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ルチア、シャボン玉の聖女と呼ばれる

「まさか、こんなところで会えるなんて……! いいえ、今はルフが先決ですね! お待ちください!」


 わたしを“シャボン玉の聖女”と呼んだ騎士様たちは、攻撃の手を休めたルフに斬りかかっていきました。どうにか立ち上がったアカデミア生さんたちも魔法で追撃をしていきます。

 よかった、先ほど鉤爪で弾き飛ばされた方も意識を取り戻したようです。多少フラフラとしていらっしゃいますが、再び杖を構えたのが見えました。


 騎士様が剣で斬ったところを、アカデミア生さんが風で斬り裂き、さらに氷の槍を突き刺していくのです。それは、すごい勢いでした。


「ピィイイイイイッ」


 途切れない攻撃に反撃することもなく、まさに絶叫といった悲鳴をあげて、2頭のルフがどう、と続け様に地面に倒れました。

 え……倒した、のですか……⁇

 幾本も氷の槍を刺したまま、伏して動かないルフの姿に、わたしをはじめとするホールの人たちは息を飲みました。


「死んだ……のか?」

「助かった、の?」


 囁き声は、すぐに爆発するような歓声に変わりました。

 ホールを揺るがすような大きな歓声を向けられた騎士様は、ルフが完全に動かなくなったことを確認すると、おもむろにわたしの方へやってきました。

 アカデミア生さんたちは、鉤爪を受けた一番怪我のひどい方を気遣っていらっしゃるようです。比較的怪我の軽いおふたりが、両脇から抱えるように立ち上がる彼を支えているのが見えました。


 皆さん、頭や口の端から血を流していらっしゃいます。細かな傷もたくさんあるし、かなり痛そう……早く手当をしていただきたいです。


 しかし彼ら--特に騎士様の方は、自分の状態は気にかけていないようでした。


「あの--助けていただいて、ありがとうございました」


 目の前にいらした騎士様に、わたしはかすれる声でお礼を告げました。

 すると騎士様たちは首を横に振られます。


「いや、オレらこそ怖い思いをさしてしまってすまなかった。しかしシャボン玉の聖女、まさかあなたが王城にいるなんて……」

「今も、あのときもあなたに助けられました。お礼を言うのは僕たちの方です。ありがとうございます」


 2人の騎士様は口々にそうおっしゃいました。

 そういえばセレスさんに初めて会ったときも同じ会話を交わした覚えがあります。なんでも竜を倒した帰りにわたしと遭い、服の洗濯だけでなく心の洗濯もしたのだとか。……正直、服を洗濯した覚えはありましたが、心の方はわたしの魔法の効果なのはわかりませんでした。

 ですが、セレスさんだけでなく、騎士様たちもおっしゃるのなら、きっと勘違いなどではなく、そういう効果もあったのでしょう。ショボいやらショボくないやら、我ながらよくわからない魔法ですね。


「あのときはお礼のひとつも言えず、申し訳ありません。僕たちは、ずっとあなたに感謝していたのです」


 そういうと、2人の騎士様はわたしの前に跪き、右膝をつき深く頭を垂れる騎士の礼を取りだしました。

 この体勢は見覚えがあります。魔法のお礼を言ったときのセレスさんです。セレスさんと同じっていうことは……!

 わたしは慌てて手を背後に隠しました。同じ轍は踏みません。あれは恥ずかしすぎます!

 恥ずかしいといえば、“シャボン玉の聖女”ってなんですか! 恥ずかしすぎますよそれも!


「やめてください! あの、立って! そんな礼を尽くしてもらうようなこと、してません!」


 わたしは恥ずかしさもあり、同じようにしゃがみました。騎士様のつむじを見下ろすような格好は、なんだか偉そうでいたたまれません。


「聖女、どうか再びあなたの力を我らに。もしよければ、その魔法でオレたちの助力を」

「えっ!」

「見たところ、その魔法は魔物を足止めというか、敵対心をなくすような効果があるようです。獰猛なルフがまるで普通の鳥のようだった。あんな魔法は聞いたことがないです」


 そう言われると、たしかにおとなしくなったルフは、なんだか大きいだけで普通の鳥のようでした。攻撃をするより鳴くだけで、あっさりと倒されたというか……。


「本来なら守られるべき立場のあなたにこんなことを頼むのは間違っています。ですが、1年前の竜討伐の痛手のせいで、今の騎士団もアカデミアも戦力が足りないんです。危ない目には遭わせません。効果がないとわかればすぐ城にお連れします」

「あなたは必ずオレたちが守る。だから、力を貸してくれ!」

「そろそろオーガたちが射程圏内に入る頃だと思います。試すだけでいいので、お願いします!」


 真剣な声に、わたしは少しひるみました。

 正直怖いです。できたら皆と一緒にホールで隠れていたい。

 けれど、もし“シャボン”が役に立つのなら。この力でキッカさんを、ロッセラさんを、ジーナさんジーノさんを、皆を守れるなら。

 そしてお城のどこかで戦っているでしょうセレスさんの助けになるなら、少し勇気を出してみようと思うのです。


「あの、お役に立てるかわかりませんが……よろしくお願いします」

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