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ルチア、王宮に戻る

 結局、アールタッド城まではすごい騒ぎが続きました。ずらっと途絶えることなく人垣ができていて、けれどもわたしたちが通る道だけはスッと空いているんです。こんな光景初めて見ましたよ。いえ、ファトナでも歓迎されましたけれど、ここまでじゃなかったというか、ホントもう、規模が違う感じです。それだけ天晶樹の浄化は人々に待ち望まれていたということなんでしょうけれど、びっくりし通しです。

 そして、城門をくぐってお城へ入った後もそれは変わりませんでした。お城は許可を得た人しか入れないので(城門で身分証を提示しないとダメなんです。わたしも制服はお返ししましたが、身分証はまだ持っています)、中にいる人たちはお仕着せを着た侍女さんたち、鎧姿の兵士隊の方々、隊服姿の騎士様たち、制服姿のアカデミアの研究生たちやローブ姿の研究員たちなどなど、お城に入れる資格のある人たちが、入り口から階級順に並んで出迎えてくれていました。下働きの人たちの姿が見えないのは、お仕事中なのか、はたまたキッカさんたちのように城門の外で出迎えてくれたかでしょうか。


 お城の入り口まで、わたちたちは馬や馬車からは降りませんでした。こんな風に迎えられる側に立ったことがないので、本当に居心地悪いというか、おかしな気分です。ようやく城内に入るために馬から降りると、馬丁の方たちが無言で馬を連れて行ってくれます。うう、こんな光景、今まで見ることすらなかったのに、まさかされる側になるだなんて……!

 目を白黒させるわたしとは違って、マリアさんや他の皆さんは堂々としていらっしゃいます。普段の感情豊かな表情を隠してツンとおすまし顔をしたマリアさんは、細い顎を上げるようなポーズが堂に入っていて、まさに聖女様といった様子でした。バチス公国で合流してからずっと、比較的動きやすいワンピースを身に着けていたのが、さすがに凱旋とあってか、今は当初身に着けていた優雅なドレス姿になっています。ですがそれがまたよく似合っていて、隣でエスコートされているエドアルド殿下に引けを取りません。

 マリアさんと殿下の後に団長様がレナートさんを引き連れて歩き、その後ろにセレスさんが、そしてエリクくん、ガイウスさん、わたしと続いています。


 仰々しいまでのお迎えの列はお城の中まで続いていました。奥に行けば行くほど階級の高い方がいらっしゃいます。表にいらっしゃらなかった文官様やアカデミアの研究員の方たちが、皆一様に最敬礼をとってらっしゃる中歩くのは、小市民なわたしにとってものすごく荷の重いことでした。に、逃げ出したいです……! チラリと前を歩く皆さんを確認したのですが、わたしのように気圧されている様子は少しも窺えません。なんで皆さん平気なの!? 慣れているからですか??

 とはいえ逃げ出せるわけもなく、いたたまれない気持ちを抱えたまま、わたしは錚々たるメンバーの後を必死についていきました。当初、マリアさんの後ろをセレスさんにエスコートされて歩くという指示が殿下から出たのですが(そんな冒険できません!)、拝み倒して最後尾にしていただいたんですよね。ですが……これじゃあんまり意味がなかったかもしれません。めちゃくちゃ目立ってます。ガイウスさんの大きな身体の影に隠れるようにして歩いているんですが、ホント視線がびしばし突き刺さってくるのがわかるんですよ。そうですよね、突然人数が増えていて、侍女っぽいわたしが綺羅綺羅しいこのメンバーの後をついていたら目立ちますよね。元洗濯婦だということがわかる人は今のところ城内には見受けられないので、本当に「あいつは誰だ?」って思われていることは間違いないですね。


 いくつもの角を曲がり、ようやくとある部屋の前へたどり着きます。マリアさんと殿下がドアの前に立った瞬間、両脇に立っていた騎士様がざっと居住まいを正して最敬礼を取り、それと同時にドアが内側へ開きました。


「おかえりなさいませ、殿下。聖女様。ご無事でなによりでございます」

「うむ。マリアたちを湯殿に案内し、身支度を整えさせるように。あと、軽い食事を。彼女たちは全員が僕の“旅の仲間”であり、“救世の英雄”である。決して失礼のないようにせよ。ゴドフレード、父上は」

「陛下はすでにお待ちでございます」


 中にいらっしゃったのは老年の執事さんでした。真っ白になった髪を綺麗に後ろへなでつけたその人は、綺麗な角度でお辞儀をすると殿下へ話しかけます。いつもの表情ではなく“王太子殿下”の顔に戻った殿下は、そんな執事さんへてきぱきと指示を飛ばしました。


「僕はこれから父上へ旅の報告をしてくる。きみたちはこの部屋で待っていてくれ」


 するりとマリアさんの手を掬い上げて軽く手の甲に唇を落とすと、殿下はそそくさと部屋を出て行ってしまいました。それが合図だったように、執事さんの後ろに控えていた王宮侍女さんたちが二手に別れてわたしたちの前へやってきました。


「皆様、それではこちらへ」


 男性と女性では場所が違うようで、侍女さんたちはわたしたちを別々のドアへ案内します。けれども、ちらりと一瞬わたしに投げかけられた侍女さんたちの怪訝そうな視線に、本当に一緒に行っていいのか躊躇われました。確かに不審者ですよね。出立のときにいなかった人間が当たり前のように混じっていることに不信感を覚えるのは、仕方ないかもしれません。

 そんなわたしの逡巡を見越したかのようにさっとマリアさんが手を繋いでくれました。


「さ、行くわよルチア! 一人だけ残ろうったってそうはいかないんだからね! あんたはあたしの親友でしょ!」


 マリアさんの宣言に、案内してくれようとしていた侍女さんたちがびっくりしたかのようにわたしたち二人を見比べたのが目に入りました。


「なによ、文句あるワケ? ルチアはあたしの大事な親友なの。一緒に行ってなにが悪いの?」

「いえ、そんなことは。聖女様方、こちらへ」


 さすがは王宮侍女の方です。すぐさま表情を取り繕うと、マリアさんとわたしを奥のドアへと案内しだしました。マリアさんとわたしは、その後を手を繋いだまま歩き出します。

 セレスさんとすれ違った際、かすかに手が触れました。思わず顔を見ると、空色の瞳が優しい光を宿してわたしを見ていました。言葉にしなくても、セレスさんの気持ちが感じられてなんだか嬉しくなってしまいます。

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