ルチア、それぞれの今後について話す(2)
「ごめんね、勝手なことして。ルチアがあんなに頑張ったのに、誰もそのことを知らないままでいるのがどうしてもいやだったの。しかも、ルチア探しにすっ飛んで行ったセレスの結婚話とか勝手に持ち上がってるし、我慢できなかった」
マリアさんの発言に、びっくりしたのはわたしだけではありませんでした。
「えっ!」
一瞬にして顔色を失くしたセレスさんを、慌ててエドアルド陛下が宥めます。なぜかエリクくんやレナートさんも焦って、皆でセレスさんの両腕を押さえに走りました。
「大丈夫、大丈夫だ! 縁談は僕がつぶした! 君は安心してルチアを娶っていい! だから落ち着け!」
「……ありがとうございます」
頷いたセレスさんに、皆さん一様にほっとしたような表情を見せました。どうしたんですか、一体……。
「ルチアが帰ってきたらすぐ結婚式できるように、ドレスの下準備とかしといたの。デザインは好きなのがあるだろうから、たくさんデザイン画だけ描いてもらってね、スケジュールも押さえてあるから!」
「ドレスなんて……」
「え、式挙げないつもりだったの!?」
思わぬところで進んでいた話に戸惑っていると、マリアさんが困った顔をしました。
「いえ、セレスさんは今のところ騎士団の隊長様ですし、場合によってはそれなりにお披露目することもあるかもとは、一応思ってはいましたけど……」
「大々的にあげたくないってこと? ルチアは相変わらず控えめねぇ! エド持ちで式できるんだから、やりたい放題オプションつければいいのに!」
「いえ……それは」
マリアさんの言葉に、わたしは首を横に振りました。どうしましょう。
「式は……あの、挙げますか?」
「そうだね、出奔する前なら挙げる必要もあったかもだけど、どうしようか」
なんと告げていいか迷ったわたしは、助けを求めてセレスさんを見ました。脳裏には、アールタッドに戻るまでの間に相談されたあのことが浮かんでいます。
「なに? どういうこと?」
「これのことを気にしているのなら、ちゃんと保管してあるから」
顔を見合わせたわたしとセレスさんに、マリアさんが首を傾げます。その奥から団長様がセレスさんの隊長の記章を内ポケットから出してきますが、セレスさんはそれを受け取らず、押し返しました。
「旅の間にルチアと話し合ったんですが、俺、騎士団を辞めようと思っています」
「は?」
「えっ!?」
「な、ちょっと、セレスティーノ殿!?」
「なに言いだしてんの隊長さん!?」
セレスさんの発言に、団長様が目を剥き、陛下が言葉を失くし、レナートさんが慌て、エリクくんが問いただしました。
「なによ、セレス結婚するのに無職とか、ありえないわよ! あんたルチアを不幸にする気!?」
「待て待て、逸るなって。こいつらも考えた末の行動だから、責めてやるなって」
セレスさんの胸ぐらをつかもうとしたマリアさんを、ガイウスさんが止めます。旅の間、このことについて相談に乗ってくれただけあって、ガイウスさんは驚いた様子は一切ありません。
「……理由は、やはり」
「騎士団にいては、一番守りたい人を守れないからです。騎士が守るのは国。ですが、私は国より優先したい人がいます。彼女を守れないなら、騎士である必要を感じません」
顔を曇らせる団長様に、わたしの手を取ったセレスさんは、きっぱりとした口調で答えました。
「私が騎士であり続けることで彼女に負担をかけるなら、故郷に戻るかどこか遠い地で、二人で暮らそうと思っています」
そんなセレスさんを、わたしは複雑な想いで見つめました。
この決断をするまで、幾度かわたしのせいで騎士を辞めることはないという主張もしました。けれど、同じくらいその気持ちが嬉しかったのも本当です。
ひとりぼっちの怖さに負けて、セレスさんの守ってくれるという言葉にすがってしまうわたしは、弱い人間です。この国のためには、“竜殺しの英雄”は騎士団に必要です。そんな大事な人を、わたしのワガママで去らせてしまっていいのか、いまだに迷います。「側にいたい」と言い切ってくれたセレスさんの強さに甘えてしまっていいのか、そうでなく、わたしが側で支えて騎士でい続けてもらった方がいいのか。まだ、わたしの決意は揺らぐんです。
「わかった」
「陛下!?」
ですが、エドアルド陛下はセレスさんの申し出を、すぐに受け入れました。眉を顰める団長様を手で制すると、陛下はわたしとセレスさんの前に足を進めました。