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ルチア、セレスと迷子になる

「ルチア、あったかいね」


 しばらく無言でわたしを抱きしめていたセレスさんが、少し身体を離して照れたように笑いました。


「そうですね、セレスさんにくっついてるとあったかいです」


 つられてわたしも正直に話してしまいます。だって、寒いんですよ! 気づいたんですけど、わたしたち身体冷え切ってます!


「それにしても、さすがに濡れたままだとまずいよね」

「ですね、風邪ひきそうです。ちょっと待っててくださいね。≪シャボン≫!」


 ”シャボン”は汚れと一緒に水分も飛ばすので、こういうときにも便利です。あ、髪の毛も乾きました!


「ありがとう、身体が乾くだけでだいぶ違うね」

「ですね」


 わたしたちは身を寄せ合ったまま、あたりを見回しました。


「煙だ……」

「人がいるんでしょうか?」

「川沿いだし、もしかしたら人里があるのかもしれない。歩ける? どこか痛めてない?」


 見ると、木々の合間から一筋二筋と白く煙がたなびいているのがわかりました。

 わたしはセレスさんに支えられて立ちましたが、どこも痛めたりはしていないようです。


「大丈夫です。セレスさんは怪我はないですか?」

「うん、俺は平気。そしたら行ってみようか。あんな風に落ちて行方不明になったから、多分みんな心配してるし、早く合流した方がいい」


 わたしは落ちる直前の記憶を思い出しました。マリアさんの泣き顔を思い出して胸が苦しくなります。

 マリアさん……気に病んでいないといいんですが。大丈夫でしょうか。

 ガイウスさん、エリクくん、レナートさん。どうかマリアさんを慰めてあげていてくださいね。強がっていても、マリアさんは優しい人です。わたしだけでなくセレスさんまでいなくなったとしたら、責任を感じて自分を責めてしまっているような気がします。


「あ」

「?」


 歩き出そうとしたそのとき、セレスさんはなにかに気づいたような声をあげました。


「どうしたんですか?」

「ルチアーーまずいかも」


 セレスさんはため息をひとつつくと、右手で額を抑えました。一体どうしたんですか??


「俺たち、無一文だ」

「は? え?」


 一瞬なにを言われたのかわかりませんでした。

 無一文。つまり、お金がないってこと……って、えぇ??


 セレスさんの言葉の意味を理解したわたしは、自分とセレスさんのいでたちを改めて確認しました。

 わたしは寝間着代わりの簡素なワンピース姿。セレスさんからもらったリボンでいつもまとめている髪の毛も、直前まで寝ていたこともあっておろしっぱなしです。

 セレスさんは隊服の下に着こんでいたシャツに隊服のスラックス。マントも、いつも腰に下げていた剣すらありません。

 夜更けということもあってか、2人とも荷物を持たず、着の身着のままです。換金できるものすらありません。


「とりあえずあの煙のもとへ行こう。皆のもとへ行くには、旅費をどうにかしなくちゃ。ルチアもその恰好じゃ出歩けないし、俺も剣がないと君を守れない。さすがに上着がないと身分証明も難しいしなぁ。ホントごめん、ルチア」

「セレスさんが謝ることじゃないです。セレスさんがいてくれなかったら、わたし今頃どうなってたかわかりませんし、すごく心細かったと思います。いてくれてありがとうございます」


 こんな格好で1人放り出されたとしたら……。わたしはそれを想像し、ぞっとしました。

 1人は怖いです。誰も頼れなくて、どうしていいかわからなくて途方に暮れてしまう。そんな思いはもうしたくないです。

 わたしはセレスさんを見上げました。空を切り裂くように一筋の朝日が現れて、セレスさんのお日さま色の髪の毛を照らしました。日向にいるみたいに安心できる。わたしの好きな人は、そんな人です。


「1人じゃないって、こんなに安心できるものなんですね」


 そう笑うと、セレスさんに手を握られました。


「セレスさ……?」


 セレスさんは握った手を強く引っ張りました。思いもかけない力に、わたしはバランスを崩して再びセレスさんの胸にぶつかってしまいます。


「ひゃっ!?」

「ルチア」


 気づいたときはセレスさんの腕に中でした。なにが起こっているのかわかりません。え、どういうこと??


「必ず守る。君を1人になんてしない。だから、安心して俺の隣にいろ」


 目が覚めたときよりもっと強い力で抱きしめられ、わたしは言葉を失いました。


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