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ルチア、聖女様の侍女になる

「はぁ!?」


 ガイウスさんの発言に、皆さんが驚きの声をあげました。

 ていうか、ガイウスさん、わたしと聖女様の力は“浄化する”というところしか似てないですよ!


「団長サンよ、ほら、手紙だ。詳しいことはそこに書いてある」


 ガイウスさんは内ポケットからお手紙を取り出すと、短い金髪をうしろになでつけた、威厳のあるおじさまに手渡しました。髪の毛が頭のてっぺんでぴょんぴょん跳ねてるのが、ちょっとだけ可愛いです……って言ったら失礼でしょうか⁇


「ちょっと! なに、それ? 意味わかんないんだけど?」


 柳眉を逆立てて怒ってらっしゃるのは聖女様でした。

 足を踏み鳴らすようにして近づいていらっしゃると、ガイウスさんの前で胸を反らすように立ちました。


「あたしと似た力? そんなの持ってる奴がいたなら、あたしを呼んだ意味ないじゃん! なんのために呼んだわけ!? ふざけんのもいい加減にしてよ!」


 物語のお姫様のように綺麗な顔を紅潮させて、聖女様は怒っていらっしゃいました。黒曜石のような瞳が、怒りでキラキラと光って見えます。


「あんた!」

「はい!」


 ギッと睨みつけられて、思わず背筋が伸びました。


「なにしに来たのよ!」


 なにしに……この場合、聖女様のお手伝いと言っていいのでしょうか?


「今更のこのこ出てきて、なんのつもりよ! セレスから離れてよ!」

「聖女様、彼女は--」

「セレス! あなたはあたしの護衛でしょ! なんでこんな地味な女と仲良くしてるのよ!」


 聖女様は、セレスさんの隊服の胸元をつかむと、そう怒りました。


「今、ただでさえ腹立ってんのに、なんで更に怒らすわけ!? 帰ってよ! “聖女”は2人もいらない!」


 聖女様、なにか嫌なことでもあったんでしょうか。今のお話だと、最初から怒ってらしたってことですよね?

 まずはお怒りを鎮めていただくのが先ですよね。どうしよう?

 わたしはとりあえずお話をすることにしました。


「聖女様」

「なによ!」

「はじめまして、ルチア・アルカと言います。わたしの力は、元は洗濯物の汚れを取るだけのものでした。たまたま魔物にかけたために違う効果があることがわかっただけで、聖女様のような光の魔法ではありません」


 初対面ですし、挨拶は大切です。それに誤解も解かなくては。聖女様とわたしでは、天地の差があるんですよ、聖女様!

 そう思い、わたしは聖女様へ自己紹介をしました。聖女様、びっくりされると大きな目が更に大きくなるんですね。睫毛も長くて、美少女ってこういう人のことを言うんだなって、そう思います。


「はぁ!? 洗濯物の、汚れ?」

「はい。どんな汚れでも取りますよ!」

「じゃあ、このドレス綺麗にしてみせてよ! そしたらあたしの侍女にしてあげてもいいわよ?」


 聖女様は着てらしたドレスの裾を広げました。薄いピンクのドレスに、蒼い飛沫が点々と散っています。

 これ、魔物の体液ですよね。たしかにこれは普通の洗濯では落ちないんですよ!


「はい、お任せください! 《シャボン》!」

「うわっ!」


 洗濯物の汚れ落しなら得意技です!

 聖女様のお洋服に“シャボン”をかけると、声を上げて驚かれました。すみません! いきなり魔法かけたら驚きますよね! ごめんなさい!


 現れたシャボン玉に、セレスさんとガイウスさん以外はあっけにとられたような顔をしました。ですよね、シャボン玉って子どものときくらいしか遊びませんしね。


「な--」

「ちょっと! キミ、今の魔法ナニ!? 見たことも聞いたこともないんだけど!」


 綺麗になったドレスをまじまじと眺めてらした聖女様を押しのけるようにして、アカデミアのローブを着た男の子が現れました。澄んだ琥珀色の瞳が、好奇心でキラッキラと輝いています。まさに興味津々といった様子です。

 男の子が身につけているローブの色は、まさかの臙脂色。見た目は10歳そこそこな印象ですが、相当優秀な方でいらっしゃるようです。


「ボクはエリク・アクアフレスカ。見ての通りアカデミアの研究員だよ!」


 男の子はローブの裾をつまんでみせると、ニコッと全開の笑顔をわたしに向けました。人懐っこくて可愛いです。


「アクアフレスカ様、はじめまして。ルチア・アルカです」

「エリクでいいよ! 敬語もめんどくさいからいらない! それよりルチア、その魔法だけど--」

「ちょっと! あんたらなにのんきに自己紹介してんのよ!」


 聖女様はエリク様とわたしの間に、身をよじるようにして入り込みました。ぎゅっと胸元をつかまれて、少し苦しいです。


「エリくんは引っ込んでて! ちょっとあんた、ルチアとか言ったわよね? そのシャボン玉、なに? 今のそれのせい?」

「汚れが落ちたことですか?」

「違うわよ! その--ちょっとばかし気分がよくなったっていうかぁ……とにかく、その温泉みたいな奴、あんたの力なのね!?」


 聖女様は、わたしの胸元をつかんだまま、もごもごとなにかを呟かれます。白いほっぺたがちょっと赤くなっていて、すっごく可愛いです。


「決めた、ルチアとか言ったわね? あんたあたしの侍女になりなさい! 帰っちゃダメ。あ、侍女って言っても、ウザく世話なんて焼かないでよね! そういうの、ホンットいらないから。ただ、毎日今のかけて! 余計なことしたらすぐ帰ってもらうからね!」

「マリアがそこまで言うの、初めて見たなあ! 相当気に入ったんだね」

「エド!」


 近づいてらっしゃった王太子殿下に、聖女様はパアッと顔を輝かせました。


「そんなことないのよぅ。ただ、毎日お風呂入れないでしょ? 今の、お風呂に入ったときみたいな感じだったからね、ちょうどいいなあって。あと、侍女がいたらお洗濯助かるなあって思ったのよ。でも、使ってみて前の人たちみたいだったら、あたしやっぱりいらないし。ウザいのキライなの。エドもそうでしょ?」

「マリアは自由だねえ」


 キラキラした王太子殿下と聖女様が並ぶと、本当に絵のような光景です。


「ルチア」


 おふたりの姿を見ていると、そっと腕を引かれました。セレスさんです。

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