表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/178

ルチア、計測される

「ふぅん、なかなかのもんじゃな。3,500といったところかの」


 口に咥えた計測器の目盛りを確認したディ=ヴァイオ学園長は、ふんふんと面白そうに頷いてらっしゃいます。

 魔力回復薬のせいでまだ涙目のわたしは、なんだか喜ぶに喜べません。だって、本当に! マズかったんですよ! あんなマズイもの、飲んだことも食べたこともないです。しかも4杯も飲むなんて、なんだか口が自分のものじゃないみたいにじーんとしています。


「数値でわかるんですね」

「さよう。1年前の竜討伐でな、魔力回復薬これのあまりのマズさに飲み下すのに時間がかかってのう、結果死傷者が増えたんじゃ。なのでこの1年、これの数値化と、そのデータを元にこれを薄めて飲みやすくする研究を進めとるんじゃ」


 ディ=ヴァイオ学園長は、空の瓶を眺めつつそうおっしゃいました。

 それじゃ、その薄めたものでもよかったじゃないですか!

 そう思ったのを見透かされたのか、ディ=ヴァイオ学園長はため息をつかれました。


「だがの、なかなかうまくいかんでなあ。飲める味にすると回復量がほぼないことがわかって、結果これのお世話になり続けてるのが現状じゃ。ほれ、水でも飲むがよかろう」


 わたしは差し出されたお水を素直に受け取ります。今はお水でかまわないので、この口の中に残る後味をながしてしまいたいです。


「それよりルチア嬢、まずは団長不在の今、騎士団を預かるものとして礼を言う。貴殿の力により、アールタッドはさほど被害を出さずに守られた」


 そうです、あれからどうなったんでしょうか!

 わたしは水差しから注いだお水を飲みながら、アストルガ副団長のお話をお伺いしました。すみません、お行儀悪くて。


「ルフの攻撃により重軽傷者は出たが、死者は0だった。貴殿の魔法のおかげだと聞いている」


 その言葉に、わたしは胸をなでおろしました。よかった! 勇気を出して本当によかったです!


「あの、あのあと、どうなったか……教えてもらえますか?」


 わたしの問いかけに、アストルガ副団長は頷きました。


「ああ。貴殿が魔法を使ったあと、現れた大量のシャボン玉は大きなひとつとなり、オーガたちの群れを包み込んだんだが、それが消えるやいなや、奴らは突然反転して去っていった。まるで何事もなかったかのようにな」

「そしてあなたは魔力を使い果たして倒れ、ぼくのとこに運ばれたんだよ。もう、あいつらから隔離するの大変だったんだよ。女の子だし、なにかの間違いがあっちゃマズイでしょ?」


 オーガとオーグリスの群れは、戦わずに去っていったんですか……。でも、そんなこと、ありえるのでしょうか? 聞いたこともないです。


「戦意をなくし、衝撃波などの手強い技すら使わなくなったルフに、急に襲う気をなくして去っていったオーガとオーグリスか……。貴殿の魔法は、一体なんなのだ?」

「汚れを落とす効果しかないと、今までは思っていたんですが……」

「汚れを落とす……奴らの凶暴さは汚れ--穢れだというのか? それをなくせば、奴らは鎮静化され、人間を襲わないと」


 眉間にしわを寄せて、アストルガ副団長は考え込んでしまいました。


「聖女様の浄化の光に近いようじゃな。もっとも、聖女様の光はすべてを灼き尽くし、消し去る力じゃったが」

「似て非なるものだが、魔物の浄化を果たすというところは同様か。なるほど、これは陛下に奏上する必要があるようだ。ベッカリア医師、ディ=ヴァイオ学園長、ルチア嬢。私はこれにて失礼する」


 険しい表情のまま、アストルガ副団長は足早に去っていきます。


「さて、わしはもう少し娘さんの魔法について調べるかとしようかの。娘さん、お主水晶はどうしたのじゃ? 昏倒した際破損したのかな?」


 ディ=ヴァイオ学園長は、長いおひげをひと撫ですると、わたしの胸元に視線を這わせました。


 この世界では、魔法は水晶の媒介を必要とします。すべての水晶は天晶樹と繋がっていて、水晶を通して魔法を発動させるのだそうです。

 なので、アカデミアの魔法使いさんたちは皆、胸に自分の水晶を下げ、それに触れつつ魔法を唱えます。

 けれども、わたしがそれを知ったのは、王都アールタッドに来てからでした。わたしのまわりには魔法使いはいませんでしたし、魔法使いのことに詳しい方もいませんでした。

 だから、媒介なしで“シャボン”を使うわたしは、当初ずいぶん不思議がられたものです。


「水晶は使ってません。そのままです」

「なんと!」


 わたしの返答に、ディ=ヴァイオ学園長は相当驚いたようでした。


「小さい頃からなにもなくて使っていたので、水晶を使って発動させるとどうなるのか、わたしにもわかりません」

「媒介なしで魔法を駆使するとは……ますます聖女様との共通点があるの。ううむ……わしも一旦アカデミアに戻るとしよう」


 聖女様と共通点があるとおっしゃられても、一緒にしては失礼なほど差があるように思えるのですが……どうされる気でしょうか。

 困惑するわたしを眺めていたベッカリア医師が、不意ににっこりと笑いました。


「ふぅん……ねえルチアちゃん、ちょっと覚悟しといた方がいいかもしれないねえ」

「なにをですか?」

「陛下へ拝謁するの。まともな服、ある?」


 ベッカリア医師の発言に、わたしはピシリと固まってしまいました。

 陛下? 拝謁?

 突然なんなんですか⁇

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ