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ルチア、天晶樹の雫について悩む

 訊き返したセレスさんに答えたのは、殿下ではなくエリクくんでした。


「天晶樹はさ、植物でも鉱物でもないんだよね。素材は水晶──つまり鉱石なんだけど、どうも生きてるみたいだ。魔物を胎胞して卵果として実らせるしね。でもさ、植物じゃないから水分なんてないわけ。だから雫っていうのは水晶を表してるのかなって思うんだけど、水晶なんてまぁ普通にあるものじゃない? わざわざ”天晶樹の”っていうからには、天晶樹の欠片なのかなって思うんだけど、こればっかりは採取して試してみないとわかんないんだよね」


 胸の水晶をいじりながら、エリクくんは「調べてみたいなぁ」とひとりごちます。


「研究心をくすぐられるよね~。ボク、浄化の旅が終わったら天晶樹の研究でもはじめてみようかな。天晶樹って魔物の発生源だから、危なくて今まで研究が進んでないんだよね」

「研究云々より、まずはマリアを還してやることに専念しろよ、アカデミアの筆頭研究員ドノ」

「クマにはわからない学問の深遠なんだよっ」

「学問よりなにより目の前の救済が先だろうが、ちびっこ」


 エリクくんとガイウスさんは相変わらず仲がよさそうです。そして、ちょっとうらやましそうな顔でレナートさんがそれを見ています。レナートさんも相変わらずお兄さんがお好きですね。


「まぁさ、嬢ちゃんたちがいない間に話したんだがよ、とにかく次のフォリスターンの天晶樹では、その雫とやらの調査をしようってことになったんだ。調べてみねぇことにはどうしようもないからな」

「キリエストと違って、フォリスターンとメーナールは他国にありますからね、調べるならこの旅の間でないと難しいですし」


 皆さん、マリアさんを還す手立てを探ろうと意気込んでいるようです。


「”天晶樹の雫”、必ず見つけましょうね」

「……ありがと、ルチア」


 励ますように告げると、ようやくマリアさんは笑顔を見せてくれました。この笑顔が消えないためにも、頑張らなくちゃいけませんね!

 そう決心したわたしは、こぶしを強く握りしめました。


 ※ ※ ※ ※ ※


「本当にごめんね、ルチア。ルチアとセレスが無事でよかった。あたしのこと……怒ってる? 本当にごめんね。あんなこと、なんでしちゃったんだろう」


 男性陣と別れて、マリアさんと、マリアさんに抱きかかえられているシロと一緒に女性用の天幕へ入ると、そう改めて謝罪されてしまいました。


「怒ってなんかないですよ。マリアさんが悪いわけじゃないですし、たまたま地盤が緩んでただけです。地面がもろいってアドミナ村で言われてたのに、忘れてたわたしも悪いんです。だからマリアさん、わたしこそごめんなさい。心配かけちゃいましたよね」

「心配したよ。すっごくした。ホント生きた心地がしなかった」

「セレスさんが助けてくれたんですけど、なにせ手持ちがなにもない状態だったんで、戻るまでに時間がかかっちゃいました。途中でお手紙を書いたんですけど、もしかしなくても届く前に会えちゃいました?」

「手紙? うん、そんなの受け取ってないわ。ルチアが書いたの?」

「いえ、セレスさんが団長様宛に書いていました」


 頑張ってそのために働いたりもしたんですが、結果不要だったようですね……。

 ちょっとがっかりしましたが、でも、こうやってまた会えたことが大事です。


「本当によかった。こうやって、またおしゃべりできて。あたしさ、ルチアに言いたいことたくさんあったの。でも、たくさんありすぎて、よくわかんなくなっちゃった」

「きゅ?」


 マリアさんは照れたように笑うと、胸に抱きしめているシロに顔をうずめました。


「あのあとすぐ、殿下は誤解を解かれたんですか?」

「エド? うん、あたしが落ち着いたらすぐ皆を集めてあの話をしたわよ。すごくわたわたしてた。それまでずっとガイウスとレナートが必死にエドからあたしをガードしてくれてさ、すごいのよ、ガイウス、エドとフェルに怒鳴りつけたんだから。おっさんだし、見た目どうやっても熊だけど、ちょっとかっこいいって思っちゃったわ。エリくんもぷんすか怒ってた。なんかさ、今まで皆あたしのことチヤホヤしてはくれてたけど、むこうの世界のオトコと同じで、ご機嫌取りだったんだよね。ホラ、あたし”聖女様”だから。だから……だからさ、こんな皆に親身に心配されたのははじめてだった」


 ガイウスさん、マリアさんを守っていてくれてたんですね。やっぱりガイウスさんは頼りになります!


「ガイウスさんはすごく頼りになりますよね!」

「うん。なんだろ、お父さんみたいだよね。なんとなくさ」

「わかります!」

「頼りになるっていえば、セレスは頼りになった? ルチアが落ちた直後に躊躇なく川に飛び込んで行ってさ、どんだけ必死なのよって……ルチア?」


 セレスさん。改めてその名前を出されると、なんだかちょっと照れてしまいます。

 だって……わたし、セレスさんと、その……恋人同士、になったんですよね?


「なんで赤面してんのよ? あっ、セレスの野郎、なにかしたんでしょ!」

「いえ、その……」

「なにがあったの! 嫌なことされてないでしょうね!?」

「なにも……ええと、あれ、えっと」

「ルチア!?」

「きゅー! きゅわっきゅっ!」


 その後、柳眉を逆立てたマリアさんによって、わたしは洗いざらいあったことを吐かされたのでした。

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