セレスティーノ、探索する
副団長への疑惑の芽は確信に変わりつつあったが、彼の行方は依然として知れなかった。
──もちろん、ルチアの行方も。
副団長が姿を消したのは、ルチアが謁見の間へ向かうよりも先のことだったというのが判明したのが、唯一の成果だったろうか。
口の中に金臭い味が広がって、俺は自分が唇を噛みしめていたことに気づく。
そんな成果などいらない。君が見つからないのなら、どんな成果も意味がない。
「とにかく、一度戻りましょう。他の情報があるかもしれません」
無人の執務室を確認してきた副官殿が、慰めるかのような口調でそう言った。たしかに、城門の出入り等で目撃証言があったかもしれない。
一縷の望みをかけ、俺たちは元いた部屋へ戻ることにした。
──まさか、そこで恐ろしい事実を聞かされるとは思わずに。
元の部屋では、すでに皆勢ぞろいしていた。足を踏み入れると、難しい顔をした団長が立ちあがって足早にこちらへやってくる。
「セレスティーノ……悪い知らせだ」
団長のセリフとともに、憔悴した様子の殿下と、その胸で泣く聖女様の姿が目に飛び込む。
……どういうことだ。
「一足遅かった。フロリードは、ルチアさんを連れて隠し通路から外に出たようで、轍の後を追ったのだが……」
嫌だ。
「途中で見失った。今、ガイウスたちが痕跡が消えたあたりを探している。──あいつはそういうことのプロだ。今までも」
嫌だ。
聞きたくない。
団長がなにか喋っているのがわかるのだが、音が耳に入ってこない。
「アストルガ家は、別名“黒の御者”。王命によって秘密裏に人を処理する」
嫌だ!
「どこに……っ」
気が付いたら、叫んでいた。
「見失ったのはどこですか! 行先に当てはないんですか!?」
「セレスティーノ」
噛みつくように叫んだ俺に答えたのは、団長ではなくエドアルド殿下だった。
「先ほど、父上を問いただした。──すまない。すまない……っ」
血を吐くような声で謝罪を口にすると、エドアルド殿下は頭を下げられた。殿下をかばうように団長は前に出ると、茫然としている副官殿と、言葉をなくしている俺の前までやってきた。
「今、私の独断で王都に待機している分の第二隊隊員を動かした。ガイウスとエリク君は彼らと一緒に城外の探索に当たっている。きみたちも行くだろう? 呆けている場合ではない。私が案内する。急ぐぞ!」
※ ※ ※ ※ ※
団長に率いられ、俺と副官殿はアールタッド城を後にした。
外はすでに視界が効かないほど真っ暗になっており、魔石ランプの灯りを頼りに馬を走らせる。
「もう少し先で街道と合流する。そこからは様々な痕跡が混じっていて、フロリードがどの方向へ行ったのかがわからなくなった。天晶樹の浄化の知らせを方々に放ったことが裏目に出たんだ」
天晶樹が浄化され、魔物が消え去ったという一報は、城にもたらされると同時に各地に広げられたそうだ。実際、第三隊、第四隊の隊員は、ほぼその任務で出払っていた。
街道を通る馬車や馬の跡が限られていた頃と違い、一気に新しい轍や蹄の跡が増えたため、どれが副団長のものかがわからないらしい。
彼女がその力と引き換えに護ったものが、今彼女を追い詰めている。
そんな馬鹿な話があっていいはずがない。彼女がなにをした? 身を削り、世界を護り、その結果が──これなのか?
「ルチア……」
引き裂かれるような胸を痛みを抱えながら、俺は馬を駆った。
空が明るくなっていく。視界が開けていくというのに、彼女は見つからない。
途中で第二隊の隊員と思しき人物に会った。隠密行動が多い彼らは、あまり人前に姿を現すことがないが、団長が共にいるせいか向こうから声をかけてくる。
「目的の者はまだ見つかりません。近くの街へはクアットロを向かわせました」
「わかった。トレ、セディチは?」
「クアランタと共にバチスとの国境方面に向かっています」
「なら、私たちはガリエナとの国境の方を探索する。ガイウスとエリク君はどちらの方向へ?」
「魔法使い殿たちなら、ヴェンティたちを連れてアクイラーニの方向へ。あちらの方には、副団長の領地がありますから、人数を割いています」
隊員から情報を引き出すと、団長は手綱を引いて馬首をこちらへ向けた。
「行こう! もうすぐ夜が明ける」