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ルチア、セレスから特大の贈り物をされる

 団長様にたしなめられた殿下は、ちょっと人の悪そうな笑みを浮かべて、わたしとセレスさんに向き直りました。普段は柔和な笑顔の殿下ですが、こんな表情もされるんですね……って違います!


「で? どうするの、君たち。他国の王の前で嘘つく?」

「……殿下」


 心底楽しそうにニコニコする殿下に、セレスさんが地を這うような、ものすごく低い低い声を出しました。こんな声、聞いたことがないです。空色の瞳が鋭い光を放っていて、なんか……とてつもなく怖いですよ!? 一緒に聞いていたマリアさんでさえちょっと距離をあけたくらいです。マリアさんの肩に乗るシロも、きゅあっと不安げに小さな鳴き声を漏らしました。


「今だけ、不敬をお許し願います」


 セレスさんはそう前置きすると、若干怯えるわたしたちをよそに、そのまま噛みつくように殿下に怒鳴りつけたのです。


「最悪のタイミングで横槍入れるなぁッ!!」


 びりびりと空気を震わせるような怒号に、けれども殿下は怯えることなく弾けるように爆笑しだしました。で、殿下……性格変わってませんか??


「ルチア、来て」


 無表情でわたしの手をつかむと、セレスさんはそのままその場を後にしようとします。状況が呑み込めなくて混乱していましたが、いつにないセレスさんの態度に、わたしはそのままついて行くことにしました。なにより、少しくらい二人で話したかったですし。


「頑張ってね~」


 忍び笑いを隠したようなマリアさんの声援を背中に聞きつつ、わたしたちは今度こそその場を後にしたのでした。


 ※ ※ ※ ※ ※


 無言のまま、セレスさんはわたしの手を引いて庭園を歩いていきます。あたりの薔薇を愛でる余裕もなく、わたしはそんなセレスさんについて歩きました。

 しばらくそうやって二人で歩いていると、ぽつりとセレスさんがこぼすように発言しました。


「ごめん、さっきは。驚かせちゃったよね」

「あ、はい……ちょっと驚いちゃいました。セレスさん、いつも優しいから」

「さすがにちょっとキレちゃって。ホントもう、タイミング悪すぎてカァッとなっちゃった。恥ずかしいや、俺」


 しょんぼりと肩を落とすセレスさんが可愛くて、わたしは不謹慎ながらも笑ってしまいました。


「大丈夫ですよ。それより、こうやって会えたことの方が嬉しいです。お城ではお部屋が遠くて会えなかったから。マリアさんがね、機転を利かせてくれたんでこうやって外に出れたんですけど、それまでずっと部屋の中から出してもらえなかったんです」

「え、部屋から出してもらえなかったの!?」

「セレスさんたちはどうだったんですか?」

「俺たちも自由にはさせてもらえなかったけど、さすがに出歩き不可とまではなかったかな。西棟全部と東棟の一部は立ち入り禁止って言われたくらいで。ずっとルチアたちがどこにいるのかわからなくて探してたんだけど、部屋はどこだったの? 誰も教えてくれなくて。見つからなかったってことは、立ち入り禁止区域にいた?」

「はい、西棟にいました。セレスさんたちは東棟ですよね」

「やっぱりか……」


 わたしの回答に、セレスさんは頭を抱えました。


「なんでかなぁ。もう、ほっといてくんないかなぁ。俺、ルチアといたいだけなんだけど」

「セレスさん、かっこいいですから、女の子なら皆気になっちゃうんですよ。バンフィールドでもセレスさん、大人気ですし」

「俺、ルチアだけでいいんだけど。もう、見てくれだけでぎゃーぎゃー言われるの、勘弁してほしい……」


 こぼすようなセレスさんの発言に、わたしは思わず赤面してしまいました。だって、わたしだけでいいって! やだ、もうどうしましょう! 嬉しすぎてドキドキしちゃいます!

 って、いえいえ、今はそういう話じゃないですよね。ついテンション上がっちゃいましたけど、セレスさんは困ってるわけですし、手放しで喜んでる場合じゃないですよね。

 わたしがひとりでわたわたしていると、セレスさんはついっと一際花の見事な薔薇の樹の側で足を留めました。


「ルチア」


 改まった態度でわたしに向き合うと、セレスさんは隊服の内ポケットからなにかを取り出しました。ハンカチ?


「本当はさ、色々考えてたんだ。でも店に行くチャンスなんてないし、そうなると俺に準備できるものってこんなので。ちょっと恥ずかしいんだけど、ちゃんとしたのは国に帰ってからってことでもいいかな?」

「?」


 そう言いながらセレスさんは取り出したハンカチを開きました。大事そうに包まれていたのは、木でできた腕輪でした。丁寧に磨かれて、つやつやとした艶が綺麗です。


「これ、どうしたんですか?」

「俺が作ったんだ。親父みたいな職人じゃないから下手なんだけど、まぁ素人なりに巧くできたから」

「わぁ!」


 触れてみると、丁寧にやすりがかけてあるらしく、気持ちのいい手触りが伝わってきました。どうしましょう、すっごくすっごく嬉しい!


「ルチア」


 腕輪をわたしの手に通しながら、セレスさんがいつになく真剣な表情でわたしの目を見ました。


「国に帰ったら、俺と結婚してくれませんか?」

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