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ルチア、お偉方の来訪を受ける

 頬を爽やかな風になでられて、わたしは目を覚ましました。

 瞼を開けると、そこは見慣れた自室ではなく、見知らぬ部屋でした。開いた窓から、セレスさんの瞳のような青空が覗いています。


 起きようとベッドに肘を突くと、まったく力が入りません。頭もぐらぐらして、ひどい貧血みたいな状態です。

 そしてなにより身体が冷え切っています。わたしのより数段立派なお布団にくるまっているというのに、芯まで冷え切ってかじかんでいます。なんでしょう、この状態?


 わたしは身体を起こすのを断念しました。どうにもこうにもダルくて仕方がありません。でも、何故?

 わたしは横たわったまま、ため息をつき、再び瞼を閉じました。眠くはありませんが、目を開けているのも億劫です。


 静かな部屋に、かすかに外から人の声が聞こえてきます。訓練中の騎士団の方や兵士隊の方の声でしょうか。なにかを指示するような声と、それに応える声を聞き、わたしはぼんやり先ほどのことを思い出しました。

 あれは……夢、だったんでしょうか? あまりにも現実味のない光景でしたし、思わずそんな風に思ってしまいますが、そうなるとこの見知らぬ部屋にいる理由がわかりません。


 そんな風に耳を澄ましたままでいると、部屋のドアを軽くノックする音が聞こえました。コンコンコンコンと4回ノックがされ、かちゃりとノブが回る音が続きます。


「そろそろ起きるかなあ……ううん、寝てるね」

「では、出直しましょう、ベッカリア医師せんせい

「ですな。寝ているならまだ寝かせた方がよかろう」


 のんびりとした男性の声と、反対にビシッとした男性の声、そしてしわがれたおじいさんの声がします。

 瞼は閉じていたものの寝てはいなかったので、わたしは薄く目を開けると、声のした方へ顔を向けました。


「いえ……起きて、ます」

「やあ! よかった、目が覚めたんだねえ。起きれる? 無理かな?」

「無理じゃろう。魔力切れを起こしているなら、一晩寝たくらいでは回復などせん。起きろという方が無体じゃ」


 のんびりと話されるのは白衣を着た方で、ベッカリア医師せんせいと呼ばれています。

 魔力のお話をされている方は白いおひげを長く伸ばしているのが特徴的で、アカデミアの上級魔法使いが身につける臙脂色のローブを身にまとっていらっしゃいます。

 アカデミアのローブは生徒さんが紺、研修生が深緑、研究者ならびに教師の方が臙脂ですので、この方はアカデミアの中でも強い力を持ってらっしゃる方なのでしょう。並みの力の方は、臙脂色のローブはまとえないと言いますし。


「起きているなら話は早い。私はフロリード・アストルガ。バンフィールド騎士団の副騎士団長を務めている」


 騎士団の隊服を着ていらっしゃる方は、副団長様だったんですね。そんな偉い方が、何故ここに?


「ぼくはアドネ・ベッカリア。騎士団の医師をしてるよ。でね、こちらの魔法使いがアカデミアの学園長、イヴァノエ・ディ=ヴァイオ殿だ」


 副団長様にお医者様、それにアカデミアの学園長様⁇

 普段なら決してお目にかかれない人たちに、わたしは震えあがりました。


「さあ、とりあえず魔力回復薬を飲もうか。かなりマズイけどさ、少しは動けるようになるはずだよ」


 ベッカリア医師はわたしの背中に手を差し入れると、枕を背中に当てて少し上体を起こさせました。


「自分で飲める?」


 ぐったりと枕にもたれかかるわたしに、手にしていた瑠璃色の瓶を差し出します。

 わたしは重い腕を動かし、瓶を受け取ろうとしましたが、やはり力が入りません。


「やっぱ無理かあ。そしたらぼくが飲ませるね。マズイからって残しちゃダメだよ?」


 ベッカリア医師はわたしに瓶を渡すことを断念して、瓶の口をわたしの口元へ持ってきました。うっ、なんだかものすごい臭いです!

 決死の思いで飲み下すと、ほんのりと身体があたたかくなりました。

 でも、本当にマズイですこの薬! 頭がビリっとなるくらい甘くて、舌がしびれるくらい苦いとか、泣きそうです! せめてどっちかならマシなのに!


「マズイわなあ、その薬。わしも苦手でのう。魔力回復薬の改善はアカデミアの研究内容第1位なんじゃが、なかなかうまくいかんわい」


 涙目のわたしに、ディ=ヴァイオ学園長がアイスブルーの瞳を細めながら笑いかけてきました。これが得意な方がいらっしゃったら、ぜひ感想をお聞きしたい。そう強く思うような味ですね!


 しばらくすると、冷え切った身体はあたたまり、重かった身体も自分のものとして動かせるまでになりました。


「あの、ありがとうございます。ルチア・アルカと申します。それでその……皆様は何故ここに?」


 ようやく喋れるようになったわたしは、居住まいを正すと3人に向かって尋ねました。


「ぼくは患者さんを診に来たよ」

「貴殿の力を確認しに来た」

「さて、早速魔力の量を確認しようかの。すっからかんのときにこの高位魔力回復薬を飲むと1,000回復するんじゃ。普通の魔法使いならそれで全回復なんじゃが、アカデミアの研修生ならそれを2瓶、教師となると3瓶から4瓶は必要となる。ちなみに聖女様は全回復に6瓶が必要だったの」


 6瓶! なんて恐ろしい!

 わたしは先ほどの味を思い起こして震えました。

 聖女様……すごいです。わたしには飲めそうにないです。


「ということで、もう1瓶飲もうか。大丈夫、まだまだあるから!」

「ええっ!」


 ニコニコ笑いながら恐ろしいことをおっしゃるのはベッカリア医師。


「2瓶飲んで一旦計測、それでぴったり2,000なら、もう1瓶追加して計測だよ。頑張ろう、ルチアちゃん!」


 頑張れそうにないです!

 思わずぶんぶんと首を振りましたが、ベッカリア医師たちは非情でした。


 結果、わたしは4瓶飲む羽目になったのでした……。口直しが欲しいです、切実に。

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