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ルチア、エドアルドの告白を聞く(1)

 野営の準備が終わって、わたしたちはたき火を囲むようにして各々座り込んでいました。

 わたしにぴったりとくっついてマリアさん。

 その膝の上にシロ。

 マリアさんとは反対側の隣にセレスさん。

 マリアさんの隣にガイウスさんと、レナートさん兄弟。

 セレスさんの隣にエリクくん。

 そしてわたしの対面にエドアルド殿下と団長様が座っています。


「まず謝罪をさせてほしい」


 口火を切ったのは団長様でした。

 深々と頭を下げると、団長様はその姿のまま、しばらく固まります。


「ルチアさん、巻き込んでしまって本当にすまなかった。セレスティーノ、よく彼女を守って戻ってくれた。そして聖女様には改めて謝罪をさせてほしい。つらい目にあわせて申し訳ない」


 団長様の金色の頭を見ながら、わたしは複雑な気持ちになりました。なにから伺えばいいのでしょうか。

 戸惑っていると、団長様の隣に腰かけていた殿下が口を開きました。


「僕からも謝罪しよう。ルチア、すまなかった。マリアも、騙すような形で日々を過ごさせて悪かった」


 頭こそ下げられはしませんでしたが、思いがけない王太子殿下からの謝罪の言葉に、思わず言葉をなくします。王族の方から謝られることがあるなんて思いもしませんでした。


「もういいよ、エド。あたしは納得したから。そりゃ、言ってくれればよかったのにとは思うけど」


 殿下に言葉を返すマリアさんの様子には、恨みとか悲しみなどは見当たりません。以前のような恋人らしい親密さはありませんけれど、かといって険悪な雰囲気もありません。


「マリアたちにはすべて話したが、さて……どこから話したらいいかな」


 殿下は形のいい唇に手をやると、ふっと嘆息しました。ぱちりと薪がはぜる音が大きく響きます。


「この旅を始めるにあたって、僕とフェルナンドが父上から命じられた使命は二つあった。一つは、天晶樹の浄化。これが表向きの使命だね。だが、その裏で僕たちに課せられていたのは、聖女──マリアの監視と観察だ。旅が終わった後、彼女が外交カードとして使えるかどうか、それを見極めるのが僕らの役目だった」


 監視と、観察?

 殿下のおっしゃる意味をつかみかねて、わたしは首をかしげました。


「”聖女”が役に立つようならば、帰還後王太子妃として擁立し、その名の持つ威光、マリアの光魔法の力、そしてその血筋を我が国に役立てよと父上は仰せだった。”救世の聖女”の名は浄化を果たした暁には世界中に伝えられるし、マリアの強い光魔法があれば世界を統一することも可能だと、父上は思っていらっしゃるようだった。また、魔法使いの力は、その半分くらいが血で受け継がれる。もちろん突発的に強い力を持つ者が産まれることもあるけどね、強い魔法使いの血脈からはそれなりの力を持つ者が産まれる確率が高い。マリアの持つ光魔法の力は他に類を見ないものだ。もしこの力が受け継がれるようならば、それは押さえておくべきものだと、そう父上は僕らに告げた」


 殿下は、そうおっしゃると薄く笑みを浮かべました。


「”聖女”が役立つならば、僕という軛をかけ、自由を奪い、その力を取り込んで最大限に使おうというのが、その目論見だ。だから僕は、マリアの信用を得るために彼女を甘やかし、懐柔しようとしていた」

「…………」


 わたしの腕にしがみつくようにして座るマリアさんが、殿下の言葉に少し身を固くしたのが伝わってきました。それを慰めるようにきゅっとシロが鳴きます。シロは、ずいぶんマリアさんに懐いたようでした。ぱたぱたと羽をはばたかせるシロを、マリアさんはそっと撫でました。


「しかし、王宮にいた頃のマリアの言動は王太子妃としては到底認められるものではなかった。”聖女”として役立てても、”王妃”としては害にしかならないならば──そのときは、浄化が終わり次第秘密裏に始末する。世間には浄化の完了とともに聖女は元の世界に戻ったということにしろとね」

「! そんな──」

「そのためには目撃者は少ない方がいい。だから、マリアの騒ぎに乗じて僕は兵士隊を王都に返した。戦力を削ぐということは危険とは隣り合わせだったが、あの時点ではマリアを王太子妃とすることはできないと感じていたからね。”聖女の帰還”はほぼ決定事項だと思っていた」


 つまり、わたしがマリアさんたちに会ったときには、すでに殿下と団長様はマリアさんを──殺そうと、考えていたんですか?

 あまりの出来事に、頭が真っ白になりました。そんな、そんな酷いことを──この人たちは、しようと思っていたんですか!?

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