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EX)西銘真理亜は祈る

 結局、異世界の話は、家族以外には信じてはもらえなかった。家族だって最初から信じてくれたわけじゃないし。

 まぁ、それは仕方ないと思うの。あたしも、人からそんな話聞いても現実とは思わないでネタだと思うもの。

 そんな感じで、帰って来てからは……まぁいろいろあったかな。でも、向こうに連れて行かれたときもいろいろあったんだから、別にいい。


 向こうでもらったものを自分の根底に置いたあたしは、なにを言われても平気だった。

 だって、異世界に行ったのが嘘だって言われても、あたしの中ではホントだったし。

 あたしのことを信じてくれる大切な人がいる限り、誰になにを言われてもどうでもいいし。

 元から他の人の評価は気にならないタチだったから、好きなだけ言わせとけばいいやと放置してたら、気が付いたらあたしの失踪にまつわる噂話は鎮火してた。

 これはホント、気が付いたらって感じ。向こうに帰ったときに役に立つようにと、法律とか経営とか歴史とか、いろんなことを勉強してたから全然気にならなかったんだよね。付き合ってたカレシとは別れちゃったから勉強に身を入れるしかなかったとも言うけど(ほら、あたし人妻だし)、学ぼうと意識した途端、勉強は面白くなったのよね。興味が出ると理解は進むし、そうなると成績も上がるから、なんだかそれが面白くなっちゃって……結果、どうでもいい噂話は耳に入ってこなかったのよ。


 そんなものより、あたしが気になって仕方がなかったことは、向こうとこちらの時間の差。


 だって、そうでしょ? 向こうでの一年半が、こっちではたったの二日。つまり、二日経つごとに向こうでは一年半が経過してると思ったら……それはもう、ただごとじゃない。

 嫌よ、向こうに帰りついたらエドがおじいちゃんになってるとか、ありえない! あたしは向こうで、大事な人たちと生きたいの。

 もちろん無事にこちらへ帰れたんだから、今まで通りこっちで生きるって道もあったけれど……どれだけ考えても、何度考えても、やっぱりあたしが生きたいのは向こうの世界で。エドと、ルチアと、皆と生きていきたい。お父さんやお母さんと別れるのはつらいけど、でも、あたしは自分で向こうの世界を選んだ。


 それなのに! それなのによ? エリくんからもらった魔法陣も、シロの魔石も、うんともすんとも言わないの!

 “天晶樹の雫”は、こちらに帰ってきたときにはなくなってた。きっと、帰る代償があの石だったんだと思う。シロの魔石はなんの変化もなかったから。


「ちょっと、エリくん、どういうことよ? 何度も検証したって言ってたじゃないのよ。このポンコツちびっこ研究員!」


 自室の机に広げたノートの上の魔法陣をつついて、あたしは今この場にいない魔法使いへ文句を言った。けれど、クリーム色の紙に緋色のインクで描かれた不思議な文様は、なんの反応も返さない。


 実はこの時点で、あたしが帰ってからもう数ヶ月が経っていた。

 向こうの世界との時間の差が、二日で一年半だとしたら……ダメだ、考えたくないくらい時間が経ってしまっている。おじいちゃんどころか、生きてさえいないかもしれない。

 咄嗟に計算するのをやめたけれど、二つの世界の誤差は頭をぐるぐると回りながら満たしていく。


「もう……会えないのかな」


 ぽたりと、ノートと魔法陣の境目に雫が落ちる。にじむペンのインクから目をそらすと、間の悪いことにそこにあったのは大事な人たちとの記念写真だった。


 会いたい。

 大切な人たちに、会いたい。


 ルチアがあたしの目の前からいなくなったとき、あたしはその生を信じた。諦めたら本当にいなくなってしまいそうで、必死で生きていると、かすかな希望に縋った。

 増水した川に落ちたけど、セレスが助けに行ったから大丈夫。

 死んだと聞かされたけれど、髪だけしか物証がないから信じない。


 そのどちらとも、奇跡は起こった。

 だから──今回も起きるって、信じたい。

 あたしが異世界の聖女として選ばれた意味がどこかにあるのなら、神様、どうかもう一度あの世界へ行かせてください。

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