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セレスティーノ、奔る

だいぶ間が空いてしまってすみません。

ちょっと更新ペースは落ちますが、再開します。

 俺は、胸騒ぎを抱えて走った。行く先は謁見の間。今、ルチアはそこにいるはずだった。

 本来なら走るわけにはいかない廊下を全速力で駆ける。後から叱責されるのは覚悟の上だ。反省文くらいならいくらでも書いてやる。過保護かもしれない。彼女にはなにもないかもしれない。だけど、顔を見なければ安心できない。彼女の声を聞かないと落ち着けないんだ。


「中っ……」

「はっ!?」


 謁見の間までたどり着くと、俺は中の様子を確かめようと、扉の両脇を守る第一隊の隊員に声をかけた。上がった息のまま問いかけようとして、思いとどまる。


「……交代したのか?」


 扉の脇にいた隊員は、俺が拝謁したときの面子とは代わっていた。


「え? ああ……僕たちは少し前に交代したけど。それがなにか?」

「今、この中にル──ああ、ええと……女の子、いますか?」


 俺の言葉に、彼らは怪訝そうな様子で顔を見合わせた。


「いやぁ……特に今は拝謁者いないっぽいけれど」

「ああ。さっき陛下は出て行かれたし。その後も誰も出てきてないから、多分中は無人ですよ」


 彼らが振り返る先にある重厚な扉。

 俺は耐えられなくなって、彼らを押しのけるようにしてドアに手をかけた。


「ちょっと……!」

「クレメンティ隊長!?」

「ルチアっ……」


 バンッと勢いよく開いたドアがたてる音と俺の呼び声は、無人の広間に響いた。


「ルチア……?」


 誰もいない広間に、一瞬にして血の気が引いた。謁見の間から俺たちのいた控室までは他に道はない。すれ違う可能性はなかった。つまり、彼女が戻ってこなかったということは、誰かに連れていかれたということだ。ルチアが挨拶もせず、自分の意思でどこかに行くはずはない。


「陛下が出られるとき、他に誰がいた!?」

「ひ……ッ!」


 突発的に近衛隊員の一人を締め上げる。相手が貴族の子息だとかは頭になかった。


「誰もっ! 誰もいない! いなかった! お付きの人間もついてなかったからおかしいなって思ったんです!」

「その前はっ!?」

「よせ、僕らは知らない! バルドヴィーノとジェズアルドからはなにも引き継がなかった! だからレオポルドから手を放せ! いくら第三隊の隊長とはいえ、貴族の僕らに手をかけてただで済むと思うな!」


 もう一人の方が力づくで引き剥がそうとするのがわかったが、実力と関係なく騎士になった第一隊の隊員に負けるほどやわではない。横目で睨むと、とたんに口をつぐんだ。


「前後の出入りについて引き継がなかったというのか!?」

「そ、そうだ……。交代してしばらくしたら陛下お一人が出ていらした。その後ここを出入りした人間はいない。なぁ、これで満足だろう!? レオポルドを放せよ……」


 よほど鬼気迫る形相をしていたのだろう、最初食ってかかってきた方が、たじたじと答える。


「セレスティーノ殿!」

「おい、先走るな!」

「ちょっと、セレス! 足速すぎ!」


 役に立たない近衛隊員を締め上げて吐かせようとしていると、バタバタという慌しい足音と共に、背後から聞きなれた人間の声がした。カナリス兄弟と聖女様だ。


「ルチアは!?」


 聖女様の問いかけを、俺は無視した。それどころではなかったからだ。


「前任者はどこだ?」

「た、多分控室……」

「ちょっとセレス!」


 ルチアの手掛かりを求めて走り出そうとした瞬間、咽喉にものすごい衝撃が走った。


「ちっと落ち着け。なにがあった。嬢ちゃんはどうした。一人で先走ってどうする」

「ちょっと兄さん! やり方を考えてください!」

「ガイ、ナイスアシスト! で、セレス、ルチアどこよ!?」


 首に腕を回すようにして止められたため、しばらく空気を求めて噎せる俺の背中を、困り顔の副官殿が撫でる。その脇で苛立ちをあらわにする聖女様に、俺はかぶりを振った。


「わかりません。中にはいないんです。第一隊の隊員も出入りを見ていないそうなので、見ているはずの前任者に誰に連れて行かれたのかを確認してきます」

「おい、ちょっと待て、連れて行かれたって……」

「ここまで彼女とすれ違わなかった。わかるでしょう? あの部屋から謁見の間までは一本道だ。反対側に行ったとして、俺に──俺たちになんの挨拶もなく行くはずがない。自分の意思で移動したんではない以上、連れて行った誰かがいるはずなんだ!」


 こんな風に説明している時間も惜しいのに。そう思いつつ状況を説明し、俺は再び走り出そうとした。


「ルチアがいないというのは本当か、セレスティーノ」

「殿下!」


 聖女様たちに遅れる形で現れたのは、団長に付き添われたエドアルド殿下だった。さらに遅れてエリク殿がやってくる。


「きみたち、どういうことか説明してもらおう」

「はっ!」


 エドアルド殿下や団長が現れたことで、さすがの第一隊の隊員も居住まいを正した。尋ねる団長に、一礼して答えだす。


「クレメンティ隊長がどなたかをお探しなのですが、僕らが交代してからこの部屋を出たのは陛下だけでして──」

「私たちも交代したばかりでよくわからないのです。前任の者からは特に申し送りなどは受けておりません」


 ふにゃふにゃとした隊員の返答を聞いた団長の顔色が、目に見えて変わった。


「フロリードはどこにいる? セレスティーノ、前任者よりもアストルガを探せ!」

「えっ……!?」


 思いもよらない人物の名前に虚を突かれていると、団長は副官殿たちに指示を飛ばし始めた。


「レナート、大至急フロリードの身柄を押さえろ! エリク君、ガイウス、きみたちは念のため城門を確認するんだ! 団長命令だと言えば城門は一旦閉じられるはずだ」

「団長さん、それってどういう……」

「説明はあとだ。セレスティーノ、きみはレナートと一緒にアストルガを探せ!」


 気色ばむ団長に疑問を感じる暇もなく、俺にも指示が飛ぶ。そのやり取りをご覧になっていた殿下がスッと手を上げると、口を開かれた。


「フェルナンド、マリア、君たちは僕についてこの部屋に入ろう。ああ、君たちは下がってくれていいよ。今すぐね」

「殿下……僕たちは」

「僕はすぐに下がれと命じたはずだけど? 非常事態なものでね、他人にいられては困るんだ」


 殿下にすげなく追い払われ、こちらをちらちらと見ながら扉を守っていた第一隊の隊員が去っていく。


「セレスティーノ殿、行きましょう!」


 何故副団長を探す必要があるのか。理由もわからないまま、俺は先に走り出した副官殿の背中を追いかけた。

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