさんの気持ちがくすぐったくも嬉しくて仕方ないんですが、反面殿下に申し訳なくて、どう反応していいか困ります。殿下、無表情でこちらを見ないでください!


「マリアはホント僕を振り回してくれるよね」

「そういうのが楽しいって言ってたでしょ、エド。お望み通り振り回してあげてるだけだけど?」

「痴話喧嘩はお二人でおやりください、殿下。聖女様も殿下を煽りすぎるとあとで困りますよ」

「困るかどうかはやってみないとわかんないし~。今、あたしは女の友情に目醒めてんの。恋愛もいいけど、友達っていいもんよね! だからセレス、ルチア返して」

「きゅきゅ~!」

「嫌です。いくら聖女様といえど、お渡しすることはできません」

「セレスティーノ、さっさとルチア連れて行きなよ。マリア、パーティのことについて話があるんだけど」

「あたしはルチアと迷子になってる最中なの。バラバラになったら兵隊さんに怒られちゃうし。だからセレス、ルチア連れて行くのは却下!」


 わたしを挟んで火花を散らすマリアさんとセレスさんの後ろで、冷気を漂わせる殿下とそれをいさめる団長様というカオスな空間に、思わず現実逃避したくなりました。どういう状況ですか、これは!

 そういえば、似たようなシーンを以前見たことがあります。ジーナさんとジーノさんが再現付きで熱く語っていたお芝居のシーンだったんですが、ちょうどこんな感じで主人公を二人の男性が取り合うというものでした。が、まさか自分が取り合われる立場になるとは思いませんでしたよ!

 双方から手をつかまれたわたしは、途方に暮れて空を見上げました。うん、いい天気ですね! お洗濯したいです!

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