ルチア、愛を誓う
響き渡る鐘の音を聞きながら、わたしは目の前の大きな扉が開くのを、胸を高鳴らせながら見つめました。
ゆっくりと開く扉の向こうは、王族専用の礼拝堂。本来なら、わたしは足を踏み入れることもできない場所ですが、王族に名を連ねるマリアさんと同時に挙式するということと、わたしに対して最大限の配慮をしたいという陛下のお言葉によって、ここでの挙式と相成りました。
この礼拝堂に入れるのは、本来なら身分ある人だけです。今日もいらっしゃるのは、聖樹教の大司教、他国からいらっしゃった国賓の方、王族に連なる貴族の方、そして旅の仲間たちとセレスさんのご両親です。その中で平民なのは、わたしとセレスさんのご両親だけという、大変平凡極まりない身としては心もとないというか、心細い状態です。
ですが、下は向きません。だって、わたしの隣にはマリアさんがいます。そして、わたしが向かう先にはセレスさんがいるんです。
身分とか、平凡とか、関係ないです。わたしをわたしとして必要としてくれる人がいて、その人たちが許してくれるのだから、わたしは胸を張って歩けます。
礼拝堂に足を踏み入れると、中にいたすべての人の視線がわたしとマリアさんに向かいました。ほほ笑んでいる人、涙ぐんでいる人、様子を窺うような人、いろんな人がいます。
その中で、一際わたしたちを優しい眼差しで見つめているのは、やはりセレスさんと陛下でした。
陛下は王冠を頭上にいただき、マリアさんと対になる衣装を身に着けていらっしゃいます。
先日正式に騎士団を退職したセレスさんは、隊服ではなく、白っぽい色合いの衣装を身に着けていました。あまりセレスさんの私服を見たことのないわたしは、そのカッコよさに思わず見とれてしまいます。なにを着ても様になるとか、さすがですよね!
ですが、見惚れている場合ではありません。わたしとマリアさんが入室した途端、荘厳な曲が流れ出し、式が始まりました。一歩一歩踏みしめ、わたしは世界で一番大好きな人のところへ進みます。
ここまで、いろんなことがありました。
お母さんが亡くなったこと。借金の返済を迫られたこと。お城で働きだしたこと。セレスさんと出会ったこと。魔物に襲われたこと。浄化の旅に混じったこと。
歩きながら、わたしの脳裏には、これまで経験したことが走馬灯のように巡りました。
マリアさんと仲良くなれて嬉しかった。皆さんとはぐれて心配だった。セレスさんと両想いになれて幸せだった。天晶樹を浄化できて安心した。またひとりぼっちになって怖かった。
いろんな気持ちを抱えて、今、わたしはここにいます。
ひとりぼっちだと思っていたけれど、いつだってわたしの傍にはあたたかな人がいて。
ひとりが怖いと思っていたのは、まわりが見えていなかったせいだと気付かされて。
わたしが助けを乞えば、側にいてくれる人は皆、手を伸ばしてくれたのに、わたしはいつだって自分ひとりで頑張ろうと肩ひじを張っていました。泣いてもどうしようもないからと、泣くことを自分に禁じて、必死に生きていました。
そんな未熟なわたしを大切に思ってくれる人たちを、わたしも同じように大切にしたい。
もう、わたしに魔法はありません。
なんの力もない、ただのルチアですが、そんなわたしでもできることがあるから。
大地に足をつけ、大切な人と手を取り合って、頑張って生きて行こうと思うのです。
誰かを思うことが自分の力になるのなら、それは、なによりも強い力を持つ魔法なのではないでしょうか。
「ルチア」
お日様みたいなあたたかい笑顔で、セレスさんがわたしに手を伸ばします。
大切な人の手を取ったわたしは、きっと今、誰よりも幸せに満たされていることでしょう。




