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ルチア、言いつけを破る

 嵐のようなレッラさんの訪問が終わると、わたしもセレスさんもどっと疲れが出てしまいました。


「すまんねぇ、レッラはダリオんとこに遅く生まれた子でね、甘やかされて育ったせいか、たまにわがままになるんだよ」


 ロミーナさんはすまなさそうに言います。

 いえ……傷つかないと言ったら嘘になりますが、地味なのは本当ですし、言い返せませんでした。


「ところで隊長様たちはこれからどうすんだい? ここいらの地図が手に入ったとして、すぐに出るのかい?」

「いえ、出るにしても食糧と飲み水だけでも手に入れないと難しいですね。あと、あれば武器を。なのでロミーナさん、なにか俺たちにできるような仕事はありませんか?」

「現物支給でいいならお願いしたいことはあるがね」

「現物支給で結構です」

「そうかね、そんじゃまぁ、薪割りでもお願いしようかね。年寄りには腰に負担がかかっていけないよ」


 セレスさんはロミーナさんとどんどん話を詰めていきます。たしかに旅費を稼がなければマリアさんのところへ帰れませんし、ゆっくりしてられません。

 ですが、わたしはどうしてもジョットさんのことが気になります。セレスさんはダメだというけれど、試すだけでもしてみたいです。

 だって、このままだと、ダリアちゃんはひとりぼっちになってしまいます。そんなさみしいこと、もう誰にも経験してほしくないです。ひとりは、怖いから。


 ごめんなさい、セレスさん。

 わたしは心の中でこっそりセレスさんに謝りました。

 わたしはどうにかしてセレスさんの目を盗んで、ジョットさんのところへ行きます。ダメだってわかっているけど、身勝手な自己満足だとわかっているけれど、どうしても譲れないんです。

 もしわたしもファンガスに取りつかれてしまっても、天晶樹の浄化はマリアさんがいるから大丈夫です。セレスさんはマリアさんを守るという大事なお役目がありますから、巻き込めません。


 薪割りをしに戸外へ出ていくセレスさんの背中を見送りながら、わたしはそっと決心を固めていたのでした。


 ※ ※ ※ ※ ※


 その日はロミーナさんのお宅に泊めてもらうことになりました。


「うちは見てのとおり狭くてね、余分な部屋はないんだ。隊長様には悪いけど、納屋で寝てくれるかい? 藁はあるから、それにシーツをかけるさね。嬢ちゃんは……さすがに一緒はまずいかね。狭いがアタシのベッドで一緒に寝るかい?」

「すみません、お手数をおかけします」

「ロミーナさん、ありがとうございます。わたし、シーツかけに行ってきますね」


 ロミーナさんからシーツを受け取ると、わたしはお家の隣にある納屋へ向かいました。

 旦那さんがお元気なときに使用していたという納屋は、今は貯蔵庫として活用しているようで、いろいろな野菜や藁の束が無造作に置かれています。

 なにも置かれていない一角に藁束をいくつか移動させて、寝やすいように形作ってシーツをかければ、簡易ベッドの出来上がりです。


「……こっそり夜抜け出せば、気づかれませんかね?」


 納屋には窓はありません。ドアを閉めてしまえば気づかれないように思えます。

 おあつらえ向きに今夜は満月です。ランプがなくても視界に困ることはなさそうでした。ジョットさんがいる小屋はわかりませんが、そう広くはない村です。手あたり次第動けば見つけられそうな気もします。


「大丈夫、きっと……できます」


 緊張に高鳴る胸を抑えて、わたしは深呼吸をひとつしました。

 魔物ファンガスへの恐怖は少しありますが、お母さんの薬草を探して街の外へ出ていたときよりは怖くありません。あのときは身を守るものはなにもありませんでした。ただ運だけを頼りに探しに出ていたんです。

 だから、”シャボン”が魔物をおとなしくさせるとわかっている今は、そんなに怖くはないんです。


「……ごめんなさい、セレスさん」


 だから、きっと怖いのは、失敗してひとりぼっちの子どもを作ってしまうかもしれないことで。

 失敗して、あの人を失望させてしまうことくらいで。


 無理を押し通すことでどんな迷惑をかけるかはわかりません。ファンガスを宿したままでは旅ができないかもしれません。マリアさんに会えずじまいで終わってしまうかもしれません。

 ですが、やらないままあきらめたくないんです。どうしても、それだけは。

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