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ルチア、聖女様を洗濯する

「ルチアさん」

 

 レナートさんとエリクくんの掛け合いを眺めていたら、お手紙を片手に王太子殿下とお話されていた団長様がやってきました。

 団長様は、マントをひらりとはためかすと地面に膝をつきました。あっという間に手を取られてしまいます。


「改めて挨拶させてほしい。騎士団長を務めるフェルナンド・アグリアルディだ。ルチアさん、きみは城の危機を救ってくれたそうだね。国を守る騎士として、心からの礼を言わせてくれ。怖かったろうに力を揮ってくれてありがとう」


 そう言うと団長様は、わたしの指先に額をつけました。あれ、思ったのと違いますよ⁇ セレスさんは指に……って、思い出しちゃいましたよ! 恥ずかしい!


「ルチアとか言ったな、僕も褒めてやる。よく戦った」

「エドアルド殿下、それでは臣下はついてまいりませんよ」

「フェルナンドは口煩い」


 バンフィールド王国の王太子であられるエドアルド殿下は、たしか今年20歳ってお話でしたよね。拗ねたような口調は、年齢よりもわずかに幼く感じられます。甘えられるくらい団長様を信頼してらっしゃるんでしょうね。


「マリア、そろそろ戻っておいで。あまりセレスにくっつくと、妬けちゃうよ?」

「やだぁ! エド可愛いんだからっ」


 ……なんでしょうね? わたしたち、お邪魔でしょうか? 聖女様、セレスさんと仲良しかと思ったんですが……んんん⁇


「じゃ、あんたも行くわよ!」

「はい!?」

「なにボケてんのよ! あたしの侍女になるんでしょ? 侍女は一緒にいるのよ! 洗濯物溜まってんの、お願いね! あ、あたしが服持つから、一緒にシャボン玉かけてくれてもいいのよ?」


 聖女様はいつの間にか王太子殿下から離れると、わたしの腕を引いて馬車の方へ進みます。


「あ、ルチア」


 ガイウスさんと顔を付き合わせていたセレスさんがなにか言いかけましたが、聖女様が腕をつかんだままガンガン歩かれるので、声を返す暇すらありませんでした。ごめんなさい、セレスさん。でも、どういう距離を取っていいのか悩んでいたので、これはこれで有り難かったかもですね。


「さ、ここよ! あとでエドも来るから。で、これが洗濯物! さっきの魔法で綺麗になるのは間違いないのよね?」

「あ、はい」


 バタン!と勢いよく馬車のドアを閉めると、聖女様はクッションごと座席を上に跳ねあげて、中に入れてあったドレス類を取り出しました。


「さ、早く!」


 どことなくワクワクした面持ちで、聖女様はドレスを差し出します。えっと、聖女様ごと“シャボン”をかければいいんですよね?


「《シャボン》!」


 広いとはいえそれでも外よりは断然狭い車内に、一瞬シャボン玉が溢れかえります。これは……中で使うのは間違ってたかも。

 次は必ず外に出てからにしようと、わたしは心に決めました。重ね重ねごめんなさい、聖女様。


「あんたのさぁ、そのシャボン玉、最初はなにかと思ってムカついたけどさ、なかなかいいわね!」


 シャボン玉に包まれたというのに、聖女様はご機嫌です。シャボン玉……気に入られたんでしょうか。だとしたらよかったです!


「で、あんた、ルチアとか言ったっけ?」

「はい、聖女様。よろしくお願いします!」

「あー、その“聖女様”っての、やめてくんない? 皆聖女様聖女様言うけどさぁ、気分悪いのよね! やめてくんないし。こっちの世界の人間って、頭固いのが多いの?」


 跳ねあげてない方の座面にどさっと腰掛けると、聖女様はダルそうにおっしゃいました。


「それではなんて呼ばれたいですか?」

「あたしの名前は西銘にしめ真理亜まりあ。真理亜でいいよ」

「マリア様?」

「様はやめて!」

「じゃあ、マリアさん?」

「……まぁいいわ。あんた、今までの侍女たちと違ってフツーなのね」


 普通。まぁそうですよね、王宮で侍女を務められるのは、花嫁修業を兼ねた貴族のお嬢様が主です。わたしに気品や貴人に対しての礼儀作法を求められても困っちゃいますし。


「すみません、今までが洗濯婦だったので、侍女としての常識なんかはないんですが……」

「侍女の常識ぃ? それって人のこと持ち上げといて、裏でコソコソ悪口言うアレ? それとも横目でチラチラチラチラ、エドやセレスを盗み見た挙句、ちょっとでも接触できそうだと、我先に群がるアレ? あんたたちの世界って、ホンット勝手よね!」


 鼻を鳴らしてマリアさんは足を組み替えました。ドレスの裾がめくれて脚が見えちゃってますが、いいんでしょうか? 貴族の女性は脚を見せることを忌避されると言いますし、こういう行動が侍女を務める上流階級の子女の方には受け入れられなかったんですかね?


「あの、マリアさん」

「なによ?」

「わたし、マリアさんにお会いできたら、どうしても訊いてみたかったことがあるんです」

「な、なによ? あんたもなにか……」

「マリアさん、やっぱり戦うの、怖いですか? わたしは初めて魔物と遭ったとき、とても怖かったんです。それで、マリアさんも同じように怖いんじゃないかなって」


 わたしは疑問に思っていたことを口にしました。


「怖かったらなによ!」

「もし戦うのが怖いなら、わたしが守ります」

「……え?」

「わたしは戦えませんが、“シャボン”には魔物から闘争心っていうんですか? 敵意とかそんなものを消すような力があるようなんです。だから、それをかければマリアさんは戦わなくてすむかなって」


 そう告げると、マリアさんはぽかんと口を開けました。

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