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EX)西銘真理亜は世界を伝える

マリア編の最後ですが、長すぎたのでふたつに分けました。

今回も二話まとめて更新です。

 舟山さん……あかりに向こうの世界のことを打ち明けるのは、本当は少し怖かった。せっかくできた友達を失くすかもという恐れがあったから。

 でも、もしあたしが向こうの世界へ行ってしまっても、彼女には知っておいてもらいたかった。信じてもらえても、もらえなくても、結局は自己満足なのだ、あたしの。


「聖女?」


 突然告白を始めたあたしに、あかりはぽかんと口を開けた。そりゃそうよね、そうなるよね。あたしがあかりでもそうなると思う。なにコイツって思うと。

 ──だが、あかりはあたしの想像を超えていた。


「なにそれ! すごい! えぇえ~! いいな、すごい!」


 信じないどころじゃない。よもやの大絶賛だ。むしろあたしが唖然としたわ。


「うん、たしかに真理亜ちゃんは聖女ヒロインに相応しいと思う! うわぁ! 素敵! ねえ、その話詳しく聞かせて!」


 それこそ目をきらっきらと輝かせて、あかりはあたしに詰め寄った。いつも二言目には謝るようなあかりだけれど、物語が絡むと態度が一変する。さすがは文芸部だと思ってたけど(あれ? ちょっと偏見入ってる? でも、他の文芸部の人知らないんだよね)、これは予想以上だった。


「く、詳しく?」

「うん、だって、それって数日間行方不明になってた時の話でしょう? あれ、違った? それよりもっと前?」


 ドンピシャで正解です!

 頷くと、あかりはものすごく嬉しそうな笑顔を見せた。欲しいものをもらったときの子どもみたいな、無邪気で愛らしい笑顔だ。この子、いつもこの表情でいればいいのに。勿体ないと思う。


 あたしたちは、場所を変えて話すことにした。なんとなくだけど、あの子の話は空の下で話したかったのだ。

 屋上のドアを開けると、抜けるような青空が出迎えてくれた。気持ちいいな、と思う。

 あたしたちは屋上の柵にもたれかかると、あの不思議な、でも忘れられない世界の話を始めたのだった。


          ◆


「きゃ~! うわ~! すごい! 素敵!!」


 あの世界の話を聞いたあかりは、大興奮だった。そんなに素直でいいのかと、心底思う。ちょっとは疑ってもいいかと。


「嘘だとか、思わないの?」


 あまりにも無邪気にはしゃぐので、あたしはあかりに訊いてみた。本当は信じてもらえて嬉しいんだけど、なんていうか……確証が欲しかったというか、背中を押してほしかったというか、まぁ、そういった甘えから来る質問だったと思う。


「思わないよ。真理亜ちゃん、そんな噓を私について、なんの得もないでしょう?」

「いや、だまされるあかりを見て喜ぶためかも」

「それならそれでいいよ。だって、すごく興味深かった! 創作意欲を刺激されたよ! なんだっけ、シャボンだっけ? 面白い魔法だね。洗濯魔法を魔物にかけるとか、そんな状況になってもきっと思いもしないよ、私」

「まぁ、かけたのはあたしじゃないんだけど」


 “シャボン”を使うのはルチアだ。あたしは、異世界の友達を思った。あの魔法を浴びた気持ちは、きっと魔物とあたしとエリくんくらいしかわからないと思う(研究馬鹿なエリくんはともかく、他のメンバーはかけてもらってなかったし)。


「すごく気持ちがいい魔法なんて、どんなのだろ。きっと、魔物も気持ちよくなって戦うのどうでもよくなっちゃったんだろうね」

「なによそれ」

「だって、真理亜ちゃん、そう言ってたじゃない」

「あたし、魔物と同列?」

「あ、ごめんなさい、そういう訳じゃ」


 軽くにらむと、慌ててあかりは両手を胸の前で振った。


「──でも、信じてくれてありがとう」


 そんなあかりを見て、あたしは自然と笑っていた。

 信じてもらいたい人に、信じてもらえた。こんな嬉しいことはないと思う。


「信じるよ。疑う理由なんてないもん」

「うん、ありがと」

「でも──でもね、真理亜ちゃん、どうしても向こうに戻りたいの?」


 あかりは、そう言うと膝を抱えて小さくなった。視線を外したあかりに、あたしは申し訳ない気分になりつつも、頷く。


「うん。どうしても、帰りたい。あたし、向こうの世界を選んじゃったの。こっちには、家族や──あかりがいるけど、ごめんね、どうしてもこれだけは譲れない」

「そう……」


 薄情な友達あたしに、あかりは小さくため息をついた。嫌われただろうか。でも、どうしても向こうに帰りたい──そう、帰りたい・・・・のだ。


「帰るためには、どうしたらいいの?」

「エリくんから魔法陣はもらってるし、魔力のもとになる魔石はシロのやつがあるんだけど、どうしても反応しなくて、困ってるの」


 あたしは、いつも持ち歩いている宝物を引っ張り出した。魔法陣を見たあかりの目つきが変わる。


「すごい! うわぁ、これ、写真撮っちゃダメ?」


 ──もう一度言ってもいいかな。この子、こんなに素直で大丈夫だろうか。


 あたしが了承したのを見届けると、あかりはスマホを出して魔法陣と魔石の写真を撮りだした。大興奮するあかりに、あたしは苦笑する。なんだか、あんなに不安がったのがバカみたい。


「ねぇ、真理亜ちゃん、魔法使ってたんだよね。どんな呪文だったの?」

「呪文……ねぇ。言ってもいいけど、ここ異世界じゃないから、多分日本語に聞こえると思うわよ」


 向こうの言葉は勝手に翻訳されてたから、あたしは常に日本語をしゃべっていたつもりだった。だから、ちょっと恥ずかしい。


「それでもいいよ。ね、お願いします!」


 さっきまでのしょんぼりとした様子はどこへやら。好奇心が勝ったあかりは、再びわくわくとした顔に戻っていた。

 そんな友達に少しは報いたくて、あたしは天晶樹を浄化する呪文を思い起こした。この呪文を唱えたのは、もうずいぶん前になる。


「笑わないでよね。行くわよ──≪世界の礎たる天晶樹よ、汝に光あれ≫」


 恥ずかしさを我慢して唱えたときだった。

 スカートの上に置いてあった、シロの魔石が、突然まばゆい光を放ち始めたのは。

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