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ルチア、ロミーナに打ち明ける

「アタシはロミーナだよ」

「セレスティーノです。彼女はルチア」

「はじめまして……」


 ロミーナさんのお家にお邪魔して簡単な名乗り合いが終わると、あとはなんとも言いがたい沈黙が場に流れました。

 ロミーナさんは黙ってお茶を沸かし出し、わたしはなんと発言していいのかわからずにセレスさんの顔を見つめるしかできません。


「老人の独り暮らしだ。たいしたもんはないけど、とりあえずお茶でもお飲み。都会もんの口に合うかは知らんがね」


 ロミーナさんはお茶をわたしとセレスさんの前に置きます。香ばしい匂いのするお茶は、口に含むと少し苦みがあって、独特な風味がしました。薬草茶みたいな味です。


「で、本当のとこはどうなんだい」

「本当のところはというと?」

「年寄りを舐めるんじゃないよ。こちとらあんたの何倍生きてると思ってるんだい」


 あくまでも素性を隠そうとするセレスさんを、ロミーナさんはじろりと睨みつけました。


「セレスさん、ちゃんとお話ししましょう。嘘を重ねても難しいだけです」


 隠し事をした上ではいい人間関係は築きづらいです。それに、わたしは自分が嘘をついたまま自然に過ごせる自信がありません。だって……セレスさんの、あの、奥さん……とか、えっと、無理です。ぎこちなさで嘘だってバレる自信があります。


「……ロミーナ殿、これからお話しすることは他言無用でお願いします」


 セレスさんも腹を決めたのでしょう。真剣な顔つきになると、居住まいを正してロミーナさんへと向き直りました。


「俺たちがバンフィールド王国から来て、王都ハーシュを目指していたのは本当のことです。ただ、本当の目的地はハーシュではなく、フォリスターン。天晶樹の浄化がその目的です」

「浄化?」

「異世界より天晶樹を浄化できる聖女様が召喚されたのはお聞き及びですか? 我々はその同行者です。ただ、道中事故があって、俺と彼女は川に流され、ここまでたどり着いた次第です」


 ロミーナさんは信じられないといったように目を見開きました。


「まさか、そんな大仰な身の上だとはねぇ。身元を隠したのは醜聞だと判断したのかい?」

「醜聞までとはいきませんが、道中の事故が他国に知られると、どんなトラブルを呼び寄せるかわかりません。聖女の旅は完璧でなくてはならない。出立のときにそう言い含められていたので、身分をごまかしました」

「馬鹿だねぇ。隠す意味なんてないに等しいじゃないか。大きな街ならともかく、こんな村人捕まえて嘘ついても害なんてないさ。まぁ、学のないアタシにゃお偉いさんの考えることはよくわからんがね」


 あんなことを言い出したのは、そんな理由があったんですね。


「改めてご挨拶いたします。俺はセレスティーノ・クレメンティ。バンフィールド王国騎士団第3隊隊長を務めています」

「隊長様かね。そりゃまたえらいこって。で、そっちの嬢ちゃんは?」


 改めて訊かれて言葉に詰まります。

 わたしの立ち位置ってなんなんでしょうか? 侍女、でいいんですかね??


「ルチア・アルカです」


 困ったわたしは、名乗るだけにしました。洗濯婦だと名乗るのもおかしいですしね。


「ふぅん、身分差は確かにあるようだね。だが、あんたたち、夫婦もんだと名乗るのはいいかもしれんね。今このシェレゾでは、若い男が喉から手が出るほどほしい輩がいるからね。他国の者だろうが、若くて、しかも見目良いときたら……あんた、村から外に出してはもらえないよ」

「は!?」


 ロミーナさんの発言に、わたしもセレスさんも言葉を失いました。え、なんですか? それ!


「ご覧の通りこの村は小さなもんさ。そのほとんどが老人だ。だが、中に一軒だけ若い娘がいる家がある。数年前に街からこの村へそこの家の息子夫婦が子連れで戻ってきた家なんだがね、その娘が婿取りしたいってんで今揉めてるんだよ。都会へ出て結婚相手を探したい娘と、娘を手放したくない親と祖母っていうね。ややこしい話だよ。子どもが可愛いなら手放してやればいいのにさ」

「…………」


 たしかに、お婿さんを探している方がいらっしゃる状態でセレスさんが現れたら……格好の的です。アールタッドでも人気のあるセレスさんですから、一目見たら気に入られること間違いなしですよ!


「まぁ、夫婦もんという触れ込みでも危ういかもしれんがね。悪いことは言わんから早く立ち去った方が身のためだよ。見たところ、結婚相手を探している風でもないしね、隊長様は」

「新たにはいりませんね。間に合ってます」


 間に合って……いるんですか。

 わたしはセレスさんの発言に衝撃を受けました。セレスさんはマリアさんが好きなのかと思っていましたが、アールタッドに恋人がいらっしゃったんですね。そうですよね、これだけかっこよくて素敵な人です。恋人がいないわけがないんです。

 わたしがひそかに失恋の痛手を受けているのには気づかず、ロミーナさんとセレスさんはお話を続けています。


「ただ、見てのとおり我々は遭難しています。仲間のところへ行くにしても、お恥ずかしいことですが土地勘も手段も旅費もない。この村の名はシェレゾ……とおっしゃいましたよね。ここからハーシュへはどれくらいかかりますか?」

王都ハーシュねぇ……ちょっと待っておくれよ。うちには地図はないが、簡単でよければ描いてやるよ」


 ロミーナさんはかまどから炭のかけらを取ってくると、テーブルの隅でがりがりと描きだしました。


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