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ルチア、セレスに気圧される

 い、今のは空耳でしょうか。わたしに都合のいい夢?

 きっと聞き間違いですよね。まさか、そんなことあるわけがないです。


「……逃げるのはナシね」


 そっと手を引き抜こうとしたら、バレました。わたしの手首をつかんだセレスさんは、こちらをじっと覗き込んできます。


「信じられないって顔をしてるよね。俺、そんなに対象外だったんだ……」

「えっ、あの、いえ……」

「でも、今意識してもらってなくても、これからは違うから。君が俺の腕に落ちてきてくれるまで諦めないし、信じられないなら信じてくれるまで何度でも言う」


 吐息がかかりそうなほど近くに顔が寄せられて、思わずあたふたしてしまいます。待って、待ってください! あの、わたしまだ現実を受け入れられてないです!


「好きだよ、ルチア。ずっとずっと好きだった。君と再会してから、どれだけ晴れの日が待ち遠しかったか、わかる? 色眼鏡で見られるのが嫌で身分を誤魔化して、誰にも取られたくないから、君に感謝の意を伝えたいって言っていた隊員すべてに君の存在を隠して……。旅立つことが決まって会えなくなるって落ち込んで、思いがけなく君が現れたとき、俺がどれだけ嬉しかったか、わかる?」


 セレスさんは、わたしの手をつかんでいない方の手で、そっと頰に触れてきました。


「聖女様が君を独占してたとき、どれだけ羨ましかったか。殿下が君を召し上げると言ったとき、どれだけ腸が煮えくり返ったか。君は知らないだろ?」


 知りません! ずっとセレスさんはマリアさんが好きだって思い込んでましたし、まさかそんな風に思われてたなんて、夢にも思わなかったんですよ!


「好きだよ、君が望んでくれるなら、ずっと側にいる。ひとりになんてしない。帰る場所がないのなら、新しく作ればいいんだ、2人で。だから--この手を取ってくれないか?」


 この頃になると、さすがに脳が認識しだしたといいますか、これが夢じゃないって実感がむくむくと湧き出してきました。

 夢じゃない--そう、セレスさんがわたしのことを好きでいてくれたっていうのは、わたしの夢の話じゃないんです。

 これは現実で、セレスさんは--わたしのことが、その……好きだと、思ってくれています。

 そう理解した瞬間、ぽろりと涙がこぼれました。


「えっ……ルチア!? その、泣くほど……嫌、だった……?」

「ちがっ……違うんで、違う。泣いてな……っ」


 狼狽えるセレスさんに誤解されたくなくて、一生懸命否定しますが、1度流れ始めた涙は容易には止まってはくれません。お母さんが死んでからもう泣かないって決めていたのに。泣いてもなにも変わらないのに。泣くくらいなら今できることをする、そう決めていたのに。


「ごめん、泣かないで」

「違……これは、嬉しく、て」


 そう、わたしは嬉しいんです。

 もうひとりじゃないって、一緒にいてくれるって、帰る場所をくれるって、そう言ってくれるのが、誰よりも好きな人で。

 それは、とても幸せなことでした。


 でも、本当にセレスさんはわたしでいいんでしょうか?

 わたしは美人でもなんでもないです。賢くもないし、家族もいないし、お金持ちどころか借金持ちですし、いいところが思い当たらないです。


「わたし、で、いい……ですか?」

「ルチアがいいんだ。ルチアじゃなきゃ嫌だ」


 とぎれとぎれのわたしの問いかけに、セレスさんはきっぱりと答えてくれました。


 釣り合わないんじゃないかっていうためらいはあります。

 でも、それでも。

 セレスさんがわたしを望んでくれるように、わたしもセレスさんがいいです。

 セレスさんがわたしじゃなきゃ嫌だと思うように、わたしもセレスさんじゃなければ嫌です。

 セレスさんがわたしを好きだと言ってくれたように、わたしだってセレスさんが好きなんです。

 他の人じゃダメなんです。他の人には譲れないんです。


 気持ちを伝えたかったけれど、言葉が胸でつっかえて出てきません。

 しゃくりあげつつ、そっとセレスさんの手に自分の手を重ねます。

 いやです。もう、こんなみっともない姿なんて見せたくないのに。絶対目元が腫れてひどい顔になってますよね。恥ずかしくて消えてしまいたくなりますが、でも、消えたら本当に夢になってしまいそうで怖いです。


 だから、わたしも勇気を出そうと思います。


「セレスさん」


 空いている方の手で力任せに目をこすって涙を拭くと、まっすぐにセレスさんを見ます。少しでも呼吸いきを整えて、ちゃんとお話しできるようにしなくちゃ。

 誠意をもって向き合ってくれた人には、ちゃんと真っ向から向き合わなくちゃダメです。


「わたしも、セレスさんがいいです。他の誰でもなくて、セレスさんが好きなんです。わたしでいいって言うのなら、側にいてもいいですか?」


 勇気を振り絞って口にした人生初の告白は、その相手にお日さまみたいな笑顔をもたらしました。

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