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EX)ルチア、新しい家にお客様を迎える

すみません、あと一話続きます。

 ちょうど気候のいいこともあって、庭で育てている花はどれも綺麗に咲いていました。

 昨夜見た皓い光が記憶にあったせいか、その中でも白い花ばかり目についてしまい、ついつい白いものばかりを選んでしまいます。それではいけないと、差し色に華やかな色も選んでみますが……これでいいでしょうか。


 選んだ花を預かってもらい、そのままわたしは外を軽く散歩することにします。お庭はびっくりするほど広くて、貧乏育ちの身としては、引っ越し当初はなんだか勝手気ままに過ごすことが躊躇われました。それも、もう慣れてしまったことを思うと、人間の順応力というものはすごいと思います。


「このまま、外に出たいんですが、今日アルダさんはいらっしゃいますか?」


 調子に乗ったわたしは、庭から外──つまりブランカの街へ出てもいいか尋ねました。元・王太子領の上に、現在治めているのが名高い英雄セレスさんだけあって、ブランカの治安はとてもいいものです。

 ですが、基本的に一人歩きというものは、わたしには許されていません。ひとりでも問題ないし、なにか起こるはずもないとは思うのですが、心配だからとセレスさんに禁じられ、貴族とはそういうものなのだとアナクレリオさんに諭されたため、こちらへ来てからアルダさんという、専任の護衛の方を付けてもらっています。

 このアルダさんという方は、元々ブランカで女性ながらも護衛隊士をされていた方です。なかなか女性でそういった職に就く人は少ないのですが、アルダさんの生家であるブラドーネ家は、男女の差なく皆さん武道に優れていることを誇りとしているそうで、セレスさんの依頼を請けてわたしの護衛を務めてくださっています。


 ですが、この日はアルダさんは所用があるとかで、午後からいらっしゃるようでした。それなら今日はお庭でのお散歩にしようと、わたしは再び歩き始めたのですが──


「ルチア!」


 背後からかけられた声に、わたしはハッとしました。だってそれは、帰りを待っていた相手の声だったんですから。


「セレス! おかえりなさい!」

「待って、行くから走らないで!」


 出迎えに行こうとしたら、即座に止められました。セレスさんは過保護だと、最近とみにそう感じます。走ったりしませんよ、もう!

 そう思ったのはわたしだけではなかったようで、セレスさんの後ろから、快活な笑い声がやってきました。


「相変わらずの過保護っぷりだなぁ!」

「ガイウスさん! いらっしゃいませ!」

「調子はいかがですか?」

「レナートさんも、遠いところをようこそ! 調子はいいですよ!」


 セレスさんが手紙で言っていたお客様は、ガイウスさん兄弟だったようです。懐かしい顔ぶれに嬉しくなって笑うと、セレスさんが向こうの話を教えてくれました。


「ホントは陛下や団長も来たいって言ってたんだけど、二人ともさすがに何日も王都を空けられないからね。残念がってたよ」

「お二人とも、大変ですね」

「その代わりって、手紙を預かってきたよ。あと、贈り物も。エリク殿からもあるよ」

「エリクくんは元気ですか?」

「うん、キリエストで調査に励んでるみたい。今度、アカデミアから調査隊の第二陣が出るって。“学びの塔”からの研究員も、天晶樹の調査に加わるみたいだよ」


 天晶樹の調査のためキリエストへ向かってから、エリクくんはずっと向こうにいっぱなしなのだそうです。たまにお手紙が王都へ届くそうなのですが、その大半が研究についてのことらしいので、ガイウスさんが大笑いしています。


「ちびっこは相変わらず研究馬鹿でなぁ!」

「楽しく研究に励めてるのなら、それが一番ですよ」


 手紙の内容は相当楽しそうな様子です。こらえきれないといった様子で笑うガイウスさんを、レナートさんが窘めますが、一向にとまる様子はありません。


「でも、皆さん元気でよかったです」

「そうですね。ルチア嬢──いえ、今はルチア夫人ですね。いけません、ついつい間違えてしまいます──も、順調のようでなによりです。予定日はもうそろそろでしたっけ?」


 レナートさんの問いかけに頷くと、「セレスティーノ殿が早く帰りたいと大変だったんですよ」と教えてくれました。急かしてしまってすみません……。


 それにしても、とわたしは蒼穹を仰ぎました。

 あの中で、ただ一人今どうしているかわからない人のことを思います。

 ちゃんと帰れたでしょうか。元気にしているでしょうか。

 マリアさんが戻ってから、もう少しで二年になります。短かったわたしの髪も、染めた部分を切っても肩を超すくらいの長さがあるほど伸びました。

 ──誰よりも会いたいけれど、会うことができない人。

 わたしは溜息をつくと、お腹を一撫でしました。


 そんなときでした。


「ルチアー!」


 あんまりにもその人のことを考えていたので、幻聴まで聞こえてしまったようです。

 ですが、懐かしい声にちょっと嬉しくなります。

 元気かな。元気だといいです。むこうで、笑っていてくれれば。

 そう思った瞬間、セレスさんに肩を叩かれました。ガイウスさんとレナートさんも顔色を変えます。


「ルチア!」

「おい、あれ!」

「まさか!?」


 ハッとして指し示された方を見ると、そこには──


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