ルチア、マリアとコイバナをする
「あっそう、セレスがねぇ~。あの野郎、人の目がないのをいいことに……なにはっちゃけてやがるんだか!」
セレスさんから告白されたことを伝えると、マリアさんは目に見えて不機嫌になってしまいました。
これは……実はマリアさんもセレスさんのことを好き、だったということ……なんでしょうか?
「マリアさん……」
「あっ、やぁだ! 別にセレスが好きだったとかそういうのじゃないわよ!? たしかに外見はタイプだけどさぁ、友達が好きな相手を取るほど、あたしはオトコに飢えてないわ! セレスも傍から見て、ルチアのことが好きなのわかりきってたし、横恋慕とか、そーゆーのナシナシ!」
「きゅーっ!!」
「そうなんですか??」
不安に思ったのを見透かしたのか、マリアさんは両手を胸の前で交差させました。その拍子にシロが落ちて、慌てて羽を動かしてこちらへ飛んできます。
「きゅわっ! きゅっきゅきゅー!」
「わ、シロごめんってば。怒んないでよ。わざと投げ出したわけじゃないじゃん」
「きゅー」
抗議の声をあげるシロを、マリアさんが笑いながら抱きしめます。わたしがいない間に相当仲良くなったようで、シロもマリアさんにとても懐いているみたいですね。
「シロ、”シャボン”をかけなくても暴れませんでしたか?」
「ん? あー、そっか、シロ魔物だっけ。すっかり忘れてた。大丈夫だったわよ。最初は気にしてたんだけどね、まったくもって変わりなしだったわ」
「きゅわ~」
別れていた間気になっていたことを尋ねると、問題なかったとマリアさんは教えてくれました。よかったです。そうなると、毎日”シャボン”をかけなくても大丈夫みたいですね。
「ねぇ、それでさ、どうなの?」
「どう?」
「そりゃ進展よぉ! 晴れて両想いになったんでしょ? キスくらいしたの?」
「なっ……!」
マリアさんの問いかけに、一瞬にして顔に熱が集まります。
「おーお、真っ赤になっちゃって。心当たりある感じ?」
言えません! 言えませんよあんなこと!
わたしは必死にかぶりを振りました。恥ずかしい記憶が甦ってきて、もう本当に……恥ずかしすぎます!
ひとり悶絶していると、マリアさんは楽しそうにニコニコしながらわたしの顔を覗き込んできました。
「秘密です!」
「あ~、そう。ちぇ~っ。せっかく友達とコイバナできると思ったのにな~。夢だったんだよね、あたし。ね~、ちょっとぐらいしようよ~。いいじゃん、減るもんじゃなし!」
「減ります! わたしの精神力が減っちゃいます!」
「シロが回復してくれるよ! ほら、だっこして!」
「それは魔力ですよマリアさん!」
「きゅ!」
マリアさんは腕を絡めつつ、顔を近づけてきます。上目遣いで目をうるうるとさせていて、断りづらいですよ!
「ね? お・ね・が・い! ダメかな??」
「マリアさん……」
可愛らしいお願いに、結局わたしは白旗を振りました。
※ ※ ※ ※ ※
「へぇ~。セレスってば、意外と強引~。うん、でもなんかちょっとそんな気はしてた。片想いをこじらせた真面目くんがはじけるとそうなるよね。障害物もいない状況だし」
わたしから、なれそめから再び合流するまでの話を引き出したマリアさんは、ふんふんと頷きながら上機嫌にお茶を飲みました。
「えっと」
「もうさ~、じれったいのよね。ガンガン攻めたかと思えば、肝心なときにヘタレるし、焚き付けて行動すると思えば明後日の方向行くし。しかもなに? 初めて会ったの一年くらい前で、数ヶ月前からこっそり交流温めて、で、いつくっつくかと思えばようやく今? 遅っ! おっそ! アクシデントなかったら絶対もっと遅かったでしょ。引っ込み思案なルチアからは絶対アプローチするわけないからさぁ、|セレスが動かなきゃどうにもならないっつーの!」
なのに手を出すのは早いってどういうことよ!と、マリアさんは叫びます。あの、外に聞こえちゃうんでお静かにしていただけると……大変ありがたいんですが。
困ったわたしは、マリアさん自身の話に切り替えようと試みました。
「マリアさんは、恋のお話ないんですか?」
「話ずらそうとしてるわね? まぁいいけどさ。あたしは、そうね……引く手あまたってやつ? あたしこんな見た目にこの性格だからさ、あんまり女の子とはつるんでなくて男とばっかりいたのよ。だから常にカレシはいたよ。吟味に吟味重ねた相手がさ」
「好きだったんですか?」
「ん~、どうかな。好きって言われてつきあうことばっかだったしね。もちろん言うよう仕向けてたけど。楽しかったのよね、そういうのが。ゲーム感覚って感じ?」
唇を尖らせながら、マリアさんは小首を傾げました。つやつやの長い黒髪、守ってあげたくなるような華奢で小柄な身体つき、長いまつ毛に縁どられた大きな瞳は黒曜石みたいでとっても素敵です。そんなマリアさんですから、きっといろんな男性が想いを寄せていたんでしょうね。
「だからさ、あんたたちみたいな恋愛って、ちょっとうらやましいかも」
「マリアさん、殿下とは……その」
「エド? うん、好きだけど、あんたがセレスに対して思ってるような気持ちじゃないと思うんだ。多分エドもあたし自身にはそこまで執着してないんじゃない? あの日まではあまり考えないようにして、恋愛にすがってたんだけど、まぁ今から思えば現実逃避よね~。そして第一幻滅したもん。ひそかに守ってくれようとしてたのは嬉しいけど、ずっと騙してたわけじゃん? しかも妻になるのはあたしでなくてもいいって、なによそれ!って感じ」
やっぱり、殿下とマリアさんの間には溝ができてしまっているようでした。
野営地まで移動する際も、以前のように殿下と馬車にこもるのではなく、団長様と交代したレナートさんと一緒に御者台に腰かけていましたもんね、マリアさん。殿下も、ちょっと距離を取って見守ってらっしゃる感じでしたし。
「あんたは幸せになんなよ~」
「マリアさんだって幸せにならなきゃダメですよ!」
「なるわよ。あたしくらいのスペックの持ち主が幸せな結婚しないわけないでしょ!」
わたしたちは、そうして二人で顔を見合わせて笑いあいました。