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ルチア、無事を確かめ合う

「ちゃんと準備しといた方がいいよ。あの感じだと、多分早々に話が来るはずだから。じゃあ、ルチアちゃんはまだこの部屋にいてね。出歩くのは禁止ってことで、ひとつよろしく〜」


 陛下への拝謁という難題を示唆しつつ、ベッカリア医師せんせいは部屋を後にされました。


 ひとり取り残されたわたしは、困り果てていました。だってもし拝謁を許されたとしても、失礼にならない服なんて持っていません!

 わたしは自室のクローゼットを思い起こし、真っ青になりました。


 いえ、本当にお会いできるかなんてわかりません。単なる下働きでしかないわたしが陛下のお姿を目にすることなんてまずありえませんし、それが許されるとも思えないです。

 でも、雲の上の人たちであるアストルガ副団長やディ=ヴァイオ学園長がわたしの力を気にかけていらっしゃることが、わたしの中に一抹の不安を呼び起こすんです。

 ホントに拝謁することになったらどうしよう!


 そんな風に悩んでいるときでした。

 再びノックの音がしたのでそれに応えると、ドアの隙間から顔を出したのは、キッカさん、ロッセラさん、ジーナさん、ジーノさんの4人でした。


「キッカさん! ロッセラさん! ジーナさんジーノさん!」


 わたしは嬉しくなってしまって声を張り上げました。皆さん無事でした! それは、とてつもなく嬉しいことです。


「ルチア、大丈夫かい? あんたがルフ退治に頑張ったあと、行方がわからないって言うんで、探したんだよ」

「そうよ、まさか騎士団の医務室にいるとは思わなかったわ!」

「ルチアちゃん、いろんな人からお話聞いたわ。ホントに頑張ったんだね。“シャボン”がまさか洗濯以外に使えるとは思わなかったけど」

「ルチア、お疲れ。平気?」


 皆さんの元気な顔を見て、思わず涙が出てきてしまいました。

 だって、ようやく安心したんです。あの怖い時間は終わったんだ、もう大丈夫なんだって。


「皆さん、無事で、よかったです」

「ああ、あんたが頑張ってくれたおかげでね。なんでもオーガたちも一掃しちまったんだって?」

「なんでそれを?」


 キッカさんに抱きしめられながら、わたしは顔をあげました。


「城壁には兵士隊もいただろう? 兵士は平民だ。知り合いはたくさんいるよ」

「弟が、兵士。ルチアのことは、弟から聞いた。シャボン玉がオーガたちを帰らせたって聞いて、ルチアだって」

「なんでも屋さんたちには、顔見知りもたくさんいるしね」

「そうそう、伊達に騎士団付き洗濯婦やってないわよ。医務室ここ教えてくれたのも、その騎士様よ。男は立ち入り禁止らしいけど、あたしたちには関係ないことだしね、休憩時間利用して皆で来ちゃった」


 ありがたいです。すごく嬉しいです。


「倒れたって聞いたけど、もう身体はつらくないのかい?」

「はい、さっき魔力回復薬をいただいたので、もう元気です」

「困ったこと、あったら言って」


 ロッセラさんの言葉に、わたしはハッとしました。困ったこと、あります! 杞憂に済むならいいですが、ベッカリア医師の話し方だと準備しておいた方がよさそうです!


「あの! どうしましょう、もしかしたらなんですが、陛下に拝謁するお許しが出るかもって言われて……わたし、私服ほとんどないんです。どんな格好なら失礼になりませんか!?」


 ハサウェスにいたときはお母さんのお薬が最優先でしたし、アールタッドに来てからは借金の返済に回しているため、わたしはあまり私物を持っていません。

 服だって、今身につけている支給された灰色のエプロンワンピース以外では、おさがりでいただいたお祭り用の青いワンピースと、休日に普段着ている紺のワンピースしかないんです。


「ドレスとか貸してくれるんじゃないの? ないのかな?」

「もし貸し出しのドレスがない場合は、お祭り用の青いワンピースで平気でしょうか……」

「新年祭のとき着てた? うーん、あれも可愛いっちゃ可愛いけどねぇ……」

「アレねぇ、生地は悪くないし可愛いっちゃ可愛いんだけど、胸下のコルセット以外の飾りがなくてさみしいわよね。他になんかないの?」

「ないです……」


 そう言うと、ジーナさんジーノさんは顔を見合わせました。キッカさんロッセラさんも困り顔です。

 やはりもう少し買っておくべきでしたでしょうか。いえ、でもお金を返す方が先決ですよね。借金はまだ返し切ってないんですし。


「拝謁を指示されたとして、お断りするのってやっぱり不敬でしょうか」

「やめといた方がいいね、それは。ルチア、その青いワンピースに刺繍するのはどうだい?」

「いいじゃない! 少しあるだけで可愛くなるかも!」


 刺繍……たしかに新しく用意するよりはよさそうです。結果拝謁することがなくても無駄にはなりませんしね。


「そうします!」

「そしたら糸なんかはあたしが用意してやるよ」

「すみません、あとで代金払います。それと、わたしここを出ちゃダメらしいので、お部屋から服を持ってきてもらえますか?」

「お金なんていいよ! こういうときは甘えな! 刺繍もあたしがやってあげれればいいんだけどねえ。細かい作業は苦手なんだよ」


 キッカさんは照れたように笑いました。

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