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ルチア、ダメ出しをされる

「魔物!?」


 魔物の一言で、一瞬にして場は気色ばみました。

 慌てて家の外に出ると、血相を変えた男性がへたり込んでいます。


「マノロ、魔物って……」


 ダリオさんがへたり込んだ男の人に近寄ると、マノロさんと呼ばれたその人は真っ青になった顔を上げました。


「ファ、宿茸ファンガスが……ジョットに!」


 ファンガス。農村部によく出るといわれる魔物で、人間に寄生してはその栄養を糧に成長すると言われています。なんでも、生きながらえるには食べ続けるしかなくて、でもそれもしまいにはファンガスの成長速度に負けて、最後は大きな木のような茸になってしまうそうです。


「ジョットはどこだ!?」

「今ロビーじいさんが住んでた家の納屋に隔離してる! あそこなら誰も住んでいないから……」


 うなだれるマノロさんに、ダリオさんがそっと肩を叩きました。


「セレス……あの、ファンガスを倒す方法ってあるんですか?」


 つい癖でセレスさんと呼びかけて、慌てて”さん”の部分を飲み込みます。別にさん付けでも構わないのかもしれませんが、仲良しアピールのためにはないほうがいいような気がします。


「ファンガスは厄介でね、攻撃しない限りまわりに危害はくわえないで、ただただ宿主の栄養を吸い取るだけなんだけど、一旦攻撃すると胞子を撒き散らして、攻撃した相手をも取り込もうとするんだ。どうしても倒すなら、遠方から魔法使いの火魔法なんかで焼き尽くすしかない。もしくは宿主を食い殺して枯れるのを待つしか……。枯れるときに近くに新たな宿主が存在しなければ、奴らは消えるしかないからね」


 セレスさんはそっとわたしの背中に手をやると、首を横に振りました。

 それはつまり--宿主になった人を救う手立てはないと、そういうことなんですか?


「可哀想だが、ジョットはもう……」

「くっ……そぉお! あいつ、どうすんだよ! ダリア遺してくのかよ!」


 ダリオさんとマノロさんは、悔しげに唇を噛み締めました。それを見つめる女性陣も、恐ろしそうに身体を震わせては身を寄せ合います。


「ダリア?」

「ジョットの孫だよ。まだ7歳なんだけどね。一昨年母親が死んで、ダリアはジョットと2人暮らしだったんだ。父親はよそん国の人でね、ここには立ち寄っただけの人間だったよ。だから、ダリアが生まれたことも知らんでな」


 ロミーナさんはそう補足してくれました。

 それを聞いて、わたしはぎゅっと心臓をつかまれたような気持になりました。そんな状況なら、なおさらどうにかしてジョットさんを助けないと。なにか、なにかないでしょうか。


「……ダメだ」

「え?」


 必死に考え込んでいると、隣でセレスさんが呟くのが聞こえた気がしました。見ると、そこにはひどく難しい顔のセレスさんがいます。


「……なんでもないよ」


 わたしが見ていることに気づいたセレスさんは笑顔を浮かべましたが、どうも様子がおかしいです。なんでもないとは言うその言葉を、額面通り受け取ってはいけない気もします。もしかして、なにか手立てがあるのかもしれなくて、でも、それがとても難しいこと……とか?

 なんでしょう。わたしは必死で考えました。

 燃やすか枯れるまで待つしかないファンガスに取りつかれた人を救う方法。燃やす……消す……。

 消す??


「あ」


 もしかして、天晶樹にまとわりついていた瘴気のように、”シャボン”で消すことはできないでしょうか?

 わたしは天啓のように降ってきたその考えを、セレスさんに伝えようと口を開きました。


「わたしのーー」

「ダメ」


 セレスさんはわたしの発言を予測していたように、にべもなく即座に切って捨てました。


「ダメだからね、ルチア」

「でも!」


 聞いたこともないような低い囁き声に、セレスさんが本気でダメ出ししていることがうかがえました。

 ですが、人の命がかかってるんです。試すだけでもできたら……。


「ジョットとダリアは可哀想だが……仕方あるまいよ。ファンガスに取りつかれちゃあおしまいだ。あとはせめて食べ物を運んでやろう。それと、ダリアの預かり先を探して。なぁマノロ、オレたちにできるのはそれしかないさ」

「ダリオ……」


 男性2人が深いため息をこぼすと、それがその話の終わりの合図のようでした。マノロさんはとぼとぼと肩を落として去っていき、ダリオさんはくるりと家族の方へ向き直ります。


「フラビア、ジョットのところに食べ物を運ぶのはオレたち男がやる。おまえはダリアの様子を見に行ってくれ。レッラ、ロビーじいさんの小屋には近づくな。で、なんだ、客だっけな。聞いた通り今ガタついてる。あんたらも命が惜しいなら近寄んな。地図書き写したんならさっさと立ち去るのが賢明だよ」

「……ご忠告、痛み入ります」


 こちらに背中を向けたまま、ダリオさんはわたしたちに立ち去るように告げました。セレスさんとわたしは頭を下げましたが、一瞥もせずに家族をまとめて家へ入ってしまいます。

 後に残されたのは、ロミーナさんとわたしたちの3人でした。


「とりあえずあんたたち、ウチにおいでな」

「すみません」

「お邪魔します……」


 困ったわたしたちを見かねたロミーナさんが再度招いてくれたので、お言葉に甘えてお邪魔することにしました。


「あっ、ちょっと待って!」


 しかし、移動しようとしたわたしたちに待ったをかけたのはフラビアさんでした。


「あとで料理を持ってくから、ね! よろしくね!」

「料理くらいアタシでもできるよ、フラビア」

「ロミーナばあちゃん、そうじゃないよ! もう、ね! セレスティーノさん、よろしくね!」


セレスさんの両手を握ってぶんぶんと上下に振ると、フラビアさんはダリオさんの後を追って行きました。


「……まぁ、そんじゃ行くかね」

「そうですね……」


 そうして、わたしたちはダリオさんの家を後にしたのでした。

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