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セレスティーノ、不安に駆られる

「ルチア、遅くない?」


 最初に口火を切ったのは聖女様だった。それは言われるまでもなく俺が感じていたことで、俺たちが要した謁見時間を軽く超える彼女の時間に、迎えに行った方がいいのかどうか逡巡している最中のことだった。


「ちょっと見てきます」


 謁見の間に踏み入らなければ大丈夫だろうと、俺は腰を上げた。なんとなく胸騒ぎがしていたのは、先程の謁見内容の影響だろう。


 ──彼女とでは釣り合わぬ。そなたには、そなたに相応しい相手を用意している。


 ルチアとの婚姻を願う俺に対して陛下が口にされた言葉は、最後には撤回されたものの、やはり不安を掻き立てるものだった。

 最初それを聞いたとき、ああやっぱりと思ったのは、彼女が聖女と祭り上げられることで王太子殿下の相手として選ばれるのではないかと心配していたせいでもある。元の世界へ帰られると宣言されている聖女様と、この世界の聖女であるルチアなら、ルチアを王太子妃にと決められる可能性が高かったからだ。

 元々“聖女”を外交カードとして使おうと考えていらっしゃった御方だ。元平民の騎士風情に聖女であるルチアの夫の座を許されるわけもなかったが、この旅の報奨としてしつこく願うと、しぶしぶながら赦しが得られた。

 そのまま拝謁の時間は終わって戻ってきたのだが……なんだろう、なにかひっかかる。


「あたしも行く!」

「いえ、聖女様はこちらに」


 押しとどめようとする俺に、聖女様は結いあげた髪が崩れるのも気にせずに首を振った。元から色が白い顔が、もはや蒼白に近い色になっている。


「いやよ! なんか怖いの。さっきの謁見も、なんか微妙な回答しかもらえなかったし、なにか企んでそうで怖いの」

「企む?」

「マリア、父上からなにを言われた?」

「そなたの希望は聞いている、そなたの希望を叶えようって。最初、帰ることを叶えてくれるってことだと思ったの。でも、なんかあのうすら笑いを思い出すと、もしかしたら違う意味で言ってたのかもって。ルチアが早く帰ってきてくれれば単なる勘違いって思えるんだけど、あまりにも遅くて怖いの」


 不安げな表情を浮かべる聖女様に、殿下が詰め寄る。殿下に肩を抱かれるようにして、聖女様は陛下から賜ったお言葉を繰り返したのだが、企んでいるという言葉を聞いた俺は、なにか得体のしれないものに胸を突かれたような気分になった。


 違う意味。そうだ、俺はなにか思い違いをしていたかもしれない。

 先程、陛下はルチアを王太子妃にするのを諦め、俺との婚姻を認めてくれたのだとそう思っていたが、もし、そうでなかったとしたら?

 なにしろ、対外的に“聖女”はマリア・ニシメ様お一人とされている。突然ルチアを聖女だと報告し、そのまま王太子妃に据えるのは、時間的にも感情的にも無理がある。

 そう──それは無理があるのだ。


 ──彼女とでは釣り合わぬ。そなたには、そなたに相応しい相手を用意している。


 耳に蘇った陛下のお言葉に、俺は弾かれるように顔を上げた。


「すみません、殿下。団長。俺ちょっと行ってきます!」


 あのとき、俺は聖女であるルチアに一介の騎士である俺が釣り合わないのだと思った。

 だが、俺に・・ルチアが釣り合わないということだったら?


 考えすぎかもしれない。だが、今すぐ彼女の顔を見ないと安心できそうもなかった。

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