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ルチア、セレスに助けられる

「聖女様?」

「だって、早く浄化しなきゃなんでしょ? あたしがやるべきことは天晶樹の浄化。そしてそれは1日でも早い方がいい。違う?」


 マリアさんは、そう言うと綺麗に笑いました。


「天晶樹は必ず浄化します。あたしと、あたしの仲間たちで。だからもう少しだけ我慢して?」


 マリアさんの言葉を聞いた途端、村長さんは崩れるように泣き出しました。その隣にいた村人さんもです。


「聖女様……ああ、なんと心強いお言葉……!」

「貴女様をお迎えできたのは、この村の誇りです!」


 口々に褒めそやす村人さんたちを、殿下はさっと一瞥されました。

 そしてマリアさんの肩に手をやると、威風堂々とした声音で宣言されます。


「我が名はエドアルド・フリスト・バンフィールド。バチス公国の公女エルヴィーラ・ヴェラ・バチスの第1子にして、バンフィールド王国王太子である。先ほどの聖女様のお言葉通り、我々は必ず浄化を成し遂げ、再び魔物のいない世界を皆に贈ろう。ついては、雨が収まるまで、しばし軒先を借りることを了承してほしい」


 殿下の名乗りを聞いた皆さんは、改めて深々とお辞儀をします。

 なんだか、改めてものすごい人たちの中にいるんだな、と実感しますね。

 マリアさんは聖女様。

 エドアルド殿下はバンフィールド王国の王太子殿下。

 団長様は騎士団をまとめる騎士団長。

 レナートさんは団長様を補佐する副官様。

 セレスさんは竜殺しの英雄と名高い騎士団第3隊隊長。

 エリクくんはアカデミアの若き天才魔法使い。

 ガイウスさんだって騎士様です。

 わたし、浮きまくりですよね。魔法を使わなければ普通もいいとこですもん。


 わたしは少し色の褪めた紺色のエプロンワンピースのスカートを引っ張りました。

 服ひとつとっても、わたしは浮いています。今までそこまで気にしてませんでしたけど、なんだか場違いに思えて、急に恥ずかしくなってきました。

 本当に……なんでわたし、ここにいるんでしょう? 陛下はこんなエリート揃いの中にわたしを入れても、おかしくないと思ってくださったんでしょうか。きっと厳選に厳選を重ねた結果のメンバーだと思います。

 たしかに「魔物をおとなしくする」という力は珍しいですし、昏倒したとはいえ浄化のお手伝いもできました。力だけ見るとおかしくないのかもですが、平凡すぎるわたしの存在が台無しにしている気もします。

 ああ、とりあえず服だけでも変えましょう。普段着の方がいいと思ってましたけど、このメンバーの中にいる場合、よそ行きのワンピースの方がまだよさそうですよね。


 わたしは皆さんにバレないよう、こっそりため息をつきました。今さらながらですけど、ダメですね、わたし。もっと身なりに気を使わないと、恥をかくのはわたしだけではないんですし。


 ※ ※ ※ ※ ※


 1刻ほどすると雨が上がったので、わたしたちはアドミナ村の皆さんにお礼を言いつつ、また馬や馬車へと戻ることにしました。


「すごい雨でしたね、濡れましたし、寒くありませんか?」

「大丈夫だよ、ルチアに乾かしてもらったし。助かったよ、濡れたままで移動だとばかり思ってたからね。替えの隊服はあるけど、さすがに女性がいる前で全身着替えはしづらいからさ」


 建物の外へ出ると、わたしはセレスさんに声をかけました。相変わらずの眩い笑顔で、セレスさんも返事をしてくれます。

 畑の脇の道を歩きながら、わたしたちは馬を繋いだ場所へ進んでいきます。なんだかこういうのんびりした場所も素敵ですよね。アールタッドでは見ない光景です。


「着替えって、隊服だけなんですか?」

「ううん、一応私服も持ってきてるよ。まぁ、着ないんだけどさ」

「着ないんですか」

「うん。ほら、隊服ってアカデミアの特製だろ? 旅をしてるといつなんどき襲われるかわかんないからさ。私服は防御の魔法、編み込まれてないし。だから寝るときもこれだね。上着は脱いでだらしない格好になるけどさ」


 どんな格好をしていても、セレスさんはカッコよさそうですね。


「ルチアはその服、お気に入りなの?」


 ……好きな人に着たきり雀なのを指摘されるのって、死にそうなくらい恥ずかしいですね!

 やっぱりもっと服を買っておくべきでした。心底今、そう思います! 恥ずかしいです!


「……好きなことは好き、なんですが。その……服って結構な金額しますし、それなら早く借金返したいなって……」

「あ……」


 ものすごく気まずい沈黙が流れます。

 ああ、隠れるところがあったら、今すぐ隠れたいです!


「きゃ……っ」

「あぶなっ!」


 隠れるところの代わりに、なんと地面が崩れて足を取られました。

 慌ててセレスさんが抱きとめてくれなかったら、今頃ドロドロになっていましたよ!


「すみません、ここら辺の土地は砂交じりで脆くて、雨上がりなんかに、たまに踏み固めた道と柔らかい土との境目が崩れることがあるんです」


 案内してくれていた村人さんが、そう説明してくれました。


「助けられてよかったよ。足とか挫いてない?」

「大丈夫です。ありがとうございます」


 セレスさんの腕から抜け出ると、わたしは崩れた地面を見ました。道の端が畑へ流れるように崩れています。大きさとしては大したことはありませんが、歩いている最中にこれに出くわすとバランス崩しますよね。


「魔物がいなくなってもこの土じゃ収穫高は知れてるけど、それでも襲われる心配がなくなったり、村の外へ気軽に出れるようになるのはありがたいです。よろしくお願いします、皆様」

「はい、必ず」

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