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ルチア、再び王様に会う

 その後、わたしたちは順々に謁見の間へと向かいました。ガイウスさんが戻ってくれば、とうとうわたしの番です。人生で二度も陛下に拝謁が叶うなんて思いもしませんでした! 緊張しますが、二度目のせいか、はたまた旅を終えて多少なりとも成長したのか、最初のときほど戸惑いはしません。

 見送ってくれる皆さんに会釈をすると、わたしは呼びに来た方に連れられて謁見の間へ急ぎます。


「あ」


 謁見の間へたどり着くと、いつぞや見た重厚なドアの前に、これまた見たことのある姿を見つけました。アストルガ副団長です。アイスブルーの鋭い眼差しは記憶にある通りですが、なんだか様子がおかしいような気もします。


「ご無沙汰しています」

「……ああ」

「どうかなさったんですか?」

「…………」


 首をかしげるわたしに、アストルガ副団長は少し逡巡した様子を見せます。


「……ルチア嬢」

「はい」

「身の程を知るように」

「え?」

「……行くぞ、陛下がお待ちだ」


 厳しい言葉を投げかけると、ゆるく首を振ってアストルガ副団長はドアを開けました。身の程を知るようにって、どういうことですか?? やっぱりこの服装がいけなかったんでしょうか!?


「ルチア・アルカ、御前へ」


 困惑したまま足を踏み入れると、謁見の間は以前入ったときより人がいませんでした。陛下と、わたしと、アストルガ副団長だけ。人払いでもしているんでしょうか。アストルガ副団長の言葉といい、なんだか腑に落ちない気持ちを抱えつつ、わたしは陛下の前へ足を進めました。


「そなたに訊く。能力を失ったとはまことか」


 御前にたどり着くと、陛下からお言葉をいただきました。これは直答してしまってもいい……んですよね? アストルガ副団長は知らないわけですし。身の程を知れと言われていますが、陛下のご質問に答えない方が失礼に当たります……よね?

 そう自分に結論付けると、わたしは勇気を出して口を開きました。


「はい、そうです、陛下。あの力はもうありません」

「たしかか」

「エリク……エリク様に幾度となく測っていただきましたが、わたしにはもう魔力が残っていないそうです。天晶樹の浄化とともに消えたのだと言われました」

「……そうか」


 重々しい陛下のお声に耳を澄ましていると、思いもかけないことを問われました。


「“竜殺しの英雄”との婚姻を望んでいるというのは本当か」


 一瞬返答に詰まりました。“身の程を知れ”。先程の言葉はこのことだったんでしょうか。

 けれど、否定する言葉はわたしの中にはありませんでした。わたしは、これからの人生をセレスさんと生きたい。セレスさんと、家族になりたいんです。それは、誰がなんと言おうと譲れない願いでした。


「はい。本当です」


 頷くわたしに、深い深い溜息とともに沈黙が返されました。反対されていると、肌で感じられる空気が流れます。アストルガ副団長だけでなく、陛下もわたしのことを身分知らずだと思っているようでした。


「ならぬ、と言っても聞かぬのか」


 しばらくの静寂の後、陛下は乾いた声で尋ねられました。改めて言葉で突き付けられると、その言葉は胸に刺さります。ですが、ひるんではいられません。セレスさんとの未来を望むなら、わたしは逃げてはいけないんだと思うのです。


あれ・・はそなたには釣り合わぬ。英雄の配偶者はそれなりのものでないといけぬのだ。調べさせたが、そなたの血筋に魔法使いは他におらぬ。エドアルドの報告からも、そなたの能力は特殊で、単発的なものだと推測される。元々魔力持ちは生まれにくい。娶わせて、能力のある者が生まれる可能性が低い相手を赦すことはできぬ」

「申し訳ありません、陛下。ですが、どうしてもお赦しをいただきたいのです」

「金はいくらでもやろう。諦めることはできぬのか?」

「お金は……いりません。わたしが望むことはただ一つです」


 陛下のお言葉の一つ一つが胸に刺さります。どうして、どうしてこんなにも反対されるのでしょうか。たしかにわたしは平民で、セレスさんは騎士団隊長です。身分的に釣り合わないと言われても仕方ないですが、それでも陛下に却下されるほどでもないと思うんです。

 陛下のご命令に従って旅に出て、ご命令通り目的を果たしたことに対して、少しも認めてはもらえないのでしょうか。身分って、そんなにも乗り越えられないもの? 騎士とはいえ、セレスさんだって元は平民です。そんな相手でもダメなんでしょうか。


「お願いです。他にはなにも望みません。どうかお赦しを」


 思えば勝手に入籍することも可能だと思います。神殿に駆け込んで、結婚証書を発行してもらえれば、わたしは“ルチア・アルカ”から“ルチア・クレメンティ”に変われるはず。

 けれど、セレスさんの職業上、王の勘気を蒙るのは得策ではないと考えたわたしは、ただひたすらに頭を下げてこいねがいました。お願いです、陛下。どうか、認めてください……!


「報奨金を持って故郷に帰るのではいけぬのか」

「申し訳ありません」

「そうか。──そなたの覚悟はよほど固いと見える」


 諦めたように、陛下は溜息をひとつ落とされました。

 安心しかけたわたしでしたが、けれど、それは間違いでした。


「フロリード、“黒の馬車”を用意せよ」


 馬車??


「…………御意」

「陛下!?」


 思わず顔を上げると、痩せ衰えた陛下のお姿が目に飛び込んできました。疲れ切ったように豪奢な玉座へ全身を預けた陛下は、感情のこもらない平坦な声で恐ろしいことを口にします。


「そなたは余の助命を受け入れなかった。力のないそなたに用はない。この世は力がすべてだ。余は、力ある者しか要らぬ。そなたになにがある? なにもないだろう。そんな者はエドアルドの傍におけぬ。英雄王エドアルドの治世には有能なものだけが必要だ。ここではない場所なら生かしておいてもいいと思ったが、そなたがあまりにも頑固なのでな、排除させてもらう」


 まったく思いもしなかった展開に、一気に血が引きました。どういうことなんですか!?

 泡を食うわたしを気に留めず、陛下は残酷な命令を下しました。


「ルチア・アルカ、そなたに──死を与える」

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