EX)新婚さん、懐かしい顔に喜ぶ
アナクレリオさんに先導されて、わたしたちはエドアルド陛下より下賜されたお家へ向かいます。
「こちらです」
お家の前に到着したわたしは、あまりの様子に言葉を失いました。
だって! だってですよ! お家が……大きすぎます! そしてあの人数はなんですか!
門から入口へと続く道にずらりと並ぶ人影に、くらりと眩暈がします。皆さん同じデザインの制服を着ていらっしゃるということは……このお家、もといお屋敷で働く方、なんでしょうか。
「せっ、セレス……これって、わたし、夢見てますよね?」
「うん……気持ちはわかるけど、ルチア、現実だから」
傍らのセレスさんに縋りつくと、宥めるように頭を撫でられました。
でも、正直落ち着けません! たしかに領地を任されたので、案内されるのは普通のお家だとは思っていませんでした。執事さんもいらっしゃるくらいですし、それなりのお家なのかと。
ですが、ここまで大きいとか、想像もしてませんでした! お掃除行き届けるでしょうか!
パニックになっていたわたしでしたが、セレスさんに連れられて歩き始めます。わたしたちが近づくと、制服姿の皆さんがすっと同じ角度で頭を下げて行きます。どういうこと! そんなに偉くないですよ、わたし! 頭を上げてください!
頭の中がぐるぐるしたまま歩いていると、小さく「おかえり」という声が聞こえました。耳に馴染んだその声に、わたしは弾かれるように近くを探します。だって、だってその声は──
「キッカさん! なんで!?」
驚きの声を上げるわたしに、見慣れた砂色の頭がゆっくりと上がります。
そこにいたのは、笑顔のキッカさんでした。
「エドアルド陛下に頼まれたから、かねぇ」
キッカさんは、驚くわたしを見て、いつもの明るい笑顔を深くします。わたしが嬉しくなって抱き着くと、ぎゅっと抱き返されました。
「バドエル夫妻と私は、陛下のご指示でこちらに参ったのですよ」
「先に言っておかなくてごめんね、ルチア。陛下から、自分のわがままで見知らぬ土地で苦労をさせてしまうから、側で力になってやってほしいと頼まれたんだ。だから、アナクレリオさんや、うちの人と一緒にブランカにやってきたんだよ」
キッカさんとアナクレリオさんはいたずらっぽい視線を交わすと、彼らがここにやってきた理由を教えてくれました。エドアルド陛下が、慣れない地でのわたしたちを思いやって、見知った人たちを遣わしてくれたのだと知ったわたしは、胸がいっぱいになってしまって言葉が出てきません。
「だって……キッカさん、お仕事は?」
「ロッセラに引き継いできたよ。うちは子どももいないし、旦那もお城で働いてるしで、こっちにくるには都合がよかったんだよ。あたしはね、ルチア。あんたが幸せになるのが見たいのさ。劇の中でなく、現実のあんたがね」
ぽんぽん、と頭を優しく撫でられます。それを合図とするように、キッカさんはわたしをセレスさんの方へ戻すと、いつもの快活な声でこう言いました。
「さあ、この屋敷の人は皆あんたたち二人を待ってるんだ。中へ入って、改めて自己紹介と行こうじゃないか!」
次は多分マリア編です。