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ルチア、混乱する

 え、今なんて言いました!?


 わたしは耳を疑いました。なんだかすごく都合のいい解釈ができそうなことを言われた気がします。

 フェデーレさんからいただいた髪油の香りに妬けるって……待って、本当に待ってください。今わたしの脳が勝手に勘違いしようとしてますよ!

 そんな、もしかして、まさか。


 少しくらいは、お友達じゃなくて、女の子として見てもらえてたり、しますか⁇


 いえいえいえ! ダメです、まず落ち着いて! 他の解釈ができないかも考えましょう!


 Q.他の男性からプレゼントされた香りをさせていると、妬けると言われました。

 A.他人に取られたくないと思っています。贈り主を。


 そうですね! 取られて困るのはわたしじゃないですよね--って、なんか違います。この場合、贈られたことに嫉妬してるとしたら、フェデーレさんのお名前を出しますよね。

 あれれ、他、他の解釈!

 ダメです、頭がぐるぐるして考えられません!


「ルチア」


 ひー!

 やめてください、耳元で囁かないで! 今はダメですっ! くすぐるみたいに笑わないで!


「真っ赤になってるの、可愛いね」


 そうですよ、これはわたしの反応を楽しむための発言ですね! ですよね! からかってるだけですよね!


 だってそうじゃなかったら。

 もし本当にわたしを女の子として見ていてくれるとしたら。

 そうだったら--わたしは。


 この、胸の中の気持ちに、名前をつけてしまいます。


 一緒にいたら楽しいんです。

 晴れた青空が待ち遠しいんです。

 すごく怖かったとき、胸の中で名前を呼ぶだけで頑張れたんです。

 褒めてもらえて嬉しかったんです。

 また会えて、一緒に旅ができて幸せなんです。


 セレスさん。


 わたし、あなたを好きになっても、いいんですか……?


「セレスさん--」

「そろそろ次の街につくぞ!」


 意を決して話しかけようとしたそのとき、アグリアルディ団長の声がしました。慌てて顔を上げると、街の城壁がもうすぐそこに見えています。


「残念、着いちゃったね」


 セレスさんは密着した身体を離すと、そう言いました。

 残念なような、ホッとしたような、複雑な気持ちです。


 そうして、セレスさんにかける言葉を失ったまま、わたしはアマリスの街へ入ったのでした。


 ※ ※ ※ ※ ※


「ルーチーアー!」


 今日泊まるという宿へ着くと、マリアさんが馬車から走ってこちらへきました。


「今日、一緒に泊まろう! あたしと同じ部屋ね!」

「マリアさん!」


 ギュッと手を握って、嬉しそうな笑顔を見せるマリアさんは、すっごく可愛いです。この笑顔には王太子殿下もメロメロになっちゃいますよね! すごくわかります。


「セレス、ルチアは返してもらうからね!」


 そのまま腕を絡められて連れて行かれます。わわ、マリアさん、意外と力ありますね!


「パジャマパーティーしようね! ごはんも一緒に食べよう! あ、お風呂ってあるのかな? ねぇ、フェル! ここってお風呂あるの!?」

「個別に湯殿がある宿は、アールタッドなどの都にしかありませんよ。普通の街は共同浴場です。ですが安全面からお認めできませんと--」


 勢い込んでマリアさんはアグリアルディ団長に尋ねました。

 お風呂は貴族やお金持ちのお家、そしてそういった人たちが泊まられる宿には設えてあるそうですが、基本は皆街の真ん中にある共同浴場へ行きます。アマリスはさほど大きな街ではありませんから、お風呂付きの宿はないんですね。


「ルチアがいるからいいじゃない! ケチなこと言わないでよ! あたしは毎日お風呂入りたいの! 旅の間ずっと我慢してるのに、いっつも危ないからダメだってそればっかり! あたしは赤ちゃんじゃないのよ、なにかあったら魔法でやっつけてやるわ!」

「ですが--」

「いいじゃねぇか、団長ドノよぉ! 聖女ドノだって慣れない旅で疲れてんだろ? ちっとぐらい自由にさせてやんなよ。嬢ちゃん、なにかあったらシャボン玉吹きかけてやんな。相手も大人しくなるだろうよ」


 首を振る団長に、ガイウスさんが助け船を出してくれました。相変わらず優しいです。

 ですが、わたしの“シャボン”をかけて、魔物でなく人間も大人しくなるかなんてわからないですよ?


「え、人にかけてそうなるかなんてわからないんですが……」

「聖女ドノがいい例じゃねぇか」

「なによ! 失礼な熊ね!」

「ほれ、聖女ドノにかけてやんな。おかんむりなのが治まるだろうさ」

「うっさい熊野郎!」


 マリアさんはガイウスさんに向かって舌を出してみせると、わたしに抱きついてきました。


「ルチア、守ってくれるんでしょ?」


 そう言うと、マリアさんはウルウルとした大きな目で見つめてきます。

 こんな風に頼られて、ダメですなんて言えません!


「ねぇ、それなら実験しようよ実験!」


 弾む声でエリクくんが提案します。


「誰が実験台になるというんですか。魔法使い殿、ここはアカデミアではないんですよ」

「副官さんは先生みたいなこと言うね! でも、試してみることって大事だよ?」

「エリクの言うことももっともだ。マリア、行っておいで。いいね? フェルナンド」

「やーん、エドって話わかるぅ〜! ありがと、そゆとこ、大好きぃ」


 マリアさんに甘い殿下の一声で、アグリアルディ団長は渋々といった様子でしたが、マリアさんの共同浴場行きを認められました。

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