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ルチア、マリアと仲直りする

「おはよう、ルチア」

「おう、嬢ちゃん、朝メシはなんだ?」

「セレスさん、ガイウスさん、おはようございます!」


 朝、外で朝食の準備をしていると、隊服の上着を脱いでシャツ1枚になっているセレスさんとガイウスさんがやってきました。肌寒いというのに、襟元とか開けてて、寒くないんでしょうか?


「寒くないですか?」

「あぁ、これ? 今組手やってきたんだ。だからむしろ暑いよ」

「汗拭かないと風邪引きますよ。これ、まだ使ってないのでどうぞ」

「ありがとう。助かるよ」


 そういうセレスさんは、よく見ると薄く汗をかいています。

 エプロンのポケットに入れていたハンカチを差し出すと、照れ臭そうに笑って受け取ってくれました。


「お、リゾットか?」


 お鍋の蓋を開けて中を覗き込むガイウスさんは、相当お腹が減ってるみたいです。


「今よそいますから待っててくださいね」

「ベーコンたくさん入れてくれ」


 器を手に取ると、ガイウスさんが覗き込んだまま指示をくれます。なんだか子どもみたいで笑っちゃいました。


「こっちは?」

「マリアさんのです。ポリッジよりスープが好きそうだったので、もしかしたらリゾットもダメかもって思って」


 別の小鍋に分けていたスープに気づいたセレスさんが、ハンカチをたたみながら訊いてきました。


「スープもおいしかったよね。あ、俺は豆たくさんがいいな」

「ありがとうございます。お豆ですね」


 セレスさんはお豆が好きなんですね。たくさん入れちゃいましょう。


「おい、隊長サン、自分だけ汗拭いて終わりとか、いいご身分だなぁ」

「あ、こっち使います?」

「……てめぇ、いい性格してんなぁ」

「それほどでも」


 背後でセレスさんとガイウスさんがハンカチのやりとりをしているのを聞きながら、わたしは削ったチーズを振りかけた2人分のお椀に、スプーンを添えました。


「はい、これどうぞ……って、どうしました?」

「ううん? ルチア、ハンカチありがとう。洗って返すよ」

「まだ使うからいいですよ」

「そう? それじゃ、これありがとね」


 返ってきたハンカチをポケットにしまうと、わたしはまた次の器を手に取りました。向こうから団長様がやってきたのが見えたからです。


「これ、殿下のかい?」

「はい、今団長様のを入れてますから」


 殿下の分は団長様が運ばれます。

 わたしはトレイに乗せた器に目をやりました。殿下の器は木をくりぬいたものではなく、縁に美しい装飾が施されている銀食器です。

 殿下、リゾットは口に合うでしょうか。昨日のスープは召し上がっていましたし、そのスープを使ったリゾットならと思うのですが、ちょっと不安です。上にかけたチーズや胡椒、少し多かったでしょうか。お嫌いだったらどうしましょう。


「じゃあ、運んでくるよ。あ、聖女様はそろそろいらっしゃると思うよ。さっきお会いしたから」

「そう……ですか」


 マリアさんにお会いしたら、なんて声をかけましょうか。

 わたしはグルグルとリゾットをかき混ぜました。


「おはよう、ルチア!」

「!」


 振り返ると、そこには笑顔のマリアさんがいました。


「今日も晴れそうよね。それ、朝ごはん? あ、リゾットもあるの? チーズ上にかけるなら、あたしのはたくさんかけてほしいなぁ。チーズリゾットって好きなんだよね」

「マリア、さん……」


 マリアさんは、驚くほどいつも通りでした。沈んでいたのが嘘のようににこやかに笑っています。


「心配かけてごめんね。もう平気。頑張れるから」


 マリアさんの分をよそっていると、そう小さな声で囁かれました。


「自分で選んだのにね。フェルに言われちゃった。悩むのはわかるけど、浄化はルチアじゃなくあたしの仕事だから頑張れって。そうだよね、1度引き受けたからにはやらないと」

「マリアさん……」

「この世界はあたしの世界じゃないけどさ、もうこっちに来ちゃったんだし、駄々こねててもなんの得にもならないからさ、褒賞目当てに頑張るわ。目指せ、イケメンたくさんお気楽極楽生活!」


 明るい声の裏に、どれだけの苦悩があったんでしょう。

 わたしは苦しくなってマリアさんに抱きつきました。


「あんたが男だったらよかったのにね〜。そしたらこのマリアさんのハーレムの第1位に据えてあげたんだけどな」

「マリアさん、ごめんなさい。わたし、考えなしで」

「考えなかったのはあたしも一緒。同じよぅ。悪いと思ったならさ、“シャボン”かけてよ」

「はい、いくらでも!」

「一生だよ。あたしの一生を振り回したからには、あんたたち皆に責任取ってもらうんだから。その代わり、あたしはあんたたちの世界を救う。だからずっとあんたはあたしの側にいるのよ? いいわね!」

「はい、ずっと側にいます!」


 マリアさんはわたしよりずっとずっとしなやかで強い人でした。


「あんたは侍女じゃなくてさ、あたしたち、その」

「お友達ですよね」

「!」


 友達の一言に、マリアさんは顔を輝かせました。


「そうよ、光栄に思いなさい! あんたはあたしのトモダチよ!」

「大好きです!」

「恥ずかしいヤツね、あんた」


 そう言いつつも、マリアさんは顔を真っ赤にしながら笑顔をわたしに向けてくれたのです。

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