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ルチア、力を揮うことに怯える

 結局、マリアさんは食事をとりませんでした。

 少しでも栄養が摂れるようにと、ポリッジに添えたスープを数口飲んだくらいで、ガイウスさんとセレスさんが建てた天幕へ早々に引っ込んでしまいます。


「ルチア! さあ、楽しい実験の時間だよ! まず計測から行こっか。計測して、普通に使って、計測して、水晶を触って使って、計測する。簡単なお仕事だよ!」


 食事の片付けをしていると、計測器を片手に、上機嫌なエリクくんがやってきました。

 たしかにお約束しましたし、片付けが終わってしまえば自由時間です。マリアさんのいる天幕へはちょっと戻りづらいわたしの時間はありあまっています。


 ですが、正直今は“シャボン”を使うことにためらいがあります。

 今まで魔法を使うことは、誰かを喜ばせることでした。服が綺麗になってよかった。そう言って喜んでくれる笑顔しか、わたしは知らないんです。誰かを傷つけることがあるなんて、思ってもみなかった。

 力を使うことが怖い。初めてそう思いました。


「あの、わたし--」

「水晶が使えたら、もう浄化で倒れることはないんだ。それってすごいよね! 皆助かるよ!」


 エリクくんは興奮しているのか、いつもより声が大きく感じます。


 浄化で倒れることがなくなれば、たしかに浄化で困ることはないかもしれません。

 ですが、浄化はわたしのお仕事ではありません。それを求められて旅をしているのは、マリアさんです。

 わたしがそれを奪ってしまったせいで今のマリアさんの状態があるとするならば……わたしは浄化しない方がいいのではないでしょうか。

 わたしは聖女ではありません。聖女として招ばれたのは、マリアさんなんですから。


「エリクくん、水晶を使った実験は、また今度でお願いします。お約束を破ってしまって悪いんですけど、今日はもう暗いですし」

「あー、たしかにもうよく見えなくなってくるね。それならまた今度の方がよく観察できるかも。うん、それじゃまたにしようね!」


 実験を楽しみにしていたエリクくんには申し訳なかったのですが、先延ばしにさせてもらって、わたしはこっそり胸をなでおろしました。


 お鍋や食器を片付けて、手持ち無沙汰になったわたしは、近くに川があったことを思い出しました。お片づけが終わったことですし、ふきんなんかは簡単に洗濯をしてしまいましょう。

 いつもなら干すところに困るようなときは洗濯をしませんが、今日は気持ちを落ち着けたいこともあって、無性に洗濯がしたいです。そういえば途中で寄ったアマリスの街でも、洗濯をして落ち着こうとしてましたね、わたし。


「ガイウスさん、ちょっと川へ洗濯しに行ってきます」

「水ならあんだろ? もう暗くなるし、やめとけやめとけ。それよりアレうまかったな、クリームチーズのディップ。また作ってくれや」


 ガイウスさんは意外と甘いものが好きなようで、堅焼きパンに添えた、ナッツとドライフルーツにクリームチーズを混ぜて作ったディップを人一倍食べてました。リクエストするなんて、相当気に入ったんでしょうか……?


「あれは殿下も嫌じゃなさそうでしたし、多分機会があれば、また」

「王子サマは口煩くていけねぇや。庶民のものもおとなしく食べろっての」


 食事中にドライソーセージが嫌だと野菜炒めを押し退けた殿下を思い出したらしく、ガイウスさんは苦い顔です。


「王宮では保存食なんて出ないでしょうし、仕方ないですよ」

「おまえの飯はうまかったぞ。オレが保証する。王子サマは酒を飲むようになったらドライソーセージの旨さがわかるさ。まぁ、たしかに安いのはマズいけどな!」


 突然リクエストをするなんて珍しいと思ったら、ガイウスさんはわたしを気遣ってくださってたんですね。

 ガイウスさんの気持ちが嬉しくて、心がほっとあったかくなりました。


「ありがとうございます」

「礼を言われるようなことはしてねぇよ」


 照れ臭そうに笑うガイウスさんに、わたしも思わず声を立てて笑ってしまいます。


「でも、すぐ帰ってくるから平気ですよ!」

「そうかぁ? おぉい、隊長サンよぉ!」

「ガイウスさん!?」


 それでも言い募ったのが間違いでした。

 頑ななわたしを言い含めるためなのか、はたまた違うのかはわからないけれど、ガイウスさんはなんとセレスさんを呼んだのでした。

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