ルチア、再会を喜ぶ
頼み込んでどうにか貸してもらえた馬に乗って、フォリスターンへの道をひた走ります。
今朝発ったのなら、すぐ追いつくはず。そう信じて、わたしはセレスさんが駆る馬の背に、必死にしがみついていました。
本気で走らせる馬は、以前同乗したときのような余裕はなくて、わたしは舌を噛まないように歯を食いしばることしかできません。そんなわたしが落馬しないように、セレスさんは抱きしめるような形で固定していてくれています。
あまりの速さに顔があげられません。この速さで前を向いて手綱を操れるセレスさんたちはすごいと、改めて感心してしまいます。
どれくらい走ったでしょう。それは、手の感覚が怪しくなってきた頃でした。
「いた」
耳元でかすれた声がしました。ぐん、とスピードがあがり、わたしは思わず目を瞑ります。
「団長……ッ!」
セレスさんが団長様を呼びます。遠くで馬の嘶きが聞こえました。蹄の音が近づいてきて、セレスさんが手綱を強く引きました。
「!」
顔をあげると、そこには団長様の顔がありました。そう長いこと離れていたわけではないのに、なんだか懐かしいです。
「無事だったのか!」
「はい、二人とも怪我などもありません」
セレスさんたちが言葉を交わすのをぼうっと見ていたわたしは、一瞬ののち我に返りました。団長様がいらっしゃるということは──
「ルチア!!」
悲鳴のような声がしました。弾かれるようにそちらを見ると、つややかな黒髪を乱して、裾をからげた姿で走ってくるマリアさんの姿があります。
「マリアさん!」
「ルチア! ルチアっ!!」
マリアさんが飛び込むようにしてやってくるのと、滑り降りるようにわたしが馬から降りるのは同じタイミングでした。
「ルチア、ごめんね、ルチア。よかった、生きてた……! 生きてたよぉ……」
子どものように泣くマリアさんの細い肩に触れると、ぎゅうっと抱き着かれました。
「マリアさん、戻るのが遅くなってごめんなさい」
「ごめんね、あたし、ひどいことしてごめんね。ごめんねぇ~!」
「マリアさんが悪いんじゃないですよ。大丈夫です。わたしもセレスさんも元気ですよ。怖かったですよね、もう大丈夫ですよ」
「ごめん、ごめんなさい……」
「もう謝っちゃダメですよ! それよりちゃんとご飯食べてますか? 少し痩せたんじゃないですか?」
泣きじゃくるマリアさんは、よく見るといつもの可愛らしいドレス姿ではありません。わたしが着ていたような動きやすい丈のワンピースにショートブーツ。腰まである長い黒髪はひとつにまとめてリボンで結んでありました。
「嬢ちゃん!」
「ガイウスさん!」
マリアさんの背後からやってきたのはガイウスさんでした。ガイウスさんの後から、エリクくんも顔を覗かせます。
「ルチア、無事でよかったよ! 隊長さんも無事でなにより」
「心配おかけしてすみません。今戻りました」
おふたりと再会を喜んでいると、レナートさんが馬車を率いてやってきました。
「ルチア嬢、セレスティーノ殿、無事だったんですね!」
「副官殿、合流が遅れて申し訳ありません」
「いえ、問題ないです。ふたりとも、無事でよかった……!」
そのとき、がたんとドアが開く音がしました。馬車から降りていらしたのは──エドアルド殿下でした。
「セレスティーノ、ルチア、よく戻った」
「……殿下」
セレスさんは殿下の前に跪きました。わたしもそれに倣います。
なんて言っていいのかわからずにいると、静かな沈黙がその場に広がりました。マリアさんがしゃくりあげる声だけが小さく響きます。
「……まずは野営地まで進みましょうか。もう少し先に開けた場所があるはずです。話はそこで行いましょう」