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ルチア、ひとり思い悩む

 お風呂からあがると、もう皆さん待っていらっしゃいました。


「すみません、お待たせしました!」

「オトコが待つのは当然でしょ!」


 あれ、殿下と団長さんがいませんね?

 わたしは並んで立つセレスさんとガイウスさん、レナートさん、エリクくんを見ました。


「あれ、エドとフェルは?」


 マリアさんも同じことを思ったようです。キョロキョロとあたりを見回すと、レナートさんが口を開きます。


「一足先に殿下を宿にお連れしています。さあ、聖女様、ルチア嬢、参りましょう」

「そうだよ〜。もう、オンナノコって支度長いよね〜」

「おう、嬢ちゃん行くぞ! 腹が減っては戦はできぬってな。メシ行くぞメシ」

「セレス!」


 そうですね、早く行きましょう!

 歩き出そうとしたとき、隣にいたマリアさんがセレスさんの首に抱きつきました。そのまま耳元に顔を寄せてなにか囁いたようです。セレスさんが驚いた顔をして、そしてパッと顔を赤くしました。マリアさん……なにをお話ししたんでしょう?


「ふふん、じゃあね、セレス! さ、ルチア行こっ!」

「あ、はい……」


 顔を赤らめたセレスさんを気にしつつ、わたしはマリアさんに手を引かれて歩き出しました。

 なんだか、胸が痛いです。急に水をかけられたような、そんな気持ち。

 ちらっとセレスさんを見ると、セレスさんもこちらを見ていました……が、目があった途端逸らされました。

 え、なんで⁇ どうしてでしょう⁇

 わたしは混乱しました。だって、さっきまで普通にお話してましたよね? なにかしましたっけ、わたし?

 もしかして、マリアさんに抱きつかれたところを見たのがいけなかった……?


「ルチア、早く! どうしたの?」

「いえ……なんでも、ないです」


 モヤモヤした気持ちを抱えたまま、わたしはマリアさんの後を追って宿へ向かったのでした。


 ※ ※ ※ ※ ※


 ガイウスさんとの旅では、宿泊時の食事は街の食堂や屋台なんかで済ましたのですが、皆さんはそれぞれお部屋で済ますのだそうです。たしかにお城でお育ちになった王太子殿下は、わたしたちが食事をするところではしづらいのかもしれませんね。

 なので、わたしはマリアさんとの2人ごはんです。


「今まではおひとりだったんですか?」

「エドと食べてたわよ?」


 1人で食べるのは味気ない気がして尋ねると、マリアさんはなんてことないように答えました。え、それじゃ殿下は今1人ですか⁇


「殿下と食べなくていいんですか?」

「今日は……あ、そうだ!」


 フォークを手に取ろうとしていたマリアさんは、ふとなにかを思いつかれたように声をあげました。


「ごめん、今日はエドのとこ行ってもいい? ちょっと話があるの!」

「あ、はい。もちろんですよ!」

「よっし、明日からのために、ちょっくらオネダリしてくる! ルチア、明日からは一緒だからね! 今日はごめん!」

「大丈夫ですよ〜」


 マリアさんはおねだり宣言をすると、夕ごはんが入ったトレイを持って、足音も高らかに殿下のお部屋へと駆けて行きました。走るとスープこぼれちゃいますよ!


「…………」


 1人部屋に残されたわたしは、スープを口に運びます。ジャガイモのポタージュはおいしいのですが……なんでしょう、みぞおちのあたりが重くて、食が進みません。

 原因はわかってます。セレスさんです。


「セレスさん……マリアさんのことが好きなのかな」


 ちょっと女の子扱いされただけで浮かれていた自分が恥ずかしいです。

 抱きつかれて赤くなっていただけかもしれません。好きとかそんなのじゃないかもしれません。

 でも、可愛くて綺麗で、誰が見ても美人さんだと認めるマリアさんと、ちょっと仲がいいだけの平凡なわたし。どちらが恋愛対象かって問われたら……選ばれる気がしませんよ。


「ダメです! こんなことでうじうじしてる場合じゃないです!」


 頭を振ってセレスさんのことを追いやると、わたしはスプーンを置きました。お腹は全然空いてませんし、ちょっと気分転換に外の風に当たってきましょう。


 ※ ※ ※ ※ ※


 夜のアマリスの街はにぎやかでした。大通りは魔石ランプがそこここに掲げられて、ほんのり明るいです。


 わたしはなにも考えずに、少しでこぼことした石畳の道を歩きました。王都の大通りは綺麗なモザイクタイルでしたが、ここは普通の石畳です。ハサウェスもそうだったので、なんだか懐かしいです。

 今の時間は食堂か酒場くらいしか開いていないのですが、皆さん楽しそうにしてますね。活気があるっていいことです。


「彼女、ひとりぃ?」


 ぼうっと歩いていると、突然肩をつかまれました。振り返ると、見知らぬお兄さんがニコニコ笑っています。お酒の匂いがしますし、酔ってご機嫌みたいですね。


「はい、少しお散歩してました」

「一緒に飲もうよ? あははは〜」

「いえ、わたしはまだ飲めないので。だいぶ酔ってるみたいですね、お水飲んだ方がいいですよ」

「お水ぅ〜! ひゃははは!」

「広場に共同井戸がありますよ。行けますか?」

「一緒に行こうぜ〜。なあ!」


 ……ダメです、この人完全に酔ってます。

 そして完全に絡まれたみたいです。肩を抱きかかえられるようにされたので、身動きが取れませんよ! 重い……!


「お兄さん、重いです! わたしじゃ支えられませんって! お願い、歩いてください!」

「あははは〜。いやだよ、お酒飲もうよ! お兄さん奢っちゃうよ!」

「だから飲めませんってば!」

「おいしいよ〜。女の子のお酌があれば、もっとおいしい! やったね!」


 お散歩、するんじゃありませんでした……!

 後悔先に立たずとはよく言ったもので、こうなってはもうどうしようもできません。王都は常に第5隊の方が警邏していたので、ちょっと危機感が薄れていたようです。


 困ったわたしの手を引いて、酔っ払いのお兄さんは移動し始めます。行きませんよ!

 あ、“シャボン”かけたら変わるでしょうか? 服の汚れが落ちるだけかもしれませんが、少し酔いがさめたり……しないかな。どうでしょう。

 わたしは自由な方の掌を、ぎゅっとにぎりしめました。

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