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ルチア、マリアとわざと迷子になる

 歓迎パーティが開かれるまでの数日間、わたしたちはお城に軟禁されました。


 そう、言い間違いなんかでなく、まさに軟禁です。豪華にもてなされていますが、男性陣と女性陣では宛がわれた部屋が遠く──なにせ部屋がある棟が、宮廷を挟んで真逆に位置しているんですよ──わたしはマリアさん以外のメンバーとの接触はできません。

 当初二日後といわれていたのが三日後に伸び、それがさらに延期されたといわれたときは、なんとも言い難い気持ちになりました。準備に時間がかかるということでしたが、その間セレスさんたちに会えないというのは納得がいきません。


 もちろんこの状況にマリアさんが怒らないわけはなく、肩にシロを乗せたまま、今日も扉を守る衛兵さんたちに交渉をしかけていました。


「ねぇ、兵隊さん! お仕事お疲れさまぁ~」

「えっ……あ」

「ね、あたしね、いい加減この部屋にいるの飽きちゃったの。ね? わかるでしょ? こんな素敵なお城が目の前にあるのに、部屋にいなきゃダメとか、せつなくて。少しくらい出歩いてもいいじゃない?」


 昨日までは怒りをあらわにしていたマリアさんですが、今日は懐柔方向に出たようでした。上目遣いで手を胸のところで合わせて小首をかしげるマリアさんは、同性のわたしから見てもとても可愛らしく魅力的です。

 それはドアの両横に控えていた衛兵さんたちにも同じだったようで、困ったように顔を見合わせていますが、その顔はだいぶ流されているように見えました。


「そ、そうですね……ちょっと上官に相談……」

「あなたがあたしたちについてきてくれればいいんじゃない? ね、護衛としてここにいてくれてるんでしょう? あたしたちここのお城のことわかんないし、あたし方向音痴だし、あなたたちのどちらかが案内してくれれば心強いんだけどなぁ」


 ひょろっと背の高い方の衛兵さんが躊躇いながら口を開いたのを見て、マリアさんは浮かべていた笑みを深くしました。

 衛兵さんたちが揺らいだのを感じたマリアさんは、畳みかけるように満面の笑みで迫ります。すごいです、わたしには真似できない切り込み方です。


「はい、ではおれがついて行きます。いいですよね、先輩」

「うん、ちゃんと案内しろよ?」

「やった♬ よろしくね!」


 もじゃもじゃとしたくせ毛の衛兵さんが手をあげると、のっぽの衛兵さんが頷きました。どうやらくせ毛さんの方が後輩のようですね。ただ、押し出しはのっぽさんよりくせ毛さんの方が強そうです。


「でも、散歩程度ですよ。いいですね!?」

「はぁーい」


 くせ毛さんはわたしたちに念押しすると、のっぽさんに一礼して歩き出しました。


「ねぇ」


 くせ毛さんの後をついて歩き始めながら、マリアさんがわたしの耳元で囁きました。


「あたしの後についてきて」


 ……マリアさん、なにをする気なんでしょうか。

 わたしは若干ハラハラしながら、マリアさんと歩幅を合わせました。


「こちらがお客様用の中庭です」

「お客様用って? ほかのもあるの?」

「はい、王族用のお庭が別に。こちらの薔薇園は評判がいいんですよ。聖女様、薔薇はお好きですか?」

「好き好き~ぃ。棘がなければもっと好き~。ねぇ、あたしに似合いそうな薔薇ってないの?」

「聖女様のように可憐な薔薇となりますと、たしかもっと奥に……」


 くせ毛さんが案内してくれたのは満開の薔薇が咲き誇る中庭でした。今日は天気もいいので絶好のお散歩日和ですもんね。

 わたしはあたりに漂う薔薇の香気を吸い込みながら、青空を仰ぎました。会いたいです。旅が始まってから毎日会っていたから、会わない日が続くとやっぱりさみしいです。


 青空を見ながらセレスさんのことを思い出していると、ふと腕を引かれました。マリアさんです。

 マリアさんはくせ毛さんのことを気にしながらも、綺麗に刈り込まれた庭木の方へ目配せをしました。ちょうど十字路になった個所で、くせ毛さんはまっすぐ歩いていきます。


「!」


 マリアさんはわたしがそちらへ意識をやったのを確認すると、無言で強く腕を引いてそちらへ走り出しました。


「っ、……はっ、これでっ、しばらくは自由ね!」


 しばらくめちゃくちゃに走ったのち、小さな広場のようなところにたどり着いたわたしたちは、息を切らしながら地面にへたり込みました。開放感あふれた笑顔でマリアさんが笑います。


「自由……、ですけど、どう……するんですか、これから」

「特に決めてないけど」


 くせ毛さんを撒いてつかの間の自由を手に入れたマリアさんは、うーんと空に伸びあがるように身体を伸ばしました。


「単に閉じ込められるのが嫌だったから逃げ出してみたんだけど……そうね、セレスたち探そっか! 迷子になっちゃいました~って言っとけば大丈夫!」

「迷子……」


 迷子というより、積極的にくせ毛さんを撒いた覚えがあるわたしは、マリアさんの言い分に悩みました。迷子と言い張って納得してもらえるでしょうか?

 逡巡するわたしの気持ちを見抜いたのか、マリアさんは腰に手を当てると胸を張ってふんっと鼻を鳴らしました。


「固いわね~。セレスといい勝負なんじゃないの」

「そっ……」


 そんなことは……あるでしょうか? セレスさん、固いかな……そうでもない気がするんですが。


「セレスがユルいのはあんた限定でしょ。あたしに対しては固いのなんの! 学級委員かっつーの!」

「ガッキュウイイン?」

「なんていうの? その団体のまとめ役っていうか……」

「隊長さんですしね、セレスさん」

「あー、うん、なんかニュアンス違うんだよねぇ。とにかく固いの。このあたしがコナかけてるっつーのに、よろめきもしないんだもん。まぁ、原因はあったけど」


 じろり、とマリアさんはわたしをひと睨みすると立ち上がりました。


「とにかくすぐに追手がかかると思うし、早く移動しちゃいましょ! ていうか、ここどこよ?」


 たしかに、無茶苦茶に走ったせいで、ここがどこなのかさっぱりわかりません。他国の王城ですし、普通に歩いてもよくわからないまま迷子になりそうです。

 マリアさんがいてくれるので心強いですが、これからどうしましょう。どこにいけばセレスさんたちに会えるのか、今のわたしにはさっぱりわかりませんでした。

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