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ルチア、ガイウスと馬に乗る

「しっかし、本当に嬢ちゃんは馬に乗ったことねえんだなあ」


 アールタッドを出ると、わたしとガイウスさんは曳いていた馬にまたがりました。あらかじめ乗馬の経験はないと伝えてありましたので、馬は1頭のみです。

 わたしはガイウスさんの前に座ったのですが、馬って……馬ってすごく揺れるんですね。

 ガイウスさん曰く「軽く」走らせたところ、1時間経った今、わたしの筋肉は悲鳴をあげていました。休憩のため地面に座っているというのに、まだガクガクと揺れているような気さえします。


「は、はい……結構クるものなんですね。騎士様ってすごいです……」


 辻馬車も揺れましたが、乗馬はさらに揺れがダイレクトにきました。これは絶対筋肉痛になりますよ!


「ヘンに力むから疲れるんだ。もっと無駄な力を抜け。リラックスして背筋伸ばして、馬を信用しろ」


 実践が難しそうなことを言って、ガイウスさんはヒゲをしごきました。


「あとはストレッチかな。股関節が固いと乗るのが大変だ。嬢ちゃん、おまえ毎日ストレッチな」


 えっ、筋肉痛をおしてのストレッチは痛そうなんですが。

 でも、嫌と言える雰囲気でもなく、わたしはそのままガイウスさんからストレッチを習うことになりました。あの、休憩……したいんですけど。


 脚の付け根から伸ばすストレッチを教わって頑張っていると、その横でガイウスさんが地図を広げながらこれからのお話をしてくださいました。


「本隊は王太子ドノも聖女サンもいるから、多分街道沿いを進んでると思うんだよな。王都アールタッドから1番近い天晶樹が目的地として、最初は裏道飛ばせば数日で追いつくか」


 馬……飛ばす気なんですね。たしかに早く合流した方がいいですし、頑張るしかないんですが……お尻、痛いなぁ。


「最初って、そのまま裏道で行ったりはしないんですか?」

「あー、うん、帰ってきたヤツから聞いた話だと、どうやら本隊は大きな街ごとに休んでるらしいんだよな。王太子ドノと聖女サンが野営嫌うらしくて。だから最初は裏で飛ばして、同行した兵士隊が返されたところあたりから街道に入って合流を図ろうと思ってる」


 そう言うと、ガイウスさんは苦く笑いました。

 王子様は野宿なんてしなさそうですしね。なんだか納得です。


「天晶樹まで裏を使ってもいいんだが、合流は早い方がいいしな。嬢ちゃんは野宿平気か? 宿のがいいか?」

「わたしは平気ですよ。王都へ来た際の辻馬車の旅で野営は経験済みですし、多少なら問題ないと思います。ただ、騎士様たちのおっしゃる野営がどの程度の過酷さかがわからないんで断言できませんが……」

「お、意外と根性あるな。頼もしくて助かるよ」


 ガイウスさんはカラカラと笑うと、わたしの頭をくしゃくしゃっと掻き混ぜます。

 ……お父さんって、こんな感じなのかなぁ?

 わたしはひそかにそう思いました。


 わたしのお父さんは、わたしが幼い頃に亡くなりました。

 お父さんはハサウェスの護衛隊員だったそうです。街の近くに現れた魔物と戦って命を落とした。そう聞いています。

 ダークブラウンの髪に、わたしと同じ色をした瞳を持った人。

 背の高い、朗らかな優しい人。

 わたしがお父さんについて知っているのはそれだけです。当時3歳になるかならないかだったわたしには、お父さんとの思い出は残されていませんでした。


 ガイウスさんみたいな人だったのかな。

 同じ髪の色のせいか、なんとなくそんな風に思ってしまいます。

 かたや騎士様、かたや街の護衛隊員と、比べるのはガイウスさんに失礼かもしれませんけど。


「どうした?」

「あ、いえ、なんでもないです!」

「そうか。んじゃ、そろそろ行くか! 今日は裏道を突っ走って、テージョってぇ街に行くぞ。そこでメシ食って、宿が取れれば泊まろう」

「野宿じゃないんですか?」

「初っ端から旅慣れてない嬢ちゃんを野宿させんのも可哀想だろ。さっきのは単なる確認だ」


 高らかに宣言すると、ガイウスさんは休ませていた馬に、鞍や荷物を乗せ始めました。

 準備ができると、わたしはガイウスさんの手を借りて馬に乗ります。ぐんと視線が高くなりましたよ!


「んじゃ、行くぜ! 舌噛まねえようにしっかり閉じてな!」


 お、お手柔らかに頼みます〜!!

 けれども、わたしの悲鳴にならない悲鳴は、風に紛れて届きませんでした。

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