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ルチア、セレスと星を観る

 悪戯を成功させたような笑顔で、ガイウスさんはわたしを見ます。


「わざわざ呼ばなくてもいいじゃないですか!」

「いやぁ? 奴は呼ばれたいだろうよ。オレも嬢ちゃんがひとり歩きしなくて安心だし、嬢ちゃんも洗濯をしに行ける。三者両得だよな」

「1人で行けますよ」

「護衛として許可できねぇなぁ」

「じゃあガイウスさんが……」

「オレは腹一杯で動きたくねぇ」


 ガイウスさんともめていると、呼ばれたセレスさんがやってきてしまいました。


「なにか用……どうしたの、ルチア?」

「いえ、あの」

「おう、ちょっとツラ貸せや、隊長サン」


 ガイウスさんはセレスさんの肩に腕を回すと、2人で背後を向いてしまいます。


「ガイウスさん、ありがとうございます!」

「アールタッドに帰ったら1杯奢れよ」

「必ず」


 セレスさんがガイウスさんの手を握ってブンブン振ってるんですが……なにをしてるんでしょう、あれは。


「ということで、行こう、ルチア」

「いえ、本当に1人で……」

「俺が行きたいの。いいね?」

「……ハイ」


 わたしをあっさり言いくるめると、セレスさんは歩き始めます。


「魔法で洗ったりはしないんだね」

「はい。やっぱり手で洗えるものは手で洗った方がいいかな〜、と。魔法は便利ですけど、頼りきりになっちゃうのも怖くて」

「ルチアらしいね」


 もう、あたりは真っ暗でした。

 わたしは馬車の外に下げてあった魔石ランプを1つお借りすると、灯りをともしました。

 これは炎の魔石が中に入っているのですが、スイッチ1つで明るくなるので便利なんですよね。今までアールタッドの街灯とお城の灯りでしか見たことないんですけど、こうやって自分で使うとその便利さがよくわかります。

 魔石は結構なお値段がするので、個人で持てる気がしないですけどね!


 そんな魔石ランプの灯りを頼りに歩いていると、夜の暗さが掻き消されてしまいます。


「魔石ランプって、便利ですねぇ」

「うん、俺も1つ持ってるけど、ホント便利だよね」


 持ってる人、ここにいましたよ!


「でもさ」


 住む世界の差にショックを受けていると、セレスさんにスッと魔石ランプを奪われました。


「見てみて、ルチア」

「?」


 セレスさんの言葉と同時に、魔石ランプの灯りが消えました。


「星が綺麗だよ」

「! わあ!」


 指差された先には、満天の星空がありました。夜も明るいアールタッドに来てからは縁遠かった星空に、思わず息を飲みます。

 ハサウェスでは毎日観ていた空ですが、アールタッドはどんな夜も魔石ランプや篝火の灯りで星が観づらくて、ご無沙汰していました。


「ルチアが言っていたことと一緒だよね。魔法は便利だけど、頼りきりになったら……こうやって見落としてしまう小さなことが出てくるんだろうね」

「そう……ですね」


 たとえば星を。

 たとえば小さな声を。

 魔法は便利だけど、それを使い続けることで、わたしたちは大切なものをその手からこぼしていきそうです。


 わたしは驕っていたのでしょう。

 汚れを落とすだけだった“シャボン”に、この世界を支える天晶樹を綺麗にする力があると知って、請われるままに浄化に手を貸しました。

 それをすべき人はちゃんといたのに、その人のサポートではなく、代理を務めてしまいました。

 その人を守ろうとして使った力は、結果その人を追い詰めてしまったのです。


 気をつけていたはずだったのに、いつの間にか魔法を使うことに慣れてしまったことを知り、わたしは恥ずかしくなりました。

 今、わたしが持つ力は、洗濯だけに使うわけではないんです。もっとちゃんと考えてやらなければダメだったのに。


「どうすれば--いいんでしょう」

「ルチア?」


 思わず漏れてしまったかすかな呟きを、セレスさんは拾ってしまいました。


「なんでも--」

「ないって顔じゃないよね?」


 セレスさんは鋭いです。

 わたしは歩みを止めました。隣を歩くセレスさんも、足を止めてわたしを見つめています。


「聖女様のこと?」

「……っ」

「その様子だと当たりみたいだね」

「な、んで……」


 言葉を失うわたしの手を、セレスさんはすくい上げました。


「聖女様はさ、天晶樹を浄化するために異世界から招ばれた方だよね。俺たちは、あの方から世界を奪った。あの方がこの世界にいるのは天晶樹を浄化するため……」


 静かなセレスさんの声に、かすかに川のせせらぎが重なります。


「浄化ができる人間が聖女ならば、ルチア、君も聖女だ。異世界の聖女様に、この世界の聖女。無理矢理他の世界に連れて来られたのに、自分の他に同じことができる人間がいるとか、悩んでも仕方ないよね。そしてそれは、期せずしてそのことの引き金となってしまった君にも言える。君の様子がおかしいのは、そのことを気に病んでいるからじゃない?」

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