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EX)ルチア、おもてなしの準備をする

月曜か火曜に完結予定です。

 その日、わたしはひとりで寝室にいました。


 セレスさんは会議のため、少し前から王都アールタッドに行っています。エドアルド陛下がはじめられた議会ですが、創立当初こそ色々揉めたものの、回を重ねるにつれ、円滑に回っていくようになったようです。

 議会では、様々な立場の人たちが席に着くのですが、やはり当初は貴族の発言権が強かったそうです。ですが、陛下は商人や平民の声を拾うよう、すごく尽力してくださったみたいです。「聖女様の言いつけらしいよ」とセレスさんが教えてくれたのですが、いなくなってなお、この世界に影響を与え続けるマリアさんは、やはりかけがえのない存在だと思います。


「今頃、どうしているでしょうか」


 誰も応えないとわかっていましたが、つい口をついて出てしまいます。引かれたカーテンをめくって外を眺めますが、闇に沈んだ風景が見えるだけです。


「お父さん、早く帰ってくるといいですねぇ」


 わたしは、大きくなったお腹を撫でながら、まだ見ぬ我が子に話しかけました。意外と声をかけると中で反応するのでついつい話しかけてしまうのですが、このときもまた、ぽこんと中から衝撃が返ってきました。

 最近はだいぶ動きが鈍くなってきたので怖くなったんですが、産み月が近くなるとそうなるのだそうです。たしかに以前はくるくると中で回転するような、お魚みたいな動きを感じたんですけど、今は会話に反応してぽこぽこ蹴るくらいなんですよね。お腹の中のお魚がなくなってしまってさみしいような、会うのが間近になってきて嬉しいような、複雑な気持ちです。


「まだ早すぎるみたいですね。もう少し寝ましょうか」


 昨日はお昼寝をしすぎて明け方──というより、まだ夜中ですか。陽が上るにはまだ間があるようです──に目が醒めてしまったのですが、やはり子どものことを考えると、もう少し横になっていた方がよさそうです。産み月も近いので動いた方がいいそうですが、それと早起きはあまり関係ないように思えますし。


 カーテンを閉めようとしたそのときでした。

 空に、カッと閃光が奔ります。雷とは違う皓い光は、空全体を明るく照らしましたが、一瞬で消えてしまいました。一体全体、なんなんでしょう?

 わたしは、思わずお腹を押さえました。痛いわけでもなんでありませんが、つい庇ってしまいます。

 ですが、今の光景が夢だったように、外は再び闇に包まれました。

 怖くなったわたしは、その後寝台に戻っても、なかなか寝付くことができませんでした。


          ◆


「予定では、旦那様はもう少しでお着きになるみたいですよ」


 セレスさんからのお手紙に目を通したアナクレリオさんは、優しい声でそう教えてくれました。アナクレリオさんの言葉に、キッカさんが嬉しそうに笑います。


「出産には間に合いそうですね!」


 今までのような気安い言葉遣いは二人きりのときにしかできなくなったものの、キッカさんは常にわたしの側にいてくれます。それは、とても嬉しいことでした。


「今回のお出かけも、しぶしぶでしたからね」

「気持ちはわかりますけどね」


 アナクレリオさんとキッカさんは、わかるわかると互いに頷き合います。

 産み月が迫っている中での議会開催に、セレスさんは当初行くつもりがなかったようでした。陛下もそれでいいとおっしゃられたようなんですが、行って帰ってくるまでにはまだ産まれそうもなかったので、行ってもらうことにしました。


「どうやら、お客様を連れて戻ってらっしゃるようです」

「お客様?」


 子どもができるまではわたしも一緒に行っていたのですが、アールタッドに行くたびに、皆さんが入れ代わり立ち代わり顔を出してくださいました。今回わたしが会えなかったのもあって、セレスさんはどなたか連れて戻ってくるようです。ガイウスさんあたりでしょうか。子どもが産まれたらお祝いに駆けつけるってお手紙をくださいましたし。


「それでは、おもてなしの準備をしなくちゃいけませんねえ」

「はい。手配しましょう」

「あ、わたしもなにか」

「奥様はお子様に集中してください」


 手を挙げかけたら、アナクレリオさんに却下されました。宥めるようにキッカさんが背中を撫でてくれます。


「でも、赤ちゃんのお迎えの準備は済んでしまったんです。産着もおむつも縫ったし、小物だって作ったし、おもちゃもセレスが作ってくれました」

「ですけどね、無理はしちゃいけませんよ。ルチア様はすぐ無理するんですから」

「お医者様は動いた方がいいって言ってらしたんです。キッカさんも聞いていたでしょう? 少しくらいはダメですか?」


 無理はしないからとねだると、ようやく玄関に飾るお花を選ぶお仕事をもらえました。あまり動かない仕事なのは仕方ないです。

 庭師を務めるキッカさんの旦那様に付き添われて、わたしは庭へと向かいました。

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