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ルチア、衣装についてもめる

「えっ、なんでソレ・・なの!?」


 わたしが部屋に入った際の第一声は、エリクくんの驚いたそのセリフでした。

 ソレっていうのは……この制服のことでしょうか? わたしは自分の格好を見直してみます。なにかおかしなところがありますかね?


「待ってルチア、なんで制服なの?」

「え、ダメなんですか??」


 セレスさんまでそんなことを言い出したので、わたしも焦りだします。用意されたので着たまでなんですが……用意されててもやっぱり制服はダメなんでしょうか。


「きみは本当に予想外のことばかりしてくれるね。すごいよ」

「これを着るようにと渡されたんですが……」


 殿下まで!

 さすがのわたしも頭を抱えてしまいました。どうしましょう。旅に持って行ったお祭用のワンピースに着替えた方がいいでしょうか。でも、ここに来る際に着てきたので、今手元にないんですよね。湯殿から出たときには脱いだものはありませんでしたし。わたしのワンピースはどこにいったんでしょう!


「マリアが来たら、順番に一人ずつ父上に会うことになるんだけど……それまでに着替える?」

「この格好がマズいなら着替えたい……のはやまやまなんですが、着替える服がありません」

「ドレスを準備させようか」


 困っていると、殿下がそう提案してくださいました。殿下が手を叩くと、先ほどこの部屋でお会いした執事のゴドフレードさんが音もなく現れます。


「ゴドフレード、ルチアにドレスを用意してくれ」

「ドレス……でございますか」


 殿下の指示に、ゴドフレードさんは困ったように言葉を詰まらせました。


「エドアルド殿下、女性のドレスというものは、一人一人の身体に合わせて作るものです」

「そういうものなのか? 母上やマリアのドレスは使えないのか?」

「聖女様もエルヴィーラ様のも寸法が合いません。しかもエルヴィーラ様のは遺品ですので、陛下がお許しにはならないかと……」

「そうか……」


 それで制服なのか、と納得した様子の殿下に、わたしはスカートの裾を撫でながら口を開きました。


「あの、失礼に値しないのならば、わたしはこの服で結構です」

「だが……」

「実質無理なんですよね? それならば着慣れたこの服の方がわたしも安心します」


 そんな話をしていたとき、部屋のドアが開いてマリアさんが入ってきました。


「おっまたせ~♪ って、ルチアなんでそんなショボい服着てるの!?」


 そう言うマリアさんは、濃い緑の豪華なドレスを着ています。宝石がちりばめられ、金糸で美しい刺繍が施された布地をたっぷり使ったそのスカートは、優雅なドレープを描きつつ片方だけ上に引き上げられ、その下から幾重にも重ねられたシャンパンゴールドのチュールが覗いています。


「すみません……」

「なに? 嫌がらせなの!? あいつらならやりそう! あたし抗議してくる! どいつよやったの!」


 色白な頬を紅潮させて怒るマリアさんを、殿下が制しました。


「待って、怒るのもわかるんだけど……マリア、きみが来たってことはあんまり時間がないんだ。すぐ父上と会うことになると思う。ルチアが着替えるためのドレスもないし、仕方ない」

「仕方ないって……あたしがドレスでルチアがそれとか、おかしいじゃん! ルチアがその服なら、あたしもドレスやめる!」

「マリアさん!」

「あたしが聖女なら、ルチアも聖女なんでしょう? なんで片方だけ優遇するの? どう見てもそれって普通の服だよね?」

「これはわたしが元々着ていた洗濯部の制服なんです。だから大丈夫です」

「制服なの? そしたらあたしも自分の制服着る! 保管してあるんだよね? 一緒じゃなきゃダメだよ!」

「マリアさん!」


 しゃらしゃらとした花飾りをむしり取ろうとしたマリアさんの手をとっさに握ると、わたしはゆっくり首を横に振りました。


「ダメです。せっかく綺麗にしたんじゃないですか。とっちゃうのはもったいないですよ」

「だって」

「元々わたしはドレスを着慣れてないし、突然着ても作法なんかわからないんです。だから、こっちの方が気が楽なんです。それに、マリアさんは“聖女”として正式に旅立ったじゃないですか。人前に立つこともあるでしょうし、このドレス本当によく似合ってますし、このままの方がいいと思います」

「ルチア……」

「ゴドフレード、他に服はないのか? ドレスでないとしても、もう少し仕立てがいいものなどがないか、確認してみてくれ」

「承知いたしました」

「マリアもルチアも、それで構わないか? 不手際があって申し訳ないが、こらえてほしい」


 そこまで言うと、マリアさんは不承不承頷いてくれました。マリアさんが頷くのを見たゴドフレードさんは、殿下に一礼するとすっと足音も立てずに退出します。


「わかった。着替えないでこのままでいる。でも、このお城の人たちってどうしてこうも意地悪いの? お城なんだし、ドレスの一つや二つ、あってもいいのに」

「わたしに合う服がなかったんですよ。ドレスって採寸してぴったり作るんですって。だからいきなり言ってもダメなんですってさっき聞きました。マリアさんもドレスを作るとき、色々測ったでしょう?」

「あー……うん、あった。でもさぁ、オーダーメイドじゃなくて既製品でドレスってないのかな~。サイズごとに準備しとくとかさぁ」


 準備が悪いよ、とぼやきつつ、マリアさんはため息をつきました。

 わたしたちを呼びに、再びゴドフレードさんがやってきたのはそんなときでした。


「陛下の準備ができました。お一方ずついらっしゃるようにとのことです。殿下におかれましては、すでに旅のご報告を済まされたということですので、こちらでお待ちくださるとのことです。また、お嬢様の衣装は、ただいま探させておりますのでもうしばらくお待ちいただけると助かります」

「わかった。では、最初にマリアが行ってくるといい。報酬やなにやらの話だと思う。マリアが帰還を希望していることはすでに伝えてあるので、その通りに申し入れて問題ないはずだ。その後、フェルナンド、レナート、セレスティーノ、エリク、ガイウス、ルチアの順で父上に会いに行ってくれ」

「エドは?」

「僕はマリアたちが身支度を整えている間に父上に会ってきた。マリアとルチアが浄化を成し遂げたことを、とても喜んでいたよ」

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