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ルチア、ふたつめの天晶樹にたどり着く

 あたりを警戒しつつ森を進んでいくと、運が良かったのか魔物とは遭遇せずに天晶樹のもとへたどり着けました。

 フォリスターンの天晶樹は、以前見たキリエストの天晶樹と全く同じ姿をしていました。ねじれた透明な幹に、天に広がる水晶の梢。ところどころに見える、黒い卵果。まとわりつく黒い靄まで同じです。


 わたしたちは天晶樹のふもとで、それぞれ馬から降りました。


「それじゃ、まず浄化前の幹と葉を採取するね」


 エリクくんが荷物から小さなナイフと小瓶を取り出すと、目を輝かせて言いました。目の前の研究対象に心躍らせているのが手に取るようにわかります。


「必要なのは浄化後のやつじゃねぇのか?」

「浄化前のもないと、比べられないじゃん。どういう変化があったのか。魔力の含有量とか、構成する素材とか。植物なのか鉱石なのか、はたまた未知の物質なのか。あぁっ! 研究室が今すぐほしいっ!」

「研究馬鹿か」

「褒めてくれてどうもっ!」

「褒めてねぇから、今の」


 ガイウスさんと楽しそうにじゃれながら、エリクくんは手早く葉をちぎろうとし──そのままその手をとめました。


「ちぎれないんだけど! ちょっと、クマ! 手伝ってよ!」


 必死に引っ張りますが、枝がたわむことすらしません。まさに水晶の塊といった様子です。


「こりゃちぎれねぇぞ」

「えー、クマの馬鹿力でもダメ? ちょっと~、隊長さ~ん! これすっぱり切って~!」


 天晶樹に近づいたガイウスさんが水晶でできた葉っぱを引っ張りましたが、うんともうんともいいません。相当硬いようで、じれたエリクくんはセレスさんを振り返ります。切るのはガイウスさんにお願いしないんですね、エリクくん。


 エリクくんに頼まれたセレスさんは、無言で剣の柄の部分にある水晶に触れると、梢の先めがけて刃を閃かせました。が、ガキィンッと澄んだ硬い音が響いただけで、その葉は落ちることはありませんでした。

 さすがにこれで落ちると思っていたのか、セレスさんやエリクくんが目を見開きます。


「隊長さんの風魔法で強化した剣でもダメなの?? どんだけ硬いんだよ」

「これでは”雫”を採取することは難しいようですね……なにか他に方法があるのでは」


 眉根を寄せて、レナートさんが考え込む様子を見せました。

 ”天晶樹の雫”……一体、それはどんなもので、どうやったら手に入るのでしょうか。


「とにかくさ、浄化してみようよ。そしたら採れるかもしれないじゃん? この状態だとダメだって話かもだし」

「聖女様」


 レナートさんの隣にいたマリアさんが、そう発言しました。その眼には怯えの光はありません。


「あたしがやるから、皆下がってて!」

「マリア……」

「エド、言ったでしょ? あたし頑張るよって。もう、誰かに頼りきりはやめたの。逃げるのはやめやめ! あたしらしくないしね」


 心配そうな声をあげる殿下に、マリアさんはにこっと無邪気な笑顔を向けました。シロを抱きかかえたまま、マリアさんは黒い靄に囲まれている天晶樹に対峙します。


「さぁ~て、光魔法の登場ですよ!っと。見ててね、皆! ≪世界の礎たる天晶樹よ、汝に光あれ≫!!」


 マリアさんが唱えたのは、呪文らしからぬ呪文でした。わたしも魔法のことはよくわからないんですが、エリクくんが唱えている呪文とは系統が違うようです。


「!」


 なにか、古代語のお呪いみたいな響きのする呪文をマリアさんが唱えた途端、パァッと天晶樹が光に包まれました。わたしのときとは違います。それはもっとこう、神々しい光景でした。

 痛いくらい眩しい光があたりを包み、わたしたちは思わず目を閉じていました。それくらいしろい光は眩しくて、強いものだったのです。


「できた!」


 嬉しそうなマリアさんの声につられて目を開けると、そこには先ほどと同じたたずまいながら、靄が晴れ、輝きを増した天晶樹の姿がありました。


「エリくん、葉っぱ採れそう?」

「あ……うん、やってみる!」


 その姿に見とれていたエリクくんが、マリアさんの声にハッとした表情を浮かべ、慌てて頷きました。


「すごいや……卵果も消えちゃってる。てことは、あれは靄と同じものだったってことなのかな? 本来の天晶樹は結実しないってこと?」


 言われてみると、たしかにいくつかあった魔物の卵果が消えてしまっています。地面にも落ちてはいませんから、文字通り”消えて”しまったのでしょう。


 エリクくんは輝きを増した天晶樹に近寄ると、その綺麗な葉っぱを引っ張りました。最初はそっと、その後傍から見ても力を込めていることがわかるくらい強く引きましたが、天晶樹の葉は、揺れることすらしませんでした。


「うーん、浄化しても採取は無理みたい。となると、”雫”ってどうしたらいいんだろう?」


 浄化の成功に喜んだのもつかの間、エリクくんのその言葉に、わたしたちは沈み込みました。

 ”天晶樹の雫”って、どうやったら採れるんでしょうか!?

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