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セレスティーノ、アストルガを探す

「アストルガ副団長が行きそうなところは、訓練所か執務室でしょうか。私は執務室へ行きます。セレスティーノ殿は訓練所を覗いて来ていただけますか? あまり出歩かない人ですし、うまく会えるといいんですが……」

「わかりました!」


 隣で走りながら、副官殿が告げる。訓練所なら控室も近い。謁見の間の警備を任されていた第一隊の隊員も併せて捕まえられればいいのだが……。

 副官殿と別れて訓練所の方向へ疾走する俺に、行きかう人々が目を丸くする。王宮内を走るなんて、騎士としてあるまじき姿だとはわかっている。だが、今は非常事態だ。ルチアの無事が確認できなければ、到底落ち着くことなどできない。


 ルチア。君は一体どこへ消えたんだ? 今、どんな思いでいる?


「あっ、隊長!」


 訓練所がある棟に入ったところで、部下の一人と遭遇した。間の悪いことにブリッツィだ。

 ルチアに気があるこいつは、俺の姿を見て即座に噛みついてきた。


「隊長! 覚悟はしてい」

「そんなことよりブリッツィ、アストルガ副団長を見かけなかったか!? もしくはルチアを!?」

「るんですか……って、え? ルチアさん??」


 小柄な身体で跳ねるように掴みかかってきたブリッツィだったが、ルチアという一言でぴたりと止まった。怒りを漲らせていた双眸が、スッと仕事のときの真剣なものへと変わる。


「ルチアさんがどうかしたんですか!?」


 一瞬のうちにどこまで話すか考える。第三隊うちの奴らなら信用できる。ルチアの探索を依頼しても問題ないはずだ。私用で隊員を使うことに多少良心が痛むが、今はそんな悠長なことを言っていられない。あのときの団長の剣幕はおかしい。一刻でも早く探すべきだと、頭のどこかで警鐘が鳴っていた。


「ブリッツィ。隊長命令だ。ルチアが行方不明になった。うちの隊の、手が空いている者全員でルチアを探してくれ。アストルガ副団長が行方を知っている可能性が高い」

「副団長が、ですか」

「ああ。城門はすでに手配済みだ。君たちは城内を探してくれ。ルチアを探していることは、他の隊には他言無用で頼む」


 竜討伐の際の生き残りが所属する第四隊や、ルチアが担当していた第五隊には情報が洩れても構わない気がしたが、副団長が以前所属していた第一隊や、隠密行動の多い第二隊には伏せておきたかった俺は、自分の隊員だけに頼むことにした。ルチアがこの世界を救ったことは紛れもない事実だが、まだそれは一般的に周知されていない。まだこの城内では普通の少女でしかない彼女を、総力を挙げて捜索することは不可能だった。


「副団長の執務室は、カナリス副官が探してくださっている。訓練所にはいたか?」

「いえ。僕も訓練所から来たんですが、あちらでは見かけませんでした。休憩所は確認していません。医務室に副隊長がいるので、そちらを確認がてら声をかけてきます」

「すまない。見つかったら謁見の間か、もしくはその控室まで連れて行ってくれ。そこに団長がいらっしゃるはずだ!」


 ブリッツィにキーンへの連絡を頼むと、俺は再び走り出した。


 訓練所には、ブリッツィの言う通り副団長の姿はなかった。その場にいた隊員を捕まえて先程と同じことを頼むと、俺は休憩所へと足を向ける。謁見の間の警備をしていた第一隊の隊員はそこにいるはずだった。さっき、あいつらはどんな名前を出していたっけ。たしか……バルドヴィーノと、ジェズアルド。そう言っていたはずだ。

 休憩所はさほど混んでいなかった。普通、任務がない隊員は訓練所にいることが多いので、ここにいるのは大体が第一隊の隊員だった。彼らはあまり訓練所には顔を出さない。

 入り口付近にいた隊員を捕まえて目当ての隊員の所在を尋ねると、ちょうどこの休憩所にいるということだった。


「第三隊の隊長さんがなにか用ですか?」


 現れた人物は、貴族意識に凝り固まっている人間のようには見えなかったので、少しホッとする。確かに見覚えのあるその顔は、俺が拝謁した際に入り口を護っていた隊員に間違いなかった。


「謁見の間の警備のことで訊きたい。君たちが担当している間に出入りした人間は誰がいる?」

「どうしてそんなことを?」

「理由は伏せるが、人が一人行方不明になった。エドアルド殿下直々にその人間を探している」


 殿下の名前をちらつかせると、彼らは無条件に教えてくれた。


「出入りされたのは、王太子殿下、聖女様、団長、カナリス副官、クレメンティ隊長あなたと、第五隊の隊員、それにアカデミアの魔法使いに、よくわからない少女一人ですね。少女が入った後、俺たちは交代したのでその後のことは知りません」

「その少女が出たところは?」

「見てないです。入ったところで交代だったので」

「副団長は?」


 突然元上司の名前を出されて、彼らは怪訝そうに眉をひそめた。


「副団長は出入りしていませんよ? 殿下と一緒に陛下がお見えになって以来、先ほど挙げた人物以外の人間は出入りしていません」

「ああ、でも」


 片方の隊員が思い出したというように口を開く。


「僕らが交代したのって、予定外のことだったんですよね。レオポルドとアドルフォが来たのは、副団長に頼まれたからだって言っていました」

「任務の途中で交代するのなんて初めてだったんで、交代した後隊長に確認したんですけど、隊長は知らないようだったから、そこは変だったよな」

「そうそう。副団長も元は僕たちの隊長だったとはいえ、こんな風に第一隊に口出ししてくることってなかったから、なにがあったのかなって今話してたとこだったんですよ」

「……わかった。教えてくれてありがとう。助かった」


 フロリード・アストルガ。

 団長の指摘通り、かの人物がルチアの失踪にかかわっていることは間違いなさそうだった。

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