ルチア、聖女様御一行に追いつく
その後、わたしたちはしばらく道なき道をひた走り、大きな街が近づくと寄って情報を得るということを繰り返しました。
もちろん、時には魔物に遭いますよ?
ですが、ガイウスさんは護衛に選ばれるだけあって、とっても強かったです。怖くて動けなくなったわたしに、「そのまま動かなくていい。怖かったら目を瞑っとけ」と声をかけてくださる余裕まであるので、だんだんわたしにも余裕が生まれてきました。
そうです、いつまでも恐怖に竦んでいては旅立った意味がありません。ガイウスさんは戦わなくていいと言ってくださいましたが、肩を並べられなくても足を引っ張らないようにならなくては!
そんなわけで、だんだん魔物との戦闘に慣れてきたわたしは、少しでもガイウスさんのお役に立てるよう、頑張って“シャボン”をかけていくことにしました。どんな効果があるのか、ちゃんと把握しておかなきゃですしね。頑張ります!
「邪魔なんだ、よっ!!」
「《シャボン》!」
ガイウスさんが手にしていた大剣で、目の前の大猪を倒しました。わたしもガイウスさんの背後にいたパイアに“シャボン”をかけて、攻撃を防ぎます。
やはりこの魔法をかけられると、皆一様におとなしくなって、普通の動物みたいになるようです。直前までの敵意がふつっと掻き消えるかのように、わたしたちに興味をなくす様は、見ていて不思議でした。
けれど、おとなしくなったパイアも、ガイウスさんの手によって即座に倒されました。
倒さなくて逃すことはできないのでしょうかと尋ねたところ、やはりこの魔法の効果がどれだけ続くかがわからないため、単に逃すことはできないのだそうです。逃すには、魔物が人々に与える害は大きすぎる。そう言われてしまっては、頷かざるを得ません。
「無抵抗の魔物を屠るのは気分のいいもんじゃねえな。無駄な殺生をしている気になる」
ガイウスさんも微妙な表情を浮かべています。
「出立前にアカデミアで効果を見てもらえればよかったな、嬢ちゃん」
「アカデミアの生徒でなくても見てもらえるんですか?」
「嬢ちゃんの魔法は特殊だからな、多分喜んで招いてもらえただろうよ。旅が終わって城に帰ったら見てもらえばどうだ?」
そうですね、なにはともあれ、まずは天晶樹の浄化を終わらせないとですよね。
ですが、わたしが帰りたいのはアカデミアではなく、元の居場所です。キッカさん、ロッセラさん、ジーナさん、ジーノさんとまた楽しくお仕事をして、晴れた日にはセレスさんとごはんが食べたい。
あのあったかい時間に戻るのが、第1目標なんですよ!
「浄化が終われば、魔物が減るってお話ですよね? そうなったらこの力は洗濯だけに発揮されるものに戻ると思うので、アカデミアの方の手を煩わせる必要はないと思います」
「一理あるな」
わたしの言葉に、大剣を解体用ナイフに持ち替えたガイウスさんが頷きました。
そうそう、魔物の屍体はそのままにできないので、穴を掘って埋めるんだそうです。なので、毎回穴を掘り、解体した屍体を埋めていくんですが……重労働ですよね、これ。
穴掘りはわたしもお手伝いできることなので、わたしは馬の背に積んであった携帯用シャベルを手に取ります。こういう後始末があるので、やはり戦わなくていいなら戦いたくないなあ、なんて思ってしまうのです。魔物は死ななくてすむし、ガイウスさんは戦わなくてすむし、わたしも穴を掘らなくてすむ。うーん、もどかしいです。
そんな感じで、わたしとガイウスさんは旅を続けました。
そして--
「もうっ! どうしてコレ取れないのよっ! エリくん、魔法使いでしょ!? コレ取って! お気に入りなのよ、このドレス! エドがこの旅のために贈ってくれたヤツなのに……セレス、あいつらなんとかならないのぉ?」
「ムリだよ〜。ボク、得意なの火魔法だもん。焼却処分ならできるよ?」
「すみません、魔物の体液は落ちなくて……王城の騎士団付き洗濯部なら落とせる人がいるので、一旦しまっておいてはいかがでしょう?」
「じゃあ、お城戻る! まだ戻れる距離でしょ⁇」
「あはは、マリアは相当気に入ってくれたんだねぇ、それ」
「聖女様、申し訳ないがこれ以上行程を遅らすわけにはいけない。セレスティーノの言う通り、一旦着替えてその服はしまいましょう」
前方から、大層賑やかな声が聞こえてきます。
「お、ようやく追いついたようだな!」
背後でガイウスさんが声を弾ませました。
どうやら聖女様たちを見つけられたようです! よかった!