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ルチア、王様に会う

 わたしは部屋から持ってきてもらったワンピースに、ちまちまと刺繍を刺しました。柄は悩みましたが、昔からこの国にある伝統的な柄にしました。お母さんが元気な頃に教わった柄です。

 この部屋から出てはダメと言われてしまってはお仕事もできませんし、結果刺繍に集中するしかなかったのですが、それがよかったようです。

 数日後、ちょうど刺繍が仕上がる頃に、わたしは陛下にお目にかかれるとの通達をいただいたのでした。


「今すぐ、ですか?」


 わたしはお話を持ってきてくださったアストルガ副団長をまじまじと眺めました。

 鋭い目付きのアストルガ副団長は、不躾なわたしの視線にも顔色ひとつ変えずに頷きます。


「そうだ。急遽陛下の時間があけられたのだ。事前に話を通せず申し訳ないが、堪えてくれ」

「あの、服がないんですが……」

「そんなもの、そこにかけてあるヤツでいい。急いでくれ」


 やはりドレスの貸し出しなんかはないようです。うう、準備しておいてよかったかも。心底間に合ってよかったと、そう思います。


 あまりにも突然な申し出に面食らいますが、お忙しい陛下のお手を煩わせるわけにはいきません。

 アストルガ副団長には一旦お部屋を出ていただくと、わたしは出来上がったワンピースを身にまとい、セレスさんからいただいたリボンで髪を結いました。いつもと違って1本でくくるのではなく、編み込んだ髪をハーフアップにした、少し手の込んだ髪型です。


「あの、こんな感じで大丈夫でしょうか? 失礼にはなりませんか?」

「大丈夫だろう」


 急を要するお話なのでしょうか。一体なんの話をされるのかさっぱり読めず、わたしはただただ首をかしげるばかりです。


「とにかく、準備ができたならば行くぞ。陛下がお待ちだ」

「はい、よろしくお願いします!」


 まさか間近で陛下のお声を賜る日が来るとは、夢にも思いませんでした!

 わたしは緊張のせいで冷たくなった指先を握りこみながら、足早に前を行くアストルガ副団長に置いていかれないよう、必死に足を動かしました。コンパスの差ってつらいですね。


 騎士団のある左翼部分を抜け、お城の中央、ちょうど宮殿部分に足を踏み入れたわたしは、その荘厳さにあっけにとられました。

 大理石の廊下にはふかふかの絨毯が敷かれ、ともすれば足が取られそうです。壁には惜しげもなくろうそくが並んでいて、窓がなくてもとても明るいですし、行き交う人も上品で、なんだか夢見心地です。


 謁見の間までは、結構な距離がありました。歩いて歩いてたどり着いたそこは、第1隊の騎士様に厳重に守られていて、ああ、王様って偉い人なんだなあ、なんて改めて感じてしまいます。平民なわたしには荷が重いですよ!


 呆然とするわたしをおいてきぼりにするかのように、よく手入れされたドアが、軋みもなくすべらかに開きました。

 礼儀作法はよくわかりませんが、陛下のお顔を直視するのは失礼にあたるため、わたしは心持ちうつむきながら足を進めます。だ、大丈夫かな?


 それにしても、わたしは何故ここに呼ばれたのでしょう。オーガたちを撃退したせい……でしょうか?

 わたしは視界の端に見えるアストルガ副団長のマントと、ピカピカに磨かれた大理石の床に映る自分の姿を見ながら考え込みました。お叱りなどでないことを祈ります。


「そなたがルチア・アルカか」


 緊張に慄くわたしに、不意に声がかけられました。もしかしなくとも、今のが陛下のお声ですか⁇ 深く響く、威厳に満ち溢れたお声です。


「は、はい……」


 一方、萎縮してしまっているわたしは、蚊の鳴くような声しか出せません。


「そなたが能力ちから、フロリードとイヴァノエから聞いておる。魔物を鎮静化させると聞くが、本物か」


 本物って……偽物とかあるんでしょうか?

 わたしは返答に詰まりました。なんて答えたらいいんでしょうか。その前に直答してもいいのかもわかりません。


「恐れながら陛下、騎士団ならびに兵士隊より報告があがっております。私もこの目で見ましたが、本物かと存じます」


 あ、アストルガ副団長が代わりに答えてくださいました! ありがとうございます。そしてあのとき城壁にいらっしゃったんですか?

 わたしは少しホッとしました。


 けれども、その次の陛下のお言葉を聞いて、再びわたしは呆然としたのです。


「そうか。では、ルチア・アルカ、そなたは聖女マリアを追い、その力を使い聖女を補助せよ。褒賞は十分に遣わす」


 はい……えええ!?

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