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ルチア、演技をする?

「ただいまぁ……あら、まぁ!」

「お父さん、誰それ!?」


 現れたのはよく似た母娘でした。娘さんの方がレッラさんなんでしょう。ロミーナさんが言う通り、王城で侍女をしていそうなくらい整った顔立ちをした美人さんです。


「もしや、レッラの……!」

「フラビア、レッラ、おかえり。こん人らはロミーナばあさんが連れてきた旅人さんだ。フラビア、残念だが彼は既婚者だそうだ」


 セレスさんを見て顔を輝かせた2人は、けれどもダリオさんの言葉に一瞬にしてがっかりした表情になりました。

 ですが、レッラさんはセレスさんに興味津々のようです。手にしていた籠を無造作にテーブルに置くと、セレスさんの前に駆け寄ってきました。籠に入っていたエンドウマメやソラマメがいくつか床に落ちましたが、それにすら気が付かないくらいの勢いです。


「でも、すごく素敵な人……! あのぉ、あたし、レッラ・バルバっていいます。お名前は……?」

「セレスティーノと申します。彼女は妻のルチア」

「ルチアです。はじめまして」


 如才なく挨拶をするセレスさんは、防波堤としてわたしを紹介するのも忘れません。

 わたしも続いて挨拶しましたが、セレスさんにしか目に入っていないらしいレッラさんは、ちらりと一瞥をくれただけで再びセレスさんにくぎ付けになります。


「セレスティーノさん。素敵なお名前ですね!」


 頬を染めてうっとりとセレスさんを見上げるその瞳は、色合いは異なるものの、セレスさんと同じ青色をしていました。

 このまなざしには見覚えがあります。たとえば恋人について話していたジーナさん。他にも食堂で”竜殺しの英雄”さんのことを噂していた人たちも、皆こんな目をしていました。


 セレスさんはレッラさんの称賛に笑顔をひとつ返すと、わたしの腰を引き寄せました。

 突然触れられてびくっとなりましたが、そういえば新婚の奥さんという設定でした。慌てて笑顔を作りましたが、引き攣ってはいないでしょうか。どきどきします。


「フラビア、セレスティーノさんがレッラにハーシュの騎士様を紹介してくれるかもしれんって」

「おふくろ! だからそれは困るって言っただろう! レッラはハーシュにやるつもりはねえ!」

「あんた、そん方が騎士様紹介してくれるって本当かい?」

「フラビア、騎士様は婿には来てくれねえ。一人娘を他所にやるつもりか!」


 イルマさんが先ほどの騎士様の話をフラビアさんに投げかけると、反対していたダリオさんが即座に反応しました。

 どうやらセレスさんのお知り合いの騎士様にレッラさんを紹介する話は、女性陣の方が乗り気なようです。当のレッラさんは興味はあるようですが、やはり目の前のセレスさんが気になって仕方がないといったところでしょうか。


「簡単に請け合って大丈夫なんですか?」

「うん、ボッカルドは結婚相手探してるんだよね。この旅に出る前に少し顔を合わすことがあったんだけど、全部終わって帰ってきたら女の子紹介しろって笑ってたよ。だから、多分大丈夫だと思う」


 聞こえないよう小さな声で訊くと、セレスさんはそう頷きます。どうやらセレスさんは身代わりに騎士様を差し出す気満々のようです。大丈夫なんでしょうか。他人様ボッカルドさんに迷惑をかけることになることも気になりますが、勝手に話を推し進めることに心配が募ります。


「セレスティーノさん、そのボッカルド様ってどんな人なんですか?」

「いいやつですよ」

「えっと、見た目……とかぁ」


 どうやらボッカルドさんに興味を示しつつも、レッラさんはその外見が気になるようです。その目はセレスさんの顔にくぎ付けになっていて……さもありなんといったところでしょうか。たしかにセレスさんはかっこいいですもんね!


「ボッカルドはすごく気の優しいやつでしてね、気遣いも人一倍きめ細やかだし、料理なんかも得意ですよ。レッラさん、一緒に過ごすのに一番大切なのは中身だって、そう思いませんか?」

「そ、そうですよね!」


 そう言うと、セレスさんはそれはもう完璧な笑顔をレッラさんに向けました。……どうも、セレスさんはボッカルドさんの外見から全力で気をそらしたいようです。

 セレスさんの全力の笑顔に誤魔化されたレッラさんは、もうぽうっとなってしまっています。女性に対する自分の武器がなんだかわかっていて、それを自在に扱うセレスさん……。あの、ちょっと、怖いです。


「ね、ルチア」

「はいっ、そうですね!」


 そんな話をする際もセレスさんはわたしを離しません。仲いいアピールをして矛先を自分から逸らしたいんでしょうか。ここはひとつ、わたしも頑張らねば……と思うんですが、なにをしたらいいんでしょう。

 仲がいい夫婦が「セレスさん」って呼ぶのは不自然でしょうか? なんて呼びかければいいんでしょう? 呼び捨て? うう、できる気がしません。ここはひとつ、おとなしく控えていましょう。それがいいですよね。


「ところでセレスティーノさんと言いましたよね? ここへは立ち寄っただけですか? それともお泊りに?」


 フラビアさんの問いかけに、セレスさんは苦い顔になりました。一文無しの私たちです。移動するにも水筒ひとつ、食糧ひとつないんです。多少なりとも旅支度を整えなければ旅立つことすらできません。


「それが……」

「大変だぁッ!!」


 セレスさんが説明しようとしたその瞬間、外から男の人の叫び声が聞こえました。尋常でないその声音に、ダリオさんはじめ、そこにいた皆さんがハッとした顔で外を窺います。


「おい、なにがあった!?」


 ダリオさんはドアを開けると、外にいた人に尋ねました。


「ジョットが……魔物にやられた!」

「なに!?」

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