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ルチア、それぞれの今後について話す(3)

「本当のところ、君が騎士団を辞めたいというんじゃないかとは、薄々思っていた」


 陛下の静かな声に、わたしたちは思わず無言で耳を傾けました。


「君たちがルチアを探してくれている間に、僕たちも色々話し合ったんだ。この国は、ぼくに権力が集中しすぎていて、僕がなにか間違ったことをしたときに止める機関がないと、マリアに言われてね。それで、彼女やフェルナンドたちと相談して、議会を作ることにしたんだ」


 うっすらとほほ笑んで、陛下は言葉を続けます。ほほ笑んではいますが、その目に宿る光は強いものでした。


「マリアやルチアのときも、ちちを止めるべき立場の人間はたくさんいた。王太子ぼく騎士団長フェルナンド、アカデミア学園長……。だが、誰一人として諫めなかった。聞き入れないだろうと思ったからとか、保身のためだとか、越権行為だとか、そんなことでのちに悲劇を引き起こすくらいなら、止めることが仕事な存在を作るのもありかと思えた。ただ、王を止めるほどの力を持つ人間がいると、いらぬ争いを引き起こすことになる。だから、人ではなく機関に権力を持たせようということになった」

「まぁ、そんな機関を作っても、その座に就く人によって腐敗もするけどね。でも、ないよりはいいんじゃない? この国」


 陛下のお話に、マリアさんが相槌を打ちます。一方わたしたちは、思いもよらない国の中枢の変動計画に目を丸くしていました。国王が一番尊くて、そのお言葉は絶対だという価値観だったわたしたちと違って、異世界で暮らしていたマリアさんは違う視点を持っていたようです。


「王家と貴族だけで構成する気はない。人々の生活を一番よく知るのは、そこで暮らす市井の人間だ。最初はぼく、騎士団、アカデミア、各領主に各種組合アルティ、そして街の代表者。そういった人たちで構成して、色々なことを決めて行きたいと思っている」

「ダル・カントの“学びの塔”から、学者さんたちも来てるしね、学べることはたくさんあるよね」


 今後の構想を語られた陛下は、不意にセレスさんとわたしの顔をまっすぐ見据えました。


「セレスティーノ、騎士団を辞めた後、どうするかはもう決めているのか? 遠くに行くと言っていたが、もう行先は決めている?」

「いえ……まだおおまかにしか。まず、ハサウェスに向かってルチアのご両親に挨拶をしてから、一旦ミストに戻ろうかと思っていますが」

「そうか。それで相談なんだが、僕が持っていた王太子領がいくつかあるんだ。そのうち、君たちが一番いいと思うところを譲るから、そこでゆっくり過ごすのはどうだろう? 君への報奨もそうだが、なによりルチアに報いたいんだ。領地がルチアの献身に釣り合うとは思わないが、申し訳ない、僕には他に思いつかなくて」


 陛下の申し出に、わたしたちは顔を見合わせます。どうしましょう、そんなすごい話をいただいても、身に余りすぎますよ!


「もらっとけばぁ?」

「そだね、ルチアの功績って、それじゃすまないくらいじゃない? 聖女さまもそうだけどさ」

「そうですよ、わたしよりマリアさんの方が……」


 困惑するわたしを後押しするように、マリアさんが口を開き、その発言をエリクくんがさらに後押ししました。ですが、エリクくんが言うように、わたしよりマリアさんの方が報われるべきだと思います。

 言い募ろうとしたわたしを、マリアさんは柔らかい笑みで押しとどめました。


「あたしはいいの。あたしは、ルチアからたくさんのものをもらったから」

「マリアさん……」

「あたし、この世界に来てよかった。最初は投げやりだったけど、あんたと一緒に頑張れてよかったって、今は思うよ。あたしだって誰かのために頑張ることができるんだって、見返りなしに誰かに大切に思ってもらえるんだって、そう思えたから。あたしが皆の聖女なら、ルチアは聖女の聖女だよ。あたしを救ってくれたのは、ルチアだから」


 マリアさんは胸の魔石に手をやると、少し言葉を途切らせました。


「……あたしね、むこうに帰るって言ったでしょ。こうやってあんたが無事に帰ってきたから、一度帰るよ。で、きちんと向こうでやらなきゃいけないことをして、こっちに戻ってくるから。エドも待っててくれるっていったし、こっちに帰ってきたとき、少しでも役に立てるように勉強してから来るね。王妃様とか面倒だって思ったけど、逃げないで、できることを増やしてから必ず戻ってくるから」

「……待ってますね。マリアさんが戻ってくるの、わたし待ってます」

「そうね。数年後くらいに戻ってくるから、きちんと待ってなさいよ!」

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