表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/178

ルチア、竜と出逢う

 目を開けると、視点が合わないくらい近くに、なにか白っぽいものがありました。


「はい!?」

「きゅーあ!」


 びっくりして身体を起こすと、ころんと膝の上にその“なにか”が落ちます。


 それは--1頭の竜でした。

 まだ小さな幼体ですが、パールホワイトの身体にはしっかりとした翼があり、脚の先には可愛らしいけれど鋭い爪が見えます。


 竜の幼体はぷくぷくとしたお腹をこちらへ向けて、お日様みたいな金の瞳をきょとんと丸くしていました。まるで、なにも知らない赤ちゃんみたいに。


「きゅ?」


 鼻を鳴らして仔竜はわたしにすり寄ってきます。え? なにがどうなってるんですか⁇


「ルチアっ!」

「はいぃっ!」


 びっくりして仔竜を眺めていたわたしに、横から誰かが突進してきました。見ればマリアさんです。


「ごめんっ、ごめんねぇ!」


 ボロボロ泣きながら、マリアさんはぎゅうぎゅうと首に腕を回して抱きついてきます。う、ちょ、ちょっと苦し……!


「聖女様、一旦お離しください。ルチアが息できてません」

「えっ、あ、ごめんね!?」


 セレスさんが横から助け船を出してくれました。ようやく一息つけたわたしは、改めて自分の置かれた状況を確認します。


 わたしは天幕の中にいるようでした。クッションを枕にして、毛布を被せられています。膝の上に白い仔竜。横にマリアさんとセレスさん。そしてエリクくん。


「あの、わたし……」


 天晶樹がどうなったのか。そしてこの仔竜はどこから来たのか。

 疑問に思っていたことは、セレスさんが教えてくれました。


「ルチア、ありがとう、君のおかげでキリエストの天晶樹は浄化された」


 セレスさんは立ち上がると、天幕の入り口を開けて外を見せてくれました。

 入り口の向こうに見えるのは、暮れはじめた薄紫色の空を背景に、オパールのような不思議な輝きを見せる天晶樹があります。


「君が浄化で力を使い果たし昏倒した後、この竜が卵果から生まれた。引き剥がそうとしたがくっついて離れなかったから、仕方なしにこのままでいたんだけれど……」


 セレスさんのため息に、エリクくんが手を伸ばして仔竜をつまもうとしました。でも、仔竜はわたしの脚にひっしとしがみついて、エリクくんのところへ行こうとしません。


「ほらね、こんな感じ。さすがにルチアごと灼いたり斬ったりできなかったんだよね〜」

「だから! この仔悪い魔物じゃなさそうだし、このままでいいじゃん!」

「竜だよ!? いつ凶暴化するかわかんないじゃん!」

「こんなに可愛い仔を殺すとか、この鬼畜! 人でなし!」

「聖女様は去年の竜の被害を知らないからそんなこと言えるんだよ!」


 声を荒げたエリクくんに、マリアさんも負けじと大きな声を上げました。


「知らないからこそ言えるのよ! どう見ても敵意ないじゃん! 懐いてるじゃん! こんな可愛いのに、殺せとかアタマおかしい! しかも、この仔のおかげでルチアの魔力回復したんでしょ!? メリットしかないじゃん!」


 マリアさんの声に、ふと我に返ります。そういえば、アールタッドで昏倒したときとは、身体の様子が違いますね。全然寒くもだるくもないですし、普通に身体を起こせます。魔力回復薬を飲んだときのような状態ですが……今のお話からすると、それはこの仔が回復してくれた、ということなんでしょう。


「あなたが回復してくれたの?」

「きゅい!」

「ありがとね。すごく助かりました」


 こちらの言葉がわかるかのように、仔竜はきゅいきゅいと得意げに鳴きます。


「ルチア、も一度計らせて」


 エリクくんから計測器をお借りして計ると、青い線はさっきよりぐんと高くなっていました。


「フル回復してるっぽいね。うーん、なんでだろう? 竜にこんな能力があるなんて聞いたことないよ」


 めちゃくちゃ気になるけど……と唸って、エリクくんは計測器とにらめっこを始めます。


「ヤバイ、これはヤバイ。研究材料としてめちゃくちゃ魅力的なんだけど。調べたいのに、なんでここに機材がないんだ! ああ、でもいつ凶暴化するかわかんないし……」

「そんなんルチアに定期的に魔法かけてもらえりゃいいじゃない」

「うーん。それって、あり? 悩むなぁ」


 難しい顔で悩むエリクくんを一瞥すると、セレスさんがわたしに問いかけてきました。


「それはさておいて。ルチア、具合はどう? どこかおかしなところなんてない?」


 青空のような瞳には、心配そうな光がたたえられています。まっすぐわたしを見るその目に、胸が苦しくなります。


「問題ないです」

「無理はしてない?」

「大丈夫ですよ。ほら、この通りです!」


 セレスさんの心配を拭おうと、わたしは膝にしがみつく仔竜を抱き上げて立ち上がりました。この通り、立ちくらみすらしませんよ!


「きゅきゅっ!」

「ごめんね、痛かった?」

「きゅーいっ!」


 立ち上がった瞬間に力を入れてしまったのか、胸元に抱き上げた仔竜が、抗議の声をあげます。どうしましょう、か、可愛い……!

 マリアさんの言う通り、この仔を害するのは無理です。あの凶悪な竜になると思うと害のない今のうちに……と思うのもわかるのですが、この目を見たら手にかけることなんてできませんよ!


「そっか……よかった」


 わたしの元気な姿を見て安心したのか、セレスさんはいつもの優しい笑顔を浮かべました。好きかもしれないと自覚してから、この笑顔を平気な顔で受け止められなくなってきているわたしがいます。

 もうっ、静まれ、わたしの心臓!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ