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ルチア、結婚について慌てる

「ガイウスさんが戻ってきたら、挨拶を済ませて王都に帰ろう。あ、その前にハサウェスに寄らないと」

「ハサウェスに?」


 セレスさんの口から懐かしい故郷の名前が出てきたので、わたしは驚いて訊き返しました。


「うん、あんまりにも君が見つからないから、藁にも縋る思いで君のお父さんとお母さんのお墓にお願いしてきたんだ。今後決してひとりにしないから、君に会わせてくれって」


 少し照れくさそうに、セレスさんは笑います。「だから、見つかった報告とお礼をしなくちゃ」って言われて、わたしになにが言えるでしょうか。

 こみあげてくるのは、喜びと申し訳なさです。そこまで苦労をかけてしまったのだという気持ちと、同じくらい強くそれほどまで探してもらえたのだという気持ちが、ぐるぐると渦を巻きます。


「あのさ、本当は王都に戻ってからのがいいのかもだけど、ハサウェスはルチアの故郷だし、ここの神殿で籍を入れるのもいいかな、とか思うんだけど……ルチアはどう思う? 早めに俺の奥さんになってくれますか?」


 奥さんの一言で、顔に熱が集まります。もう、一生結婚することはないだろうと思っていただけに、一番好きな人の奥さんになれるということが、とてつもなく嬉しいです。

 ……あ、ちょっと待ってください。なにか忘れてる気が。そう、結婚することはない……そうです! 結婚できないんですよ、わたし!


「待ってください!」


 セレスさんを会話をしていたわたしは、はたとそのこと・・・・に気づきました。

 奥さん。それは、セレスさんと結婚すればそうなると思っていましたが──


「セレスさん……わたし、どうしましょう!」

「ルチア?」


 一転して真っ青になったわたしに、セレスさんは怪訝そうな顔をしました。


「奥さん……なれません!」

「ええっ!?」


 半泣きのわたしでしたが、それ以上に慌てたのがセレスさんでした。


「な、なんで!? え、俺嫌われた!? やっぱダメ!?」

「違います! 嫌いになんてなりません! そうじゃなくて、わたし……戸籍が」


 公には死者となっているわたしは、唇を噛みしめつつ、小さな声でそれを告げました。“ルチア”は死んだものとして処理されているなら、今のわたしはいわば亡霊です。結婚することはできないんです。

 嬉しかった気持ちに冷水をかけられたようで、わたしはしょんぼりしました。誰よりも大好きな人にもう一度会えて、お互いの気持ちを確かめられたのに、わたしはセレスさんの奥さんにはなれないのです。


「ああ、そのことか」


 ですが、わたしの発言を聞いたセレスさんは、ほっとしたように破顔しました。ぽかんとしていると、セレスさんは優しい口調で説明してくれます。


「大丈夫、君はちゃんと生きてることになってる。エドアルド陛下が直々に手配してくれているから」


 セレスさんの説明を聞いたわたしは、安堵のあまり再び泣いてしまい、セレスさんを別の意味で困らすことになりました。泣き止むまで抱きしめてくれたのが嬉しくて、さらに泣いてしまったのはナイショです。


     ※ ※ ※ ※ ※


 わたしが泣き止んでしばらくすると、村長さんと共にガイウスさんがやってきました。


「今までありがとうございました」


 わたしは目元を冷やしていた布をタライに戻すと、村長さんに向き合って、深々と頭を下げました。この数ヶ月、この村であたたかく迎えてもらったことを感謝すると、村長さんはにっこりと笑みを深くします。


「なにやら訳ありのお嬢さんだとは思ったけれど、まさかグイドが連れてきたのが“竜殺しの英雄”様の奥さんだとはね」


 ふふふとおかしそうに笑う村長さんに、わたしは顔を赤くしました。「まだ奥さんではないです」と、小さな声で訂正するのが精一杯です。


「本当に、皆さんで彼女を守ってくださって、ありがとうございました。なんとお礼を申し上げていいかわかりません」


 わたしに寄り添うようにして立つセレスさんも、同じように頭を下げます。


「私はなにもしてないよ。お礼を言うならオルガたちに言っておくれ」

「はい。出立前に改めてお礼をしたいと思います」


 本当に、オルガさんたちにはどれだけ頭を下げても下げたりません。絶望して“ただ生きている”だけだったわたしに、色々世話を焼いてくれたのは誰でもない、オルガさんでした。

 そんなオルガさんたちとお別れをする日がくるとは思ってもいませんでしたが、さよならをする前にきちんとありがとうと伝えたいです。

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