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ルチア、状況に戸惑う

「ノッテ……その、どういうことなの?」


 オルガさんの困惑した声に、わたしはハッと我に返りました。迎えに来てもらえたのが嬉しくて、ついあたりの状況を忘れてしまいましたが、今はお祭りの真っ最中だったんですよ!

 見ると、祭りの楽の音は止まり、村の人たちの視線はわたしたちに集中していました。それもそうですよね。わたしが村人でも見ちゃうと思います。


「あの、この人たちは」


 どう説明していいのかわからず、わたしはあたふたとしてしまいました。

 わたしの名前はノッテではないこと。二人はわたしを探しに来てくれた騎士だということ。それを伝えるためには、どうしてこんなことになったのかを突っ込まれる気もします。なにから話していいのか、またなにまで話していいのか、判断がつかずにぐるぐると思考だけが巡ります。


「はじめまして、ご婦人。村の皆さんも、お祭りの最中に乱入してしまってすみません。私はバンフィールド王国騎士団の……」

「“竜殺しの英雄”様!?」


 わたしを抱えたままのセレスさんが名乗ろうとすると、オルガさんの後ろからビーチェさんが心底驚いた声を上げました。ビーチェさんの声に、ざわざわと村の広場がざわついていきます。

 そうでした、グイドさんの奥さんであり、王都に住んでいるビーチェさんは、第三隊の隊長であるセレスさんの顔を知っているのです。


「ご存知の方もいらっしゃったようですね。ご指摘の通り、私は第三隊の隊長を務めさせていただいております、セレスティーノ・クレメンティと申します。彼女がこの村で匿われていると窺ったので、迎えに来た次第です」


 そう言うと、セレスさんはわたしを抱えたまま、ビーチェさんをはじめとする村の皆さんに会釈をしました。爽やかな笑顔で如才なく挨拶するセレスさんは、なんだか別人のようです。これが公の態度なんでしょうか。“竜殺しの英雄”として表舞台に立つセレスさんを知らないわたしは、なんだかそのギャップにドキドキしてしまいます。


「まさか、彼女が……聖女様?」

「え?」

「なんだあ?」


 お子さんを抱きしめたまま悲鳴を上げるビーチェさんでしたが、驚きの声を上げたのはなにも彼女や村の人たちだけではありませんでした。セレスさんやガイウスさんもまた、わたしを聖女だというビーチェさんの発言に驚きを隠せないようです。


「なんでも……アールタッドでわたしとセレスさんのお話が劇になってるみたいで。殿下……いえ、今は陛下なのだそうですね、陛下やマリアさんもそれを公言されてるって、ビーチェさんから聞きました」

「なんだそりゃ!」


 少し恥ずかしく思いながら、わたしは二人に説明しました。そんなわたしの説明に、ガイウスさんが大声をあげます。当事者であるセレスさんは言葉もありません。


「なんだ、王都はそんな面白いことになってんのか」


 面白い……んでしょうか?

 正直、なにがなんだか、わたしにもわかっていません。ついさっき聞いたばかりな上、突然に事態が動きすぎて、消化しきれていないんです。陛下が退位され、殿下が即位されたこと。王立劇場でわたしとセレスさんのお話が上映されていること。それにびっくりしていると、まさかのセレスさんとガイウスさんの登場なんですから、怒涛の出来事に目を丸くするしかないですよ。


「よくわからないけれど、そうみたいです。ガイウスさんたちは聞いてないんですか?」

「嬢ちゃんがいなくなってから、ずっと国内を回ってたからそこまでは知らねぇなあ。途中で譲位の話は知らされたが、さすがに王立劇場の話までは知らん」

 なんでもないことのようにガイウスさんは言いましたが、その言葉にわたしは胸を突かれました。

 ……探していて、くれたんですね、ずっと。あの日から。

 苦しい思いをしていたのは、わたしだけじゃなかったです。

 旅から戻ってきたばかりだというのに、二人とも、すぐにずっとあてどもない旅を続けていたんだなんて。


「まぁ、二人は積もる話もあるだろうし、あとはおっさんに任せてあっちに行っとけや。セレスティーノ、オレは村長と話つけとくから、それまで嬢ちゃんと話しとけ。あ、すぐ戻るから理性保っとけよ?」

「わかってますって。じゃあ、すみませんが後よろしくお願いします。ルチア、どこか話せる場所ある?」

「あ……わたしがお借りしているお家が」

「そこに行こうか。では、一旦失礼します」


 再び頭を下げると、セレスさんはわたしを抱えたまま歩き出しました。


「自分で歩けるので、下ろしてください」

「君がいるって感じたいからダメ」


 別に怪我をしているわけでもないので歩けると主張してみましたが、セレスさんはにべもなく却下します。


「ようやく見つけたんだ。手を離したらまたどこかに隠されそうで怖いから、今はこのままでいて? 君に触れていることが嬉しいんだ」


 そんなことを言われて、嫌だなんて言えません。むしろ喜びが胸を満たしてしまい、わたしはなにも言えなくなりました。


「わたしだって……こうやってもう一度触れられて嬉しいんです。だから、そんなもっと嬉しくなるようなこと、言わないでください」

「……っ、ルチア、そんな俺の理性を試すようなこと、言わないで……。えっと、家はどっち?」

「むこうです」

書籍は9月12日にアリアンローズ様から発売されます。

イラストレータ様はICA様になります。

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